ギャンブルは歴史を通じて定期的に大流行してきたが、最新のピークは今かもしれない。きっかけは2018年、米連邦最高裁判所が「プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)」を覆したことだ。この連邦法が存在したことで、米国ではほとんどの州がスポーツ賭博を禁止していた。

 米連邦最高裁の判決をきっかけに、一夜にして、スポーツ賭博の広告がちまたにあふれた。今や、スポーツ中継だけでなく、スポーツ以外の番組やオンラインのあらゆる場所で広告を目にする。

 この判決が下されてからの5年間で米国民はスポーツに2200億ドル(約34兆円)以上を賭けており、2023年まで3年連続で民間ギャンブルの収益記録が塗り替えられた。現在、首都ワシントンD.C.を含む38州で何らかのスポーツ賭博が認められている。(編注:日本では、競馬や競輪、スポーツ振興くじなどの公営ギャンブルのみが法律で認められている)。

 かつて不道徳の象徴とされていたギャンブルだが、「ここ数十年でその烙印(らくいん)はかなり薄くなりました」とカナダのマギル大学「若者のギャンブル問題とハイリスク行動に関する国際センター」所長を務めるジェフ・デレベンスキー氏は述べている。「ギャンブルは罪や悪徳から社会的に受け入れられる娯楽に変わった結果、隠す必要がなくなったのです」

 ギャンブルはかつてないほど身近なものになっている。そして、制限を設けたり守ったりできない若者などが、重度の依存症に陥りやすくなっている。2018年以降、10代の若者が重度のギャンブル依存症に陥ったという報告が目立つようになった。ビデオゲームからギャンブルに移行する青少年が多数いるという研究もある。おそらく、どちらも同じような心理的欲求を満たすためだろう。

 ギャンブル依存症に関連する経済的や社会的なコストを最小限に抑えようと取り組むNPO「全米ギャンブル依存症協議会」によれば、2018年から2021年にかけてギャンブル依存症のリスクが30%増加した。

 業界は収益を増やしているだけでなく、米国内の手付かずの地域にも合法的なギャンブルを拡大する可能性が高く、これからも成長が見込まれる。

「誰が最もギャンブルに依存しているかと聞かれたら、私は『たいてい政府だ』と答えます」とデレベンスキー氏は語る。「彼らはギャンブル業界によってもたらされる収益にしがみついています」

消費者のニーズに応えている

 カジノは今も昔もギャンブル業界の顔だ。それに対して、スポーツ賭博に関しては、近くの賭場に出掛けたり、信頼できる胴元を探したりする必要はない。必要なのはスマートフォンだけだ。

「以前は賭場に出向く必要がありました」と米ラトガーズ大学「ギャンブル研究センター」所長を務めるリア・ノワー氏は話す。「それが今や、携帯電話で24時間365日ギャンブルが可能です。スポーツ賭博やカジノをポケットに入れ、家族との夕食の時間でも、ギャンブルに興じることができます」

 もちろん、一か八かの勝負に出ないことを選択する人はいる。その一方で、簡単に説得されて手を出す人もいる。オンラインスポーツ賭博サービス「BetMGM」や「DraftKings」などは、登録すれば気軽に始めることができ、支払いと引き出しの両方が簡単にできるよう、PayPal(ペイパル)をはじめとするさまざまな決済サービスに対応している。

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