東北大学の次期学長が、病院長や副学長を歴任した医学部の冨永悌二教授に決まった。大野英男前学長は半導体物理などが専門領域で、2018年から6年間学長を務めた。東北大学は、その間、台湾の半導体メーカーの進出でにわかに活気づいた熊本大学と連携し、また、世界トップをめざす日本の大学のリーダーとして期待される国際卓越研究大学の認定候補第1号に認定されて注目を集めた。

 千葉大学も前学長が2023年秋に死去して、新学長に医学部の横手幸太郎教授が選ばれた。ところが、事前の「学内意向聴取」では人文学部系の副学長が1位だったにもかかわらず、同2位の横田氏が選定されたので、学内から疑問視する声が生まれ学内は紛糾した。

 国立大学は2004年に法人化する前は、学長は学内の教職員の投票で決まることが多く、その選考は学内民主主義のシンボルともなっていた。ところが小泉内閣の行財政改革の一環で国立大学法人化がすすめられ、運営費交付金毎年1割削減の大方針とともに、大学運営でも学長などは学内選挙の結果ではなく選考会議によって決めることになった。

 そして近年、各国立大学で、その選考結果として選ばれる新学長にはなぜか、医学部出身者が目立つようになった。
 
 本年4月に就任した再任を除く国立大学の医学部出身の新学長には、医学部のある大学では上記の2大学のほかにも、秋田大学、島根大学などである。例外は高知大学ぐらいである。

 新任でない現学長では、京都大学をはじめ、北海道大学、埼玉大学、金沢大学、神戸大学、岡山大学、広島大学、九州大学など地方有力国立大学の学長は、軒並み医学関係の研究分野である。どうして医学部出身の学長が多くなるのか。

■稼ぐ力がある研究は医学分野が多い

 法人化によって減らされた運営費交付金を補うべく、収入をふやして「稼げる大学」にならなければ、現在の教育研究活動を維持できないようになった。
 
 国立大学の収支構造は国からの運営費交付金が収入全体の3〜4割を占め、入学金や授業料は1割強、附属病院の収益で2〜3割というのが平均的なケースとなっている。入学金や授業料は、国立大学でもある程度各大学の判断で増額できるが、収入の6割前後を占める私立大学のようにはいかない。減額される運営費交付金に対応して、各大学では別な手段で収入を稼ぐ確保する必要性が生まれる。行財政改革をすすめた当時の竹中平蔵元総務相が、「大学も自分で稼ぐ努力をすべきだ」と主張したのはそのためだ。

 高等教育の無償化が進む中で、学費の値上げは安易にできないし、研究のコストもどんどん上がる。その分は「自らの手で稼げ」ということだ。法人化前の学長は最多投票の結果で選ばれたことが多かったが、選考会議では「稼ぐ能力があるどうか」が、大きな選考のポイントとなりつつある。

 その点で、大学の医学部は多くの診療科に対応して教員数も多いので学内の意向聴取でも上位をキープでき、何より医学分野は「稼ぐ力」がある。株式市場に上場する大学発スタートアップ企業には医療関係が多い。また、医薬品業界などからの財政的サポートも少なくない。
 
 かくして、日本の医学部のある国立大学では、医学部出身者がリーダーシップをとるケースが多くなり、学長にも選ばれるようになるのである。

(木村誠/教育ジャーナリスト)

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