旅を配信するYouTuber・こうへい氏とみずき氏のカップルによるチャンネル『サニージャーニー』はチャンネル登録者数20万人を超える。日本中をキャンピングカーで横断するなど、類まれな行動力と溌剌とした表現力によって、配信当初から根強い人気のあるクリエイターだ。


 だがサニージャーニーの名が全国に広まったのは、「婚約中の彼女がすい臓がんになりました。【日本一周車中泊中断】」と題して2022年11月6日に配信された動画によるところが大きい。この動画の再生回数は460万回以上。内容は、みずき氏が腺房細胞癌という希少がんに冒されていることを知らせるものだった。

 多くの視聴者が安否を心配し、見守るなかで、一方では「詐病ではないか」などの心無い誹謗中傷にも遭った。こうへい氏が支援を呼びかけたクラウドファンディングは、アンチコメントやそれに心を痛めるみずき氏の心情に配慮して、立ち上げ前に頓挫した。

 現在、みずき氏は一通りの治療を経て、快方に向かいつつある。希少がんからの生還という希望に呼応するように、今年2月、2人は結婚式を挙げた。また、2人にとって初となる書籍『日本一周中に彼女が余命宣告されました。』(双葉社)を3月21日に上梓する。

 さまざまな渦に巻き込まれ、それでも笑顔を絶やさなかった2人がこの局面において思うことを聞いた。

◆視聴者の厚意で結婚式を挙げることに

――このたびはご結婚式、書籍出版と誠におめでとうございます。このタイミングで結婚式に踏み切った経緯について伺えますでしょうか。

こうへい:ありがとうございます。もともと、治療が終わったら結婚式をやりたい気持ちはありました。私たちが旅の配信をしていた当初からの視聴者の方で、愛知県知多市新舞子にあるNEST BY THE SEAという結婚式場を経営されている方がいらっしゃいました。その方から、治療が一段落した段階で、結婚式を挙げてはどうかというありがたいお話がありました。病気になった当初に「仕事という形で支援したい、結婚式をうちの式場で行わないか?」とお声がけいただいていましたが、その当時は少し先も全く分からなかったのでお断りしました。治療がひと段落し、結婚式を挙げたいと話が出たときに、ぜひNEST BY THE SEAさんでと改めてご連絡しました。いわばPRの仕事半分、プライベート半分の結婚式ですが、とても楽しく行うことができました。そのときの動画も、すでにアップされています。

みずき:お心遣いありがとうございます。結婚式のお話をいただいたとき、本当にありがたいなと感じました。実際に結婚式をしてみると、たくさんの方にお祝いのお言葉を頂き、改めて支えてくださった方々に感謝の気持ちを伝える機会となりました。それと同時に、大きな幸せを感じた時間でもありました。このような機会を頂き本当に嬉しく感じています。

◆なぜ「詐病疑惑」が流れたのか

――また、3月21日発売の書籍の巻末には、みずきさんの腺房細胞癌についてかねてから存在する「詐病疑惑」に真っ向から反論する医師の文章が掲載されると聞きました。

こうへい:はい、みずきのセカンドオピニオンを担当してくれた医師・押川勝太郎先生(宮崎善仁会病院・腫瘍内科医)が寄稿してくれました。また、出版社の方が私たちの主治医の先生にお願いして、主治医の先生のコメントもいただいています。そこでも触れられていますが、医師でこの件に疑いを持つ人はほとんどいないんです。おそらく、がん患者のイメージと配信のときの様子がかけ離れていたために、「詐病に違いない」という疑惑が生まれたのではないかと考えています。あるいは、どんな場面であっても陰謀論のようなものを信じる人は一定数います。人生がうまくいかなかったとき、全然違う誰かを攻撃することで自分を満たそうとする人はいるので、そうした人たちの標的になってしまったのかなと思います。

みずき:押川先生が協力してくださったことは、非常に心強いです。つらい局面でも笑顔で頑張っている人は私以外にもたくさんいるし、動画を見た人の元気や活力につながればいいなと思ってこれまで配信をしてきました。今回の書籍では、治療のこと以外にもいろいろな私たちの素顔を書いているので、ぜひ読んでみてほしいなと思っています。

◆自宅や通院先が特定されそうになったことも

――顔出しで活動し、有名になっていくなかで、不安なことはありませんでしたか?

こうへい:やはり私たちの自宅や通院先を特定しようとする人がいるので、それはとても困りました。たとえば病院側に迷惑をかけてしまうかもしれないし、もしかすると何らかの被害に遭うかもしれないし、さまざまな可能性が否定できないので、率直に身の危険を感じました。そうした行動はやめていただきたいと思います。私たちはもともと旅の記録を配信していましたが、みずきの闘病でそれが叶わなくなってからは、日常を配信しています。こちらが何の被害も与えていないのに、そこまで執着されるのは怖いですよね。

◆アンチコメントに心を痛める一方で…

――みずきさんは、ご自身がただでさえ辛い希少がんの宣告・治療を受け止めるなかで、いわば炎上を経験したわけですが、そのときに何が精神を支えてくれたのでしょうか?

みずき:もっとも支えてくれたのは、夫であるこうへいくんですね。常に「大丈夫だからね」「俺が何とかするからね」と優しく言ってくれました。パートナーがこのような大病を患って、自分も不安があるなかで、誰もができる行動ではないと思います。本当に頼れるなぁと思いました。

 また、アンチコメントはかなりの数がありましたが、その一方で、見も知らない私たちを心の底から心配してくれる人たちの書き込みにも力をもらえました。「今日、◯◯神社にいったので、みずきちゃんの快復を祈ってきたからね」という書き込みがあり、話したこともない人のためにこんなに行動してくれる人がいるんだなと思うと、温かい気持ちになりました。知らない人によって傷ついたこともありましたが、その数の比ではないくらいの多くの人に私は応援してもらっているんだなと改めて感じます。

 あるいは、地元で治療をしていたこともあって、リアルな友達とは会う機会もあったのですが、そのときにする他愛もない会話に癒やされました。がん患者でもYouTuberでもない頃から、私を知ってくれている人との、なんでもない会話が幸せでしたね。

 YouTuberとして自分の病状を配信することによって、人の見たくない部分を見て悲しくなる場面もありましたが、総じて「こんなに優しい人がいるんだ」と感動することの方が多かったですね。また、どうしてもネガティブな面がクローズアップされてしまう傾向がありますが、見過ごされているポジティブな面にも目を向けた方が人生は楽しくなるはずです。少なくとも私はそう考えています。

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 経験したことのない病に冒され、その不安に翻弄されるなかで遭った、姿形の見えない誹謗中傷。「がん患者がこんなに明るいはずがない」という固定観念が、「他人の金で治療をしようとしているやつ」という歪んだイメージと相まって炎上を巻き起こした。サニージャーニーの配信を追うなかで筆者がもっとも気がかりだったのは、病気の進行もさることながら、「2人が世界を嫌いにならないか」ということだった。前を向き、手を取り合って進む2人の姿。紆余曲折ののち、神に誓いを立てて結ばれたドレス姿を見ると、その不安は杞憂とわかって、霧散した。

<取材・文/黒島暁生>



【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki