【家電のことはオイラに聞いて!】#55

 中国に爆買いされた日本の高級炊飯器。日本での買い方が尋常でなかったため、中国政府が1年で爆買いを禁止したほどです。

 日本製をいろいろと真似してきた中国ですが、今でも日本の高級炊飯器と同じレベル、少なくとも日本のフラッグシップモデルレベルは作れていないのが実情です。

 最大の理由は内釜です。内釜の基本は金属ですが、三菱電機の本炭釜やタイガー魔法瓶の本土鍋のように非金属もあります。

 金属系は分析すれば模倣できなくもないでしょうが、炭や土鍋の模倣はまず無理。

 焼き物である土鍋は、焼成時の状態で膨張率にばらつきが出るため、完全に同じサイズにするのは至難の業。金属&樹脂で形成される工業製品である炊飯器との相性が実はよくない。しかし土鍋で炊くのは味にこだわる京都の料亭などでは当たり前。味に人一倍のこだわりを持つタイガー魔法瓶としては、なんとしても具現化したかったと聞きます。

 土鍋の生産地は大きく2つあります。萬古焼(三重県四日市市)と伊賀焼(同伊賀市)です。双方とも耐熱性に優れた土の産地。元琵琶湖湖底の土は微生物が多く、焼いた時に細かな空洞ができます。この空洞が保熱性、耐熱性に優れる理由です。

 タイガー魔法瓶は土鍋の寸法が同じになるように手を尽くす一方、内釜の受けを工夫しました。上下に稼働するフローティング構造を採用することで、密閉性を担保し、さらにIHコイルとの距離が一定になるように工夫したのです。

 昨年、タイガー魔法瓶は創立100周年モデルを出しました。IHを2層構造にした火力重視型です。本土鍋の耐火性をフルに活用した、高温で一気に炊き上げるモデルでした。

 歴代の炊飯器の集大成。これで技術的にはもう落ち着き、今年の101周年モデルは同レベルだろうと個人的には侮っていました。しかし発表されたモデルはなんと100周年モデル超え。2層構造のIHシステムを十二分に使いこなすため本土鍋の能力をさらに引き上げていたのです。

■新開発の釉薬でコーティング

 今回のパワーアップされた内釜は焼き物らしく、土の恵みである、シラスバルーンを使っています。シラスはシラス台地のシラス(火山灰)、バルーンはフカフカを意味します。シラスは気泡を多数含んで保温性がいい。これを土鍋底面の発熱部に練り込んだ上、さらに鉄・コバルトを含む新開発の釉薬でコーティングしています。

 現在、タイガー魔法瓶の最高ラインアップは「土鍋 ご泡火炊き」シリーズです。本土鍋をはじめとして全てのノウハウを入れ込んだ最高峰のJRX-G100。本土鍋自体は採用されていないが入門モデルとしてJRI-A100などの3機種があります。モデル値差は約6万9000円。普通の高級炊飯器が買えるレベルですが、味の差はしっかりわかります。食感、食味とも別格で、トップモデルで炊いたコメは実にうまい。10年使えば1日約19円です。日本メーカーがこだわり抜いた逸品家電。店頭試食だけでもしてみてほしい。

(多賀一晃/生活家電.com主宰)