―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

◆詐欺事件だったことが発覚した「トケマッチ」
 腕時計投資家の斉藤由貴生です。

 今年1月に、腕時計レンタルサービスの「トケマッチ」が突如サービスを停止。「トケマッチ」は、ユーザーから腕時計を集め、それを第三者に貸し出すというサービスを謳っていたのですが、実際には貸し出した形跡がなく、ユーザーから集めた腕時計を売りさばいてしまいました。

 そして、元代表はドバイへと逃亡。これは、シェアサービスでもなんでもなく、単なる詐欺事件だったわけです。

 さて、今回私はトケマッチを取り上げるわけですが、なぜかというと「トケマッチの事件ってどうなの? 裏事情知ってるの?」などと聞かれたからです。

 私は、事件が発覚する前から「トケマッチ」を勧めたこともなく、メディアで取り上げたこともなければ、全く興味すらありませんでした。また、トケマッチ側からも、コンタクトは一切なく、まったくもって関係がないのです。

 そうであるにも関わらず、「トケマッチの裏事情教えて?」などと言われてしまうわけで、私としては「詐欺師による事件」ということをきちんと知らせたいと思い、今回取り上げた次第であります。

◆筆者が提唱する“腕時計投資”の定義とは

 トケマッチの事件は、各メディアからの情報によると、「ユーザーから高級腕時計を集め、それを勝手に売却した」とのこと。また、本来、第三者に貸し出すためにユーザーから腕時計を集めたわけですが、それを貸し出した形跡はなく、単に横領する目的で集めた模様。一言で言えば、『詐欺師による事件』であるわけですが、題材が高級腕時計だったことから、腕時計投資家を自称する私のところに質問が来たのでしょう。

 しかしながら、私が提唱する腕時計投資とは、「買って⇒使って⇒お得に楽しむ」ということ。日本人の生涯給与はざっくり2億円程度といわれていますが、高級腕時計を何本も買うと、生涯給与の10%といった額に相当してしまいます。しかし、「売る」ということを考慮すると、消費額をおさえることができるわけで、相場が上昇した場合には、「プラス」にもなってしまう。そうすると、生涯給与に影響を与えることがなく、高級腕時計を楽しめるわけで、「金持ちでなくても、誰でも高級腕時計を楽しめる」というのが腕時計投資の醍醐味であるわけです。

 それに対して、トケマッチは「高級腕時計を誰かに貸して、レンタル料を儲けよう」という内容。私からしたら、自分のクルマを使ってレンタカー屋を開業するようなもので、全く興味がありません。

 それどころか、自分の所有物を他人に貸し出すというのは、モノの程度が悪くなる可能性を秘めているわけで、私はクルマも腕時計も他人に貸すのは絶対に嫌です。

 腕時計投資家を名乗っていると、「モノを大切にしなさそう」などと勝手に思う人がいるようですが、投資的観点で考えれば考えるほど、買ったモノは大切にしようと努力します。

◆レンタルサービスは成り立つか?

 高級腕時計のレンタルサービスは、2010年代ごろから出てきたといえますが、海外のサービスが「えらく儲かっている」という噂を2015年ごろから聞くようになりました。実は私、2009年に高級腕時計のレンタルサービスを思いついていたのですが、全くやる気がなかったため、ドリームゲートでアドバイザーをしているという知人にタダでアイデアをあげてしまったほど。

 とはいえ、海外のサービスが儲かっているという話を聞いた際は、「儲かるならやっておけばよかった(笑)」とも思いました。

 どうやら、腕時計レンタルサービスは、レンタルする権利を手に入れる「会員費」で儲かっている模様。確かに、高級腕時計のレンタルサービスならば、月額1万円といわれても、それが相場という感覚があります。

 つまり、使うかどうかは別として、「高級腕時計のレンタルサービスに1万円払っても良い」という需要があるらしく、サービス自体はそこまで悪いものではないと思います。

 しかし、腕時計レンタルサービスの多くは、一般ユーザーから腕時計を集めるというのではなく、自社でレンタル用の在庫を抱えるというのが常。私が、2009年に腕時計レンタルサービスを思いついた際も、「今の相場が安いから、いっぱい買っておきたい」という発想が先にありました。

 ですから、トケマッチの「ユーザーから腕時計を集める」ということに私としては若干の違和感があったのですが、そこまで興味を持たず、ビジネス的にはありなのだろうぐらいに思っていたわけです。

 しかし、実際の目的は、ユーザーから腕時計を集めて、それを任意のタイミングで勝手に売りさばき、海外に逃亡するということだったわけで、単に「腕時計を集める」というために、シェアサービスの展開というハリボテを利用したことに過ぎないようです。

◆横領を目的とした“第二のトケマッチ”の可能性

 さて、近頃は、時計店に白昼堂々強盗が押し入るなど、以前では考えられないような窃盗事件が起きています。今回のトケマッチ事件も、ユーザーから横領する目的で腕時計を集めたようですが、そういったことは今後も起こり得るといえます。

 例えばですが、腕時計修理店を装い、ユーザーから高級腕時計を集め横領する、などということが考えられます。オーバーホールの相場が5万円だとするならば、「1本1000円」など格安に作業すると装い、腕時計を集めるといったことが考えられます。

 とはいえ、今回のトケマッチのように、レンタルサービスを謳い、実際にレンタル料も一定期間ユーザーに支払うなど、用意周到に準備した大規模な事件を起こすなら修理サービスのハリボテは使われないかもしれません。

 ただ、小さい規模で、詐欺師が腕時計を盗もうとするなら「修理サービスなどを装い横領する」という事も考えられるでしょう。

 高級腕時計は、物自体が小さいのに価値が高い。また、自動車のように「所有権」を示す書類や税金などがないため、盗みやすいという特徴があります。

 これまで、腕時計の盗難はあまり一般的ではなかったわけですが、トケマッチのような事件が実際に起った今、価値ある腕時計は狙われているかもしれないと思ったほうが良いでしょう。

 そのためには、自分の価値ある腕時計を他人にうかつに渡さないというのが「守る」ことの大前提となります。例えばですが、修理は、正規店や名のある老舗修理店などにしか出さない、などといった注意が必要です。

 そういった意味では、他人に貸し出すなんてもってのほか。腕時計が不要になったと思ったら、いっそのこと潔く売ってしまったほうが良いでしょう。<文/斉藤由貴生>

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―



【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある