全国初の「カスハラ防止条例」制定を目指す東京都は5月22日に会議を開き、条例の基本的考え方を示しました。一方で飲食店を経営する事業者からは、条例の効果に疑問の声があがっています。

厚労省の啓発動画:「アンタほんと鈍いな!こんなに並んでるんだよ、はぁ使えねぇなぁ!」

事業者が顧客などから理不尽な言動や要求を受けるカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」。制定されれば国内初となる「カスハラ防止条例」の制定を目指す東京都は5月22日、労働者団体の代表らと会議を行い、条例の基本的な考え方を示しました。

示された内容では、条例は店舗だけでなく会社や役所の窓口など対象を幅広く設定するほか、国会議員などが優越的な立場を利用して行政の職員に過度な要求を行うケースも想定しています。また、都は条例に加えて具体的な禁止行為などをまとめたガイドラインを作成し、事業者や顧客などに教育や助言などを行っていくということです。

小池知事:「皆様方と重ねてきましたこの議論。これを基本に据えまして、さまざまな現場のカスタマーハラスメントに効力を発揮する、都独自の条例の検討をスピード感を持って前に進めて参りたいと思います」

東京都はカスハラの防止条例を罰則のない「理念条例」として、早ければ今年の秋にも都議会に条例案を提出する見通しです。条例に対し街の人は…

30代 食品メーカー勤務:「賛成。言ってくるお客さんはその立場を利用している感じもあるが、言われている人もひとりの人間なので、何でも言っていいわけではない。理不尽に言っているお客さんも、少しは言うことを考えたり自分の行動を考えるきっかけになる」

40代 医療関係:「理不尽なことが重なると、やはり賛成。度を超すような要求があると賛成したい」

一方、自治体による規制に反対する声も…

30代 接客業:「反対かな。なんでもかんでも条例にすると、パワハラみたいにあれもこれもダメになる。どんどん生きづらい世の中になる。ただでさえ生きづらいのに」

新橋で飲食店を経営する平山さんも、実際にカスハラを受けた経験があるということです。

根室食堂 平山代表:「靴を踏んでしまって、その靴が高級であるということで、弁償しろとかそういった対応を僕がしました。料理が遅くなるのを事前に伝えといて、料理が遅くなった。でも、お客さんお召し上がりになって会計の際に遅いから払わないとか、そういったケースもありますし」

条例の制定による顧客意識の変化に期待しつつ、その効果には疑問を感じていると話します。

根室食堂 平山代表:「(条例があることで変わると思いますか?)変わらないと思う。大人数でほとんど泥酔状態のお客様に対して、どう条例ということを伝えたところで、逆に逆上するでしょうし。お客様の前で条例ですよと伝えたところで、何が解決できるのかなと思う」

都は今後、カスハラの防止に向けて、ウェブサイトなどでの情報提供や個別の事例に対する専門家による相談などを実施するとしています。

客から著しい迷惑行為を受ける「カスハラ」について、厚生労働省の調査によりますと、27.9%の企業が過去3年間に従業員から相談を受けていたということです。

この調査は去年12月に全国の企業・団体を対象にさまざまなハラスメントの増減などを調べたもので、その結果、パワハラやセクハラといったハラスメントは、過去3年間で「相談件数が増加している」と答えた企業より「減少している」と答えた企業が多かったのに対し、カスハラは唯一「増加している」企業が上回った形です。

近年増加傾向にあるカスハラ。再現動画をご覧ください。コンビニエンスストアにおけるカスハラの例です。「あんたほんとにぶいな(申し訳ありません)こんなに並んでんだよ、つかえねー早くして(かしこまりました)(バン)いいかげんにしろよ」このようにレジの行列に苛立った客が、店員に向かい机を叩きながら会計を急かします。「やってらんないんだけどこっちは急いでんだよ早く」

労働者に精神的にも時には肉体的にも苦痛を与えてしまうカスハラから企業側が労働者を守る義務があるとして、厚生労働省はマニュアルを作成し対策を呼びかけています。そしてここからは先月発表されたJRの対応を見ていきます。

JR東日本グループでは客からの「身体的・精神的な攻撃」「土下座の要求」「居座りや監禁などの拘束的な行動」「正当な理由のない商品交換」など妥当性が認められない客からの要求をカスハラと定義し、従業員を守るためにカスハラが行なわれた場合には「客への対応をしない」という方針を示しています。

客という一見優位な立場を利用して過度なクレームや要求をつきつけるカスハラに対しては、国や都のみならず雇用側も対応を行い、全ての人が気持ちよく働ける職場環境の広がりが求められています。