景気の緩やかな回復を受け、地価の上昇基調が一段と強まってきた。国土交通省が26日に公表した2024年1月1日時点の公示地価は、全用途平均、工業地、商業地、住宅地のすべてで上昇率が拡大。インバウンド(訪日外国人)を中心とする観光客の増加や、行動制限の解除に伴う人流回復、堅調なオフィス需要など好材料がそろった。こうした傾向は三大都市圏だけでなく、地方にも広がりつつある。(編集委員・古谷一樹)

工業地物流と半導体 旺盛な需要

工業地の上昇率で全国1位となったのは千葉県市川市の29・0%。同市や船橋市を含む千葉湾岸エリアの工業地域は都内への交通利便性に優れ旺盛な需要が続く半面、供給は限定的。両市の3地点で工業地の上昇率の1―3位を占めている。次いで上昇率が高かったのが、千葉県柏市の22・7%。交通アクセスが良好なため、大規模物流施設の需要が旺盛だ。

※自社作成

首都圏では依然、物流施設の新設が相次いでいる。供給が増える中、用地の取得競争が激化しているほか、建設コストも高止まりし、空室も出始めているとの指摘がある。

一五不動産情報サービス(東京都大田区)によると、1月の空室率は7・1%で、前回(23年10月)の6・4%から0・7ポイント上昇した。付加価値が高い物件が増えており、テナント確保競争も依然激しい。

物流施設と並ぶ地価の押し上げ要因が半導体工場の新設だ。その一例が北海道恵庭市。次世代半導体の量産化を目指すラピダスの進出に伴い関連施設の需要が旺盛で、上昇率は22・3%と全国5位だった。

また熊本県合志市、同大津市、同菊陽町も上昇率が大きく、多岐にわたる旺盛な需要が続いている。ただ関連企業の集積がある程度進んだことで、今後は「上昇率が次第に鈍化していくのではないか」(三井住友トラスト基礎研究所の坂本雅昭投資調査部門長)との見方もある。

商業地半導体企業向け共同住宅・ホテル拡大

商業地最高価格地点の東京都中央区銀座4丁目の山野楽器銀座本店

商業地はインバウンド(訪日外国人)を含む観光客が押し寄せるエリアや、人流回復が進む繁華街の地価が回復傾向にある。オフィス需要も堅調で、全国の上昇率は3・1%と、前年の1・8%から大きく上昇した。

上昇率が大きかったのが熊本県大津町と同菊陽町。台湾積体電路製造(TSMC)の子会社のJASMによる半導体の生産開始を見据え、共同住宅や倉庫、ホテルなどの需要が拡大し、大津町は上昇率が33・2%、菊陽町は同30・8%と商業地で全国の1位と2位を占めた。

北海道千歳市でも、ラピダスの進出決定以降、進出を予定する関連企業の共同住宅、ホテル、事務所用地の需要が拡大。上昇率が30・3%で全国3位となった地点を含め、10位以内に3地点が入った。

都心では、18年連続で商業地の全国の最高価格地となった東京・銀座の「山野楽器銀座本店」は、上昇率が23年の1・5%から3・5%と大きく伸長した。接待や会食需要に加えて、富裕層らによる消費も好調。店舗の収益性の回復傾向が鮮明だ。

商業地は、今後も全体的に緩やかな回復傾向が続くとの見方が多い。JLLリサーチ事業部の大東雄人シニアディレクターが「地域のランドマーク施設ができると地価の回復に直結する。大阪や福岡の再開発エリアが注目ポイント」と話すように、その範囲がさらに広がる可能性もある。

住宅地都市中心部 堅調に推移

住宅地は「都市中心部や利便性、住環境に優れた地域で需要が堅調に推移した」(国土交通省不動産・建設経済局地価調査課)。外国人による宿泊施設の取得需要も上昇の要因。三大都市圏や地方4市の周辺部でも上昇の範囲が拡大している。

上昇率の全国1位は、外国人の別荘やコンドミニアムの用地の需要が旺盛な北海道富良野市。新型コロナ対策としての行動制限の緩和以降は需要が一層拡大し、27・9%と高い上昇率となった。また長野県白馬村は、国内富裕層や外国人の別荘地の需要が旺盛で、19・5%と住宅地では全国8位となった。

交通利便性や住環境の良さを背景に上昇が継続したのは千葉県市川市。都心にアクセスしやすい半面、閑静な住環境を維持しており住宅地の需要は堅調で、複数の地点で上昇率が10%を超えた。

地方では、仙台市泉区と接しながらも地価の割安感があり、転入も多い宮城県富谷市が高い上昇を継続。次世代型路面電車(LRT)の開業により利便性が向上した宇都宮市と栃木県芳賀町は、子育て世代中心に人気が高く上昇を継続している。