ボルティモアのフランシス・スコット・キー橋が崩落した事故は、老朽化した橋を維持する資金と動機が不足しているという米国のインフラの難題を浮き彫りにしたと専門家は考えている。

 ボルティモアの橋は「古くて信頼性の高いインフラであり、ほぼすべての状況下で、あと20〜30年は持ちこたえるはずでした」と米ノースウェスタン大学マコーミック工学院のジョセフ・L・ショーファー社会環境工学名誉教授は話す。「ただし、主要な橋脚を引き抜いたら、橋を救う方法はありません」

 ショーファー氏によれば、ボルティモアの崩落に過失が関与していると考える根拠はないものの、過失がインフラ事故の引き金になることもあるという。その1例として、2022年1月にピッツバーグで起きたファーン・ホロー橋の崩落事故をショーファー氏は挙げた。腐食した鋼鉄製の橋脚を修理すべきだという報告と勧告が無視された結果、長さ約135メートルの橋が崩落し、バス1台と車4台が下の公園に転落したと、米国家運輸安全委員会は結論づけている。

 列車の脱線、高速道路や橋の崩落、ダムの決壊が全米で起きており、専門家は不穏な傾向だと考えている。では、インフラ災害が最も差し迫っているのはどこで、私たちに何ができるのだろうか。

橋の10分の1が損傷、多くが時間切れの状態

 毎日3万台以上の車が利用するフランシス・スコット・キー橋は連邦資金で再建される。

「ここからどうするかという意味では、橋が崩落したら、おそらく再建したいと思うでしょう。では、どのような選択肢があるのでしょう?」とショーファー氏は問い掛ける。

「今後、このような事故の可能性を極めて小さくするか、完全に排除できる興味深い設計がいくつかあります。そして、おそらくそうした新しい設計になると思います」

 しかし全米には、あまり注目されていない重要な構造物がいくつもある。

「あちこちに教訓があります」と語るのは、米国土木学会(ASCE)の会長と米国家インフラ諮問委員会の副委員長を務めるマリア・リーマン氏だ。「全米のすべての郡に、資金があれば明日にでも架けかえたい橋があります」

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