食卓に欠かせない「ご飯のお供」お漬物。6月からこの「漬物づくり」のルールが変わります。衛生の基準がより厳しくなりますが、その影響は小さくはないようです。

 愛知県東部に位置する新城市。里山は、梅の収穫の季節を間もなく迎えます。

「あと20日過ぎてくると、もっと色がついてくる。完熟した梅を漬けたほうがおいしい」(梅農家 横畑昭子さん)

 梅農家を営む、横畑昭子さん(79)。自家製の梅干しや梅漬けなどを、直売所で販売しています。

「梅のまろやかさがある。昔からの漬け方がいいってことかな」(横畑さん)

 横畑さんは今年、梅干しなどを作る作業場をリフォームしました。

「ずいぶん直すのにかかっちゃったけどね。元からここで梅を漬けていた。だけど(申請が)通らないので、すべてつくり直した」(横畑さん)

 約200万円をかけたというリフォームのきっかけは、6月から全面実施となる、食品衛生法の改正です。

「生きがいだけでやっている」

梅農家 横畑昭子さん

 12年前、白菜の浅漬けを食べた8人が死亡した食中毒事件。これをきっかけに議論が進み、漬物づくりには「高い衛生基準」を満たした設備を整えたうえでの「営業許可」が必要になりました。

「このあたりの壁は、板目を張り直して、天井も日本建築の板を張り直して。カビがはえて雑菌が(発生するから)こういう合板を張って、水で洗えるようにしないといけない」(横畑さん)

 新しくなった横畑さんの作業場。シンクや手洗い場など、水回りには4つの設備が設けられました。

 保健所が確認する作業日誌にも細かく記入するなど、法改正後の基準に合わせ、横畑さんの漬物づくりは大きく変わったといいます。

「今までのお客さんやリピーターが『ほしいほしい』と言ってくれるので『やる』という生きがいだけでやっている」(横畑さん)

出荷続ける農家の数は10分の1に

6月以降も出荷を続ける農家の数は10分の1に

 横畑さんの商品も並ぶ、市内の直売所「こんたく長篠」。

「ビール漬け、わさび漬け、しそ漬けなども販売しています。こちらも農家さんがつくった商品になりますね」(JA愛知東 菊地猛さん)

 これまで50軒ほどの農家の手作りの漬物が並んでいましたが──

「許可を持たない方は出荷ができなくなるので、このコーナーも若干商品は変わると思う。許可を取れている人が、こちらが把握しているのが5人ぐらい」(菊地さん)

 6月以降も出荷を続ける農家の数は、これまでの10分の1に。

 基準を満たした設備への更新には費用がかかるため、漬物づくりを断念する農家も多いそうです。

 梅農家の柿原久哲さん。91歳になる母親が毎年つくり、直売所でも人気の商品となっていた「梅漬け」は、今年から販売をやめるということです。

「施設が適当なところが、現状ないものですから。食品衛生法が改正されたということなので、仕方なく受け入れるしかない。仕方ないですね」(柿原さん)

衛生管理と食文化…複雑な心境

JA愛知東 菊池猛さん

 長年、地域で愛されてきた「手作りの漬物」が減っていくことを惜しむ声も、聞こえてきます。

「おいしい梅干しもあるのにね。あんまり厳しいとつらいですよね、一生懸命作っている人たちからみたら」(買い物客)

「やっぱり選べなくなるのは、ちょっと残念な感じしますね」(買い物客)

「今回の法改正、衛生管理という部分では安心安全というものを皆さんにお届けすることは大事かなと思いますけど、食の文化、郷土食を守るという部分では、なかなかやるせないっていう状況ですね」(菊地さん)

クラウドファンディングで資金調達

ノウハウを広めるためクラウドファンディングを開始

 漬物づくりを続けるため、新たな取り組みを始めた農家もいます。140万円かけて作業場を改装したという大江晃正さん。インターネットを通じて支援を募る「クラウドファンディング」で資金を調達しました。

「梅干しという日本の伝統文化をしっかり守って継承していきたいという思いが強かったので、何とか続けていけるようにチャレンジした」(川売のうめりん 大江代表)

 その仕掛人となったのが、和歌山県の梅農家、山本将志郎さんです。

「梅干しを今後も作っていきたいんだけど、やり方がわからないというご相談をSNSとかでいただく機会が増えて。自分たちで考えて(基準を満たした製造所を)作ったけどすごく難しかった」(梅ボーイズ 山本将志郎 代表)

 基準を満たす製造所整備のノウハウを全国に広めたいという思いで、今年3月からクラウドファンディングを開始。

 大江さんを含む3つの事業者と連携していて、これまでに900万円以上の支援が集まっています。

「全国で梅干しって作られていると思うので、困っている方がたくさんいると思っていて、その方たちにノウハウをうまく伝えていけたらなと。全国の梅の産地でずっと守り続けてきた梅の品種があるので、梅の品種をちゃんと残してつないでいけたらなと」(山本さん)