日本熱供給事業協会(東京都千代田区、内田高史会長=東京ガス会長)は、地域の脱炭素化や防災機能強化に向けた中長期ロードマップ(工程表)を初めて策定した。人工知能(AI)の活用や水素、合成メタン(e―メタン)の導入などによる熱の脱炭素化を追求する。国の制度の見直しによって熱供給事業者は二酸化炭素(CO2)排出量の削減努力を訴求できるようになり、業界各社は切磋琢磨(せっさたくま)して脱炭素社会に貢献する。

日本熱供給事業協会の中長期ロードマップ

工程表は「三つのアプローチ」で構成。一つ目は「最新技術の導入による省エネ・省CO2運転」。AIを使い、当日の気温などを考慮した設備の運転方法を導入する。また2020年代後半から、ボイラやコージェネレーション(熱電併給)システムが排出するCO2を回収し、資源化する技術を検討する。

二つ目は「熱の脱炭素化」。地中や下水、外気などの「再エネ熱」を取り込んだ運転負荷の低減、CO2削減価値を持つ「炭素クレジット」の活用が該当し、30年以降は水素やe―メタンの導入を開始する。三つ目は「街のレジリエンス(復元力)強化」。災害時には熱と電気、さらに生活用水や消防水も提供できる体制を目指す。

国の温室効果ガス(GHG)排出量の報告制度が見直され、熱供給事業者ごとのCO2排出係数が計算できるようになった。事業者は省エネ努力を排出量に反映できる。熱の供給を受ける施設も、CO2排出量の少ない熱を使ったと国に報告できる。これまでは業界平均の係数が報告に使われており、事業者は排出量で差別化できなかった。

熱供給事業者はコージェネレーションシステムなどで複数の施設に熱を供給し、施設は熱を空調や給湯に使う。全国では130以上の地域で熱供給が行われている。日本熱供給事業協会には73の熱供給事業者が加盟している。