「気持ちよく投げられるボール(球種)が全然ない。(右肘の)手術の影響かは分からないが、感覚のズレみたいなものは手術後に出てきた」

 こう言って表情を曇らせたのは、タイガースの前田健太(36)。日本時間の先月19日、レンジャーズ戦に先発し、3回途中7安打6失点でKO。3本塁打を浴びるなど精彩を欠いた試合後のコメントだ。

 昨オフ、タイガースと2年総額2400万ドル(約37億2000万円)で契約。2日のカージナルス戦に先発し、6回1失点で今季初勝利を挙げたマエケンは、この試合前まで0勝1敗、防御率5.96で、7被弾はリーグワーストと不振だった。

「修正点は分かっているが、頭で分かっていても、体でうまくできない部分がある」とも話したマエケンを巡って、米球界内では、「このまま本来の投球ができないようなら、日本球界復帰もあるのでは」との見方が出ている。

 マエケンは昨年、右肘靱帯を再建するハイブリッド術から2年ぶりにメジャー復帰。21試合に登板し、6勝8敗、防御率4.23をマークした。シーズン中には古巣・広島への復帰のウワサが浮上するも、本人は「米国でやり残したこともたくさんあるし、まだまだメジャーリーグでやらないといけないこともある」と米球界残留を決断した。

 その際、広島の球団OBは「この2年の活躍次第では契約延長のオファーが届く可能性は十分にある。しばらくはこっちには戻ってこないだろう」と話していた。

 が、メジャーで通用しないとなれば話は別だ。タイガースが契約途中に戦力外にする可能性もゼロではない。

 日本人選手の出戻りといえば先日、前ジャイアンツマイナーの筒香嘉智(32)が古巣・DeNAに復帰。横浜スタジアムで行われた入団会見には約1万人が集結し、日本復帰戦となった20日の巨人・二軍戦(横須賀)にも3000人近いファンが詰めかけるなど、フィーバーになっている。

「仮にタイガースが前田を放出すれば、日本球界復帰の機運は高まるでしょう」とは、前出のOBだ。

来年は1000万ドル(約15億5000万円)保証

「今年36歳を迎えた前田にとって、現役として残された時間はそう長くはない。前田の契約は今年が年俸1400万ドル(約21億7000万円)で来年は1000万ドル(約15億5000万円)。今オフにタイガースが放出したとしても、前田は来年分の年俸は保証される。広島は前田が日本球界復帰を決断すれば、いつでも手を挙げる準備はできている。少なくとも来季に関しては年俸を安く抑えられるでしょう。22年途中にパドレス3Aの秋山翔吾を獲得した際も、22年の年俸800万ドルは20年に3年契約を結んでいたレッズが負担。広島は24年までの3年契約のうち、22年分の年俸は7500万円で済んだ。前田が日本球界復帰を決断すれば、巨人など他球団の動向は気になりますが、15年オフにポスティングでドジャース入りした際は、『僕はカープに入団してカープに育ててもらったので、すごく恩はあります。今回もポスティングを認めてもらいました。もちろん愛着があります』と話していた。広島復帰が本線でしょう」

■グラスノーとは対照的

 一方で、某野球評論家は「日本に帰ってくるかどうかは、右肘の状態次第ではないか」と、こう続ける。

「報道陣に不安を吐露するなど、右肘の悩みは小さくないのでしょう。手術から復帰し、21試合に登板した昨季も出足はつまずき、4月は0勝4敗、防御率9.00にとどまった。術前と術後で、自分が気づかないフォームや感覚のズレが生じ、4月下旬に右腕の三頭筋痛でILリスト入り。本人は『手術前なら出ない筋肉の張りが出た。痛みをかばいながら投げていたので、ずっとそのフォームが染み付いていた』と話していましたが、IL期間中に投球フォームを見直したことで調子を上げることができた。今季も調子が上がってくれば米国で2年契約を全うする可能性はある。ただ、前田と同じ21年8月に右肘のハイブリッド手術をしたドジャースのグラスノーは昨季、同様に21試合に登板して10勝をマーク。今季は開幕から5勝1敗と好調を維持している。前田の復調が遅れているのは心配です。右肘の状態が上がってこないなら、米国でのプレーは難しくなる。日本に活路を見いだすかもしれません」

 いずれにせよ、一番ヤキモキしているのは、広島のフロントとファンではないか。