【松坂、筒香を育てた小倉清一郎 鬼の秘伝書】#198

 日本高野連は先月19日、夏の甲子園大会から一部日程で、試合開始時間を午前と夕方に分ける「2部制」の導入を決めた。

 対象日は1日の試合数が3試合の初日から3日目までで、熱中症対策の一環として大会史上初めて実施される。

 主催の朝日新聞によれば、まず2部制をやることで、将来的な「午前2試合・午後2試合」の2部制導入に向けて課題を把握する狙いがあるという。

 これまで甲子園では、午後の試合で「ベンチ格差」が起きていた。

 晴天の午後3時で比べると、三塁側ベンチには西日が直撃する。一方で一塁側は日陰になる。ベンチ内の温度の違いから、選手の消耗度に格差が生じていた。2部制の日は、この時間に行わないため、不公平は解消される。

 近年の夏は35度を超える危険な暑さの日が続く。今回はテストケースとして、まず第一歩を踏み出したことは評価できる。ただ、ナイターの試合が増加すると、自校のグラウンドに照明設備を備えている一部の私立強豪校と、それ以外の格差がますます広がる。飛球の見え方などに違いが出るからだ。特に風がある日の甲子園でのナイターは、ボールが見えにくいうえ、打球が流されるため、慣れている阪神の選手でさえ「フライは難しい」と漏らすほど。ほとんどが初体験の高校生の試合なら、落球が続出することになりかねない。

 応援団の問題も浮上する。この先、午前2試合・午後2試合の4試合制になった時、最後の試合は午後11時ごろ終了というケースが出てくる。

 人数が多く、お金がかかるため、基本的に応援団は宿泊せずにバスで地元へ帰る。ただ、遠方の代表校の場合、帰るには遅すぎる時間だ。試合時間によっては「応援団派遣なし」ということもあり得るかもしれない。

 前回大会から五回の3アウト成立時から10分間、熱中症対策のためのクーリングタイムが設けられた。これにより、現場では「先攻を取れ」という動きが出ている。

 10分間試合が止まると、影響は投手に出る。休憩後の六回表に得点が入るケースが増えたからだ。

 私は以前から提唱しているが、1回戦の一部だけでも京セラドーム大阪を併用する方法が、熱中症対策の究極だと思う。

 2021年夏、東京五輪のため神宮球場が使用できず、史上初めて東京ドームで東西の東京大会の準決勝、決勝が行われた。この時、参加校は「思い出になった」と口を揃えた。何より、灼熱の太陽にさらされることなく、空調の効いたドーム球場でプレーできれば、故障や熱中症のリスクが軽減される。観戦するファンの負担も小さくなる。

 京セラドーム大阪でも1回戦が消化できれば、16強が出揃う3回戦以降は中3日程度の間隔を空けて日程を組むことも可能になる。本気でドーム開催を議論する時期にきている。死人が出てからでは遅いのだ。

(小倉清一郎/元横浜高校野球部部長)

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 日刊ゲンダイでは元横浜高校野球部部長の小倉清一郎氏と専大松戸の持丸修一監督のコラムを毎週交互に連載している。

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