【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】

 その女(ひと)は屋形船のへさきに座り、夜の大川の流れをじっと見ていた。

 彼女は、私が主催した納涼懇親会に知人に連れられてやってきた。だが、酔客たちのバカ騒ぎの輪の中には入らず、口数も少なかった。

「竹村健一の世相講談」のアシスタントキャスターをしていた頃ではなかったか。触れなば落ちんという風情だった。

 彼女がその後、国会議員から都知事になり、“女帝”と呼ばれるようになるとは想像もできなかった。

 小池百合子都知事(71)の学歴詐称疑惑が再び問題になっている。発端は文藝春秋5月号に掲載された元側近、小島敏郎の告発手記だった。

 2020年の都知事選前に、ノンフィクション作家の石井妙子が上梓した「女帝 小池百合子」(文藝春秋)の中で、小池のかつてのカイロ時代の同居人女性が、小池のカイロ大学卒業は作り話だと告発したことがあった。

 これを機に、都議会自民党や共産党が「小池百合子都知事のカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出に関する決議案」を提出して大騒ぎになった。だが、突然、駐日エジプト大使館がHPではなくフェイスブックで、カイロ大学長名入りの声明文を英語と日本語で公表した。そこで小池がカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明するとしたことで、疑惑は晴らされたことになり、都知事選で小池は大量得票して再選を果たした。

 だが今回、元都民ファーストの会事務総長で弁護士の小島は、「私は、あの学歴詐称工作に加担してしまった」と告白。同様に小池のブレーンだったAも、小池に頼まれて声明文の文案を書いたことを認めた。その文案を小池側が英訳し、エジプト大使館に頼み込んで、フェイスブックに掲載してもらったのではないかというのである。

 小島は週刊文春(4月25日号)でこう決意を語っている。

「小池氏が(次の都知事選で=筆者注)『カイロ大学卒』と選挙公報に明示すれば、刑事告発します」

 私は、小池が学歴詐称をしていようと、してなかろうとあまり関心はない。しょせんその程度の器だ。それよりも、“清純な乙女”だったとはいわないが、触れなば落ちん級だった小池を“モンスター”に変身させてしまったのは、メディア側の責任が重大であると考える。

 前回の学歴詐称疑惑の時、駐日エジプト大使館がSNSに載せただけの声明文に何ら疑いを持たず、裏も取らず、これで疑惑は晴れたとメディアは早々に追及の矛を収めてしまった。

 小島は、この声明文が出た時、大手メディアはカイロ大学のHPを調べたり、アラビア語の原文にはどう書いてあるのか、学長への取材もしなかったという。「それで済むんだと思った」と、メディアのジャーナリズム精神の欠如を慨嘆している。

 石井の「女帝」で小池を告発した女性が、同じ文藝春秋で実名でこう語っている。

「百合子さんがしていることは、やはり犯罪なのです。黙っていることは、その罪に加担するのと同じです。

 そこで私は、メディアに伝えようと思い立ち、まず朝日新聞に配達証明郵便で、手紙を送りました。『小池百合子さんは学歴を詐称している。自分は同居しており、全てを知っているので、話を聞いてくれないか』という内容でした。自分の氏名と、当時は日本に滞在していたので、その住所も書きました。ところが、まったく連絡がなかった。メディアにもあなたの力が及んでいるのではないかと、私はさらに恐怖の念に囚われました」

 朝日新聞よ、これを読んで恥じるところはないのか。(文中敬称略)

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)