【鈴木良平の「クールアイ」】

 なでしこジャパン(サッカー女子日本代表=世界ランク7位)が、米国で開催された「シービリーブス杯」で2連敗を喫して最下位となった。

 初戦で世界4位のアメリカに1−2で敗れたなでしこは、日本時間10日早朝キックオフの3位決定戦でブラジル(10位)と対戦。1−1で90分を終えて突入したPK戦を0−3で落としたのだ。

 試合は前半35分、ボランチのMF長谷川唯(マンチェスター・シティ)が右サイドに展開。FW浜野まいか(チェルシー)のクロスを1トップのFW田中美南(INAC神戸)が合わせて先制した。

 その田中が後半20分にPKを失敗。6分後にブラジルに同点に追い付かれてしまう。その後、途中出場のFW宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)が決定機を逸するなど勝ち切れず、延長なしの規定に沿ってPK戦に突入。

 先攻のなでしこは1番手のFW清家貴子(三菱浦和)、2番手のMF長野風花(リバプール)、3番手の長谷川が立て続けに失敗。3人全員が成功したブラジルに軍配が上がった。

 試合を通して攻勢が目立ったのはブラジルだった。なでしこは決定機を迎えるも、詰めの甘さもあって2点目、3点目を決めることができなかった。

 7月開幕のパリ五輪の前哨戦とも言うべき大会で結果を残せず、先行きを不安視する報道もあるが、そんなに悲観することはない。

 それどころか五輪本大会でなでしこは、ライバルとの戦いで持ち味をいかんなく発揮し、メダル獲得も夢ではないと思っている。

 五輪優勝候補のアメリカ戦でも同じことを感じたが、世界ランク以上の強さを感じさせたブラジルとの一戦でなでしこは「ただただ守ってカウンター攻撃に活路を見出す」ような消極的な戦いをせず、実にフレキシブルな攻撃を展開した。

 どんなに守勢に回っても後方からビルドアップしていき、中盤できっちりとボールを回して攻撃を組み立て、左右からのサイド攻撃や中央突破に加え、局面に応じてロングボールを交えるなど多彩な攻撃を見せた。

 後半序盤に印象的な場面があった。

 GK山下杏也加(INAC神戸)から縦パスを受けた長谷川が、前を向き直してピッチ中央付近のMF上野真美(広島)と鋭いパス交換。リターンのボールを2列目に下がった田中の足元に送った。

 田中はダイレクトでMF上野に送り、さらに左サイドを攻め上がったMF北川ひかる(INAC神戸)の足元に入った。

 北川は左足ダイレクトで右サイドにアーリークロス。これをFW藤野あおば(東京Vベレーザ)が絶妙トラップから左足で強烈シュート。ブラジルGKの好セーブにあって得点には至らなかったものの、最後尾から相手ゴール前まで繋ぎ、シュートに至った一連の流れは技術、アイデアともに実に素晴らしく、なでしこのチーム力の高さが伝わってくるプレーだった。

 ブラジル戦は最年長のDF熊谷紗希(ローマ)、背番号10の長野、FW植木理子(ウエストハム)、MF杉田妃和(ポートランド)といった主軸組がベンチスタートだった。A代表歴の少ない選手たちが、先発して実力国のブラジルと堂々と渡り合う姿を見ながら、日本女子サッカーの正常進化を確信した。 

 なでしこたちがパリ五輪でどこまで勝ち上がっていくか? 大きな期待とともに見守りたい。

(鈴木良平/サッカー解説者)