春ドラマが始まった。その中から注目の3人の女優が主演する3作品を爆速レビューしたい。
◆●今田美桜『花咲舞が黙ってない』
(日本テレビ 土曜午後9時)

「土ドラ9」の第1弾。一家揃ってテレビを観る機会の多い時間帯なので、それに相応しい令和版『水戸黄門』が用意された。今田美桜(27)が扮する怖い物知らずの主人公・花咲舞が、メガバンク内の悪党を斬り捨てる。

 杏(37)の主演で2014年と翌15年にドラマ化された作品のリメイクであるものの、10年が過ぎているので既視感は薄い。今田版の舞は正義感とクソ度胸が杏版と一緒であるものの、悪党を圧倒する目力と敏捷性が加わった。リメイクまでの間に進んだ時代に合わせ、男女対等がより強調されている。

 相馬健(山本耕史)と舞は本部臨店班に所属する。本来は支店の事務ミスを正す程度の部署なのだが、その過程で大きな不正が見つかると、舞は黙っていられない。

 第1回では相馬と2人で古巣の羽田支店に臨店に入り、支店長の藤枝(迫田孝也)が2億円の不正融資の見返りに賄賂を受け取った事実を知る。

 相馬はデキる男なのだが、臭い物には蓋をするタイプ。藤枝の不正追及にも逃げ腰だったものの、舞の気迫に押され、やむなく動く。山本はぼんくらを装う切れ者に扮するのが実にうまい。

◆働く人へ向けた痛快エンターテインメント

 舞は賄賂の振込依頼書を手に入れ、藤枝に突き付けた。動かぬ証拠であり、『水戸黄門』なら印籠である。舞はちょっとドヤ顔だった。今田の勝ち気そうなキャラクターがハマった。

「2億の融資をした見返りじゃないんですか?」(舞)

 だが、藤枝は観念しない。不正を告発した女性行員・根津(栗山千明)に対し、「だから女は信用できないんだよ。オレの人生を台なしにするつもりか」と逆ギレした。ここで舞は声を張り上げる。観る側がカタルシスを得られるシーンを迎える。

「お言葉を返すようですが、不正を行って、ご自分の人生を台なしにしたのはご自身ですよね?」(舞)

 藤枝は「うるさい、黙れ」と言い返すが、舞は止まらない。

「支店長は女性行員を見下しています!」(舞)

 女性蔑視が行内の体質であるのなら、「腐っている!」と断じた。この言葉に支店内から拍手が沸き起こる。爽快だった。

 企業によってはいまだに女性社員を格下扱いしている。綺麗事を言うつもりはないが、それは自滅への道に違いない。世界に類を見ない少子高齢化の中、女性が活躍する場を広げなかったら、先はない。

 今田版は杏版と同じく痛快なエンタテインメントであるものの、働く人たちへのメッセージ色が濃い。

◆●生見愛瑠『くるり〜誰が私と恋をした?〜』
(TBS 火曜午後10時)

 主演は「めるる」こと生見愛瑠(22)。記憶喪失になった24歳の女性・緒方まことを演じている。

 放送前には「記憶喪失モノはやり尽くされたのでは?」と思っていたが、新味を感じさせた。自分が分からなくなった主人公が、以前より良い自分をゼロからつくり上げようとする。いわば、初期化されたスマホを復元するだけでなく、バージョンアップする物語。

 記憶を失う前のまことは人に嫌われないようにするため、自分の素を隠し、悪目立ちしないようにしていた。職場では空気を読むことが最優先。男女問わず、決して珍しくないタイプだった。

 そんな日常の中、ある日の夜に桜が咲く並木道を走る。何者かに追われていたからだ。ところが、並木道の先に階段道路があったため、転げ落ちてしまう。追っていたのは誰で、何が目的か? この部分はミステリー仕立てだ。

 まことは頭をしたたか打ち、記憶を失う。一般常識はおぼえているのだが、自分のことは一切忘れてしまった。転落後に看護師に言った第一声は「アタシのこと知りませんか?」。まさに初期化だった。

◆まことの指輪は誰にもらったものか?

 免許証に記載されていた自宅に行ってみると、そこはガランとした殺風景な部屋。職場用と思われる服は地味なものばかり。よほど目立ちたくなかったらしい。

 スマホで自分のインスタグラムを見ると、カフェの料理の写真ばかり。人物と一緒の写真はなし。親しい友達はいなかったようだ。

 唯一の手掛かりは男性用の指輪。愛する人に渡そうとしていたらしい。愛する人なら自分のことをよく知っているだろう。その相手の男性は職場の同期で自称・友達の朝日結生(神尾楓珠)か、フラワーショップ店主で自称・元カレの西公太郎(瀬戸康史) か、あるいは知り合いであることを隠している謎の男・板垣律(宮世琉弥)か。

 結生と公太郎は指輪のサイズがピッタリ合った。律も合うのだろう。この中にまことが愛する人がいる。一方で、まことを追い掛け、記憶喪失の理由をつくった人物もこの中にいそうだ。

 痛快だったのは初期化されたまことの職場での行動。空気を読むことを第一とする考え方も失ったため、有能な派遣社員・松永(菊池亜希子)を都合良く使う職場の雰囲気が我慢ならない。

 そのうえ松永が派遣切りに遭ったため、腹を立て、自分も会社を辞めてしまう。職場でこう宣言した。

「みんなとうまくやっていくため、つまんない服を着て、少しズルして、頑張ってきたんだと思うんです。でも、私この仕事に向いてないんです」(まこと)

 記憶喪失という設定は非日常的だが、この言葉は多くの人が胸の内に潜めているのではないか。

 まことは「私らしさって何だろう・・・」と考え込む。これも記憶喪失でなくたって、誰もが1度や2度は思うことだろう。

◆広瀬アリス『366日』
(フジテレビ 月曜午後9時)

 高校2年生のときから12年間、片思いだった同級生の男性とやっと付き合えることになった。実は相手も自分を思い続けていてくれた。4月7日のことだった。

 初デートは2日後の4月9日。だが、相手は待ち合わせの場所に来なかった。子供を救おうとして事故に遭い、後頭部を強く打ち、急性硬膜下血腫の重傷を負ってしまったからだ。1か月が過ぎても意識不明のまま。このまま一生、目覚めない可能性が高い。

 それでも主人公の雪平明日香(広瀬アリス)は、相手の水野遥斗(眞栄田郷敦)にずっと寄り添ってゆく決心をする。第2回のことだ。明日香は音楽教室の事務受付係。大ケガを負う前の遥斗は外食チェーンに勤務していた。ともに28歳である。

 この2人を中心とする物語であるものの、そこに茨城県南部にある竜ケ崎市内の高校の同級生たち男女4人の日々が交錯する。伝統的にフジが得意とする青春末期の若者たちの群像劇でもある。

 現実論者の介護福祉士・下田莉子(長濱ねる)は明日香に対し「まずは自分の生活を大事にしたほうがいいんじゃない」と助言する。病床の遥斗とは距離を置けというわけだ。しかし、薄情とは言い切れない。

 遥斗と高校の野球部で一緒だった小川智也(坂東龍汰)は足しげく病室に通う。それが友情だと考えているようだ。これも間違ってはいないだろう。やはり元野球部員でコンサルタントの吉幡和樹(綱啓永)は遥斗の受難を知らされたものの、連絡すらしてこない。これも責められないはずだ。

◆ファーストシーンの意味は?

 高校卒業から10年も過ぎると、愛情や友情に対する考え方は個人差が大きくなる。足並みは揃わない。甘ったるい筋書きにしないところが、かえって小気味いい。ましてや遥斗と和樹の間には苦い過去があるようだ。

 考察要素も伏線もない。それでも見応えがある。一番の理由は挿入される過去のエピソードに現実味があるから。ほかのドラマがほとんど描かない青春期の小さな切れ端である。

 たとえば、明日香は東京の大学に進んだ。遥斗が東京の大学に進むと小耳に挟んだためだ。ところが、遥斗は北海道の大学に進学してしまった。本人に進路を確認すれば済んだ話なのだが、片思いの相手だから聞けなかった。

 30代、40代になると、「なんてバカな進路の決め方をしたんだ」と思うが、バカなことを大真面目にやってしまうのが青春期である。

 一方で遥斗は大学時代に上京すると、明日香の通っていた大学の近くを歩いた。「会えるんじゃないかと思って」。これも奇特な話なのだが、恥ずかしい思い出に事欠かないのも青春期だ。

 第1回のファーストシーンは、桜の木の下に立つ2028年の明日香の姿だった。奇跡が起こり、遥斗の意識は戻ったのか、それとも――。<文/高堀冬彦>



【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 放送批評懇談会出版編集委員。1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立