今回は少し趣向を変えて、骨折したネコのてまりちゃんが奇跡の回復をみせたお話を紹介します。そこにワンちゃんの絶妙なサポートがあったのです。

 離乳したばかりのてまりちゃんが脚を骨折して当院に担ぎ込まれたのは昨年7月。親離れしたときに自転車やバイクにひかれたか、動物に襲われたのだと思われます。患部は完全に折れて、ブラブラ状態。保護した方はワンちゃんの散歩中に公園の草むらでうずくまっていた姿を見つけ、夜間救急病院を受診。十分な治療をしてもらえず、当院に来られました。

 骨折部位は骨が露出した開放骨折で感染を起こし、化膿していました。さらにノミの寄生もひどく、救急病院では野良の乳飲み子でしたから、院内感染を恐れて応急処置で帰されたのでしょう。その判断は仕方ないと思います。

 まず保護された方に治療に成功したときに飼う意思があるか確認すると、「ハイ」と即答されました。そうなれば、治療になります。

 当時、エサも口にできないほど衰弱がひどく、治療方針は栄養を確保しながら、ノミの駆除と化膿部位の洗浄で、その上で骨折治療としました。何とか命を救い、断脚も避ける方針で、もし断脚せざるを得ないとしても3本脚での生活を想定すると、骨折部分からの切断回避が狙いでした。

 そこから奇跡が続いたのです。まずミルクをよく飲んでくれたのが1つ。これにより、適宜体全体を洗浄して、ノミの死骸や患部の状況を確認することができました。

 化膿した部位を消毒してから患部を縫合して、骨が動かないようにギプスで固定。点滴による栄養補給も並行したことで、骨折修復に耐えうる体力を備え、手術が可能と判断。骨折部位をピンで留める手術を行うことにしました。

 そして手術当日。X線で骨折部位を確認すると、その断面に骨の形成を促す骨芽細胞が増殖していることが確認できたのです。この細胞がさらに増えれば、骨折部位が修復され、しっかりとした骨になることが期待できました。

 手術はやめ、ギプスで固定したまま入院で運動を制限して成長を見守る方針に変更した結果、1カ月の入院後は骨が見事にくっついたのです。もちろん、わずかなズレはありますが、成猫では、この成果は得られなかったでしょう。

 奇跡の裏には、さらにいくつかの奇跡もあります。まず散歩中のワンちゃんが吠えなかったこと。それでてまりちゃんが逃げたら、そもそもこの縁が芽生えませんでした。もう1つは、手術よりノミの駆除や患部の洗浄を優先したことで、骨折治療のタイミングと成長期が重なったことです。それによって、メスを入れる骨折治療をせずに済みました。

 何よりも、てまりちゃんとワンちゃんの仲のよさです。写真の通り一緒に寄り添うように寝ていて、保護された方はその姿に毎日、癒やされているといいます。

(カーター動物病院・片岡重明院長)