中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
「結果にコミットする」でジム業界に旋風を巻き起こしたRIZAPグループが、またも台風の目となっています。無人のトレーニングジムchocoZAPを急拡大させているからです。

 これと近いサービスを展開しているのが、Fast Fitness Japanのエニタイムフィットネス。2社が火花を散らす様子も見えてきます。

◆会員のつなぎ止めが難しく、課題に

 東京商工リサーチによると、2023年度(4月-2月)のフィットネスクラブの倒産件数は28件。2022年度の16件を上回り、1998年の統計調査開始以来、過去最高を記録しました(「2023年度「フィットネスクラブ」倒産動向調査」)。

 倒産形態を見ると、破産が全体の96%、残りが特別清算となっており、事業再生もままならずに消滅しています。一時的なブームに乗じて過剰な投資を行い、会員数を期待通りに獲得・維持できず、借入の返済が滞るという構図が浮かび上がってきます。

 業務用フィットネスマシンは数十万円から数百万円と高額で、複数取り揃えると初期投資額が膨らみます。収入は基本的に会員からの会費がメイン。新たなマシンの導入で集客に成功しても、会員のつなぎ止めができないという難しさもあります。コンサルティングサービスを提供するヒューネルの調査によると、フィットネスジムを利用した人のうち、途中で退会した人は7割に及んでいます(「【ジム・フィットネス】継続率は?」)。

◆倒産相次ぐなか、chocoZAPは「2年で10倍」に

 会員になりたてでモチベーションが高いうちは良いですが、次第に面倒になって退会するケースが後を絶たないのです。

 コロナ禍は運動不足だと感じる人を大量に生み出しました。ところが、その人たちがジムに通って退会し、需要が一巡するとジム側は集客に苦戦します。人を集めるにも広告宣伝費が必要。先行投資と広告費が膨らめば、キャッシュフローを圧迫するのです。そうかといって、広告を絞れば集客できません。それらが重なって倒産へと至っているのでしょう。

 このような厳しい状況のなか、2年も経たずに店舗数を10倍に引き上げたのがchocoZAPです。2024年5月15日の店舗数は1500。2022年9月はわずか134でした。

◆黒字転換の予想を出すも、ストップ安となったライザップ

 会員の獲得にも成功しており、2024年5月に120万人を突破。2022年9月は6万4000人ほどでした。店舗数は10倍、会員数は19倍に膨らんでいます。国内のフィットネスジムにおいては会員数トップ。

 これだけ出店し、多額の広告費を投じているため、RIZAPグループは利益が出ていません。2024年3月期は5億9400万円の営業損失(前年同期は49億4800万円の営業損失)を計上しています。

 ライザップは2025年3月期の営業利益を63億円、純利益を20億円と予想しています。黒字転換を見込んでいるのです。しかし、市場の見方は懐疑的。決算の発表後、ライザップ株は一時ストップ安に見舞われました。

 投資先行で赤字を出すライザップは配当を行っていません。2025年3月期は予定通り純利益を出して配当原資を確保する方針を示しています。その意向を示しても株が売り込まれるというのは、投資家が見通しをシビアに見ているためと考えられます。

◆店舗の有人化に70億円を投じるが…

 ライザップは2024年3月期の3Qと4Qにおいて営業黒字を出しています。ただし、これはchocoZAPの出店を抑制したことが大きく影響しています。2024年3月時点の新規店(出店5か月目まで)比率は17%。2023年3月は66%でした。

 フィットネスマシンを設置しているだけのchocoZAPは、店舗単体の競争優位性が低いという特徴があります。差別化が図りづらく、誰でもマネできる形態です。

 しかし、店舗数を拡大して全国で利用できるようにすると、会員は実家への帰省中や出張、旅行中でも店舗を利用できます。つまり、chocoZAPは地理的な面を獲得することにより、競争優位性を生み出したのです。従って、店舗を急拡大することがこのビジネスを成立させる条件の一つだったと考えられます。

 出店スピードを抑制すれば利益は出やすくなるものの、優位性が失われかねません。そこで、chocoZAPは退会者のつなぎ止めに向けた取り組みを開始しました。それが「ちょこっとサポート・コンシェルジュ」。RIZAPのトレーナー500名体制、コンシェルジュ100名体制で、会員のサポートを行うというのです。ライザップはこのサービスに70億円の費用を投下する予定です。

 chocoZAPの会員は、フィットネスジムのライト層。もともとの意識が高いわけではないため、最も退会しやすい部類に入ります。店舗にカラオケやランドリー、ワークスペース、ゴルフ、セルフ脱毛、セルフホワイトニングなどを導入したのは、ライトユーザーを何としてでも退会させないという苦肉の策といえるでしょう。

 RIZAPグループが今期に営業黒字化を実現できるのか。フィットネスジム業界最大の関心ごとの一つだと言えます。

◆一方のエニタイムは、テレビCMで利益を下押し

 日本で初めて24時間営業のフィットネスジムを行ったのがエニタイムフィットネス。アメリカに本社があり、日本ではFast Fitness Japanがフランチャイズ契約を締結してサービスを提供しています。

 店舗数は1134。国内では2割のシェアを握っています。Fast Fitness Japanの業績は堅調そのもの。2024年3月期の売上高は前期比7.0%増の158億円、営業利益は同4.2%増の35億円でした。

 この会社は3期連続で営業利益率が20%を超えています。高利益体質なのは、フランチャイズを主体としたビジネス展開をしているため。1134店舗のうち、957店舗(84.3%)がFC店となっています。

 実はFast Fitness Japanは、2024年3月期の4Q単体の営業利益が6億4000万円となって前年同期間比で1割以上減少しました。その要因の一つが広告宣伝費。同期間に1億4300万円を投じていますが、前年は9100万円ほどでした。

 エニタイムフィットネスは2023年12月から2024年1月にかけてテレビCMを放映しています。chocoZAPも大々的なテレビCMを継続的に流していることは知られている通り。エニタイムがライバル意識を燃やしているのは間違いないでしょう。

 FC店が多いエニタイムフィットネスは、集客に苦戦してフランチャイズオーナーが儲からなくなるというのが最悪のシナリオ。chocoZAPとの激しい戦いが予想されます。

<TEXT/不破聡>



【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界