反響の大きかった2023年の記事を厳選、ジャンル別にトップ10を発表してきた。今回は該当ジャンルがなかったが実は大人気だった記事を紹介する!(集計期間は2023年1月〜10月まで。初公開2023年5月28日 記事は取材時の状況です) *  *  *

 2023年5月22日、香川県高松市のパチンコ店でICカードを盗んだ疑いで、住所不定・無職の45歳の男が逮捕された。男はゴールデンウィーク中の5月3日、男性客がパチンコ台から離れた際に、台に残っていたICカード8400円分を盗んだという。

 このようなICカードの窃盗事件は全国各地のパチンコ店で頻繁に発生しているようで、今回の事件のように、被害者が盗難届(被害届)を提出して犯人が捕まった場合は逮捕されるケースもある。しかし被害額がICカードの上限額の1万円以下と少額であるため、被害者が泣き寝入りするケースが大半のようだ。

◆パチンコライターがICカードを盗んだ事件

 仮に店員に捕まっても逮捕されなければ、その店が出禁になる程度で“職を失う”とまではならないだろう。ただしそのICカードを盗んだ犯人が、CS放送のパチンコ番組やパチンコ雑誌に顔出しで出演している「パチンコライター」なら、もちろん例外となるわけで……。

 6年前にパチンコライターとして活動していた中田大輝さん(仮名)は、全国で売られている某パチンコ誌に顔出しで出演し、当時は連載コラムも持っていたという。

 そんな彼が、パチンコライター引退のきっかけとなった事件を起こしたのは、ライターデビューから1年が経った頃のこと。番組出演やライターだけでなく、同雑誌の編集者としても仕事をしていた彼は、徹夜で編集作業をこなした翌朝からパチンコを打っていた。

「徹夜明けから家にも帰らずパチンコ店に行き、パチンコの実戦データを取っていました。もちろん仕事としてパチンコを打っていましたが、打つのにかかるお金は自腹で、その日は夕方まで打って6万円くらい負けてたんですよね。当時、給料は20万円くらいだったので、6万円負けで地獄のような精神状態になっていました……」

◆トイレでICカードを拾い、そのままポケットへ…

 そして諦めて帰ろうかと思い、帰る前に一度トイレに行くことにした中田さん。小便器の前に、その後の人生を左右することになるICカードを見つける。

「小便器の上のところにICカードと会員カードが置いてあるのを見つけ、その2枚を迷うことなく取って、ズボンのポケットに入れました。今思うと本当に恥ずかしいんですけど、あまり罪の意識がなかったというか……。『バレなきゃいいでしょ』くらいの気持ちだったんです。徹夜明けで大負けしていた状態で冷静な判断ができなかったというのもあって……。まぁ完全に言い訳ですけどね。その後、そのまま1時間くらいパチンコを打ち続け、普通に拾ったカードを精算して帰りました。たしか5千円くらいは入っていたと思います」

◆上司から「お金取ったよね?」

 そして、その日も夜から出社する予定だったため、一睡もせずにそのまま会社に向かった。1時間後に会社に到着し、上司から開口一番「お金取ったよね?」と言われ、中田さんはようやく事の重大さに気づく。

「その一言を言われても頭が回らずにピンときてなかったのですが、パチンコ店から電話があったと聞き、『終わった……』と思いました。その店には有名な先輩ライターの方とよく一緒に行っていたこともあって、店員さんは僕のことをパチンコ誌のライターだと気づいていたみたいです。店を出てから1時間後に会社に行って、すでにその場にいる全員が知っていたので、お店を出た後すぐに電話がいったんだと思います。頭が真っ白になって、それからのことはよく覚えていないのですが、とりあえず次の日の朝に謝罪に行くことになりました。雑誌関係者2人と僕の計3人で謝罪に行き、店長さんが『こんなことになってしまって悲しいですよ……』と、怒りというより呆れた感じの口調でお話ししていたことをハッキリと覚えています」

 その場でICカードから抜き取ったお金と、一緒にあったから取ったもののどうすることもできずに捨ててしまった会員カードの再発行手数料(1,000円)も合わせて返金。ただただ頭を下げ続け、パチンコ店をあとにした。

◆罪の重さを考えて引退を決意

 その後、編集局長より謹慎処分が言い渡される。しかし中田さんは、自分が犯した罪の重さを考え、2日後にライターを辞めることを決めた。

「今回の件で『俺って何してるんだろう……』って考え込んじゃったんですよね。給料20万円で仕事をしているのに1日で6万円もなくなって、挙げ句の果てに人のお金を盗んでしまって、お世話になっている人たちに迷惑かけて……。パチンコライターの仕事を選んだのは自分だし、自腹で打つのを了承したうえで働いていたんですが、自分がやっているすべてのことが嫌になってきたんです。それで雑誌の仕事を辞めることを伝え、パチンコライターを引退しました」

 そして収入がゼロになった中田さんは、とりあえずで始めた派遣アルバイトや、パチプロ軍団の打ち子などでお金を作り、1年後に地元へ帰っていった。現在はパチンコ業界とは関係のない、営業系の仕事をしているとのこと。

◆6年経っても消えない後悔

 中田さんは6年経った今でも、SNSなどで「ICカード窃盗で逮捕」といったニュースを見るたびに、過去のことを後悔しているようだ。

「そういうニュースを見ると、『自分も同じことをしてしまったんだな』と思い返し、改めて被害者の方や店員さん、雑誌の方たちに申し訳ない気持ちになりますね。その後もパチンコをたまに打っていまして、何回かパチンコ店でICカードを拾ったことはありましたが、もちろんすぐに店員さんに届けています。バレるバレないとか、少額だからとか、そういうことではない。落として困っている人がいるのだから、ICカードを拾ったら絶対に届けるべきだと今の自分は思っています」

◆パチンコ店はどのように対応するのか

 記事冒頭で紹介した香川県の事件のように、逮捕されるケースは割と珍しく、警察を呼ぶことまでするパチンコ店は少ない。中田さんが盗んだときも、店から厳重注意を受けただけで、この件で警察に話がいくことはなかった。

 実際にこういった事件が起きた場合、店側はどのように対応するのだろうか。元パチンコ店責任者のS氏に話を聞いた。

「お客さんがICカードを盗んだという事件は何度もあるけど、もし捕まえられても基本的には警察には突き出さないで、店を出禁にするだけです。というのも、警察沙汰にすると事情聴取などで4時間くらい時間を取られるんですよ。人手が足りない時間帯だったとしたら、4時間も割かれるのは正直ツラいので……。たとえば、わざと離席させてICカードを盗むみたいな“悪質な窃盗事件”の場合は通報しますが、基本はお客さんの忘れ物を盗んでしまうパターンなので、お金返してもらって出禁を伝えて終わりです」

◆パチンコ店のカメラは“かなりの高性能”

 パチンコ店の監視カメラは、手元をアップにするとスマホのLINEのやりとりすらも読めるほど高精度のものを使用している店が多い。それゆえに窃盗事件が起こったとなれば、犯人が店内にいた場合すぐに捕まえることができるという。

「ICカードの置き引き事件は、拾った人がすぐに換金して逃げてしまうケースがほとんど。でも拾った人がパチンコを打っていたとして確変中だったりすると、意外と盗んだまま打ち続ける人も多いんです。カメラだけでなくICカードの中の情報も細かく見られるので、何時何分にどこの台から抜かれたか、そしていつ精算されたかなどはすぐにわかります。店内にいれば100%犯人がわかるので、すぐにお声がけして出禁にしますね」

 S氏によると、ICカードの窃盗の場合は「私と同じ考えで、警察に届けることまではしたくない店が多いと思います」とのこと。また、現在はスマスロ・スマパチが導入されたばかりということもあり、台にカードを入れっぱなしで離席してしまう人が増えているようだ。まずは置き忘れないように気をつけること、そして拾った際は即座に届けることを、人として当たり前のことだが改めて強調したい。

取材・文/セールス森田



【セールス森田】
Web編集者兼ライター。フリーライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント