<プロボクシング:WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇6日◇東京ドーム

WBA世界バンタム級王者井上拓真(28=大橋)が「スクランブル態勢」で2度目の防衛に成功した。同級1位石田匠(32=井岡)の挑戦を受け、118−109が2人、116−111の3−0判定で勝利。2月24日、元IBF世界スーパーフライ級王座を9度防衛した強豪ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を9回KO撃破してから約2カ月半という短期間で連続防衛を成功させた。

試合後にリング上でマイクを握った井上は「やっぱり想像以上に石田選手のジャブにやりづらさがあった。苦戦はしましたけど、唯一の収穫は競り勝てたこと」と振り返った。同級には強豪がひしめくが、「こんな内容じゃ統一戦とか言ってらんない」と反省も忘れず。「もっとしっかり課題をクリアして、もっと強いチャンピオンになりたいと思います」と力を込めた。

アンカハス戦後、1週間でジムワークを再開した。井上は「この短いスパンは初めてだが、試合後に『全然。いけるじゃん』と。気持ちも切り替わり、前回の試合で仕上げたままやっているのですごく状態は良い。選手寿命は限られている。できる時やりたい」と好調をキープしたまま、大舞台に備えていた。

キャリア40戦で1度もKO負けのない元V9王者アンカハスを右ボディーアッパー一撃で倒した自信は大きいものだった。井上は「良い勝ち方ができた。その勢いのまま、しっかり良い内容で勝ちたい」と強調。自ら「覚醒」した手応えを持って東京ドームのリングに立った。通常は厳しい指導が多い父真吾トレーナー(52)も「前々からやってきたことが、アンカハス戦ですごく出せた。もともとある拓真の引き出しが出せるようになってきた。ひと皮ふた皮とむけた」と高く評価。アンカハス戦後、真吾トレーナーは「尚弥での試合ではなかった」といううれし涙を流していた。

4日には西田凌佑(28=六島)がIBF世界バンタム級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を下して新王者となった。これでWBAは井上、WBCは中谷潤人(M・T)、IBFは西田と世界主要4団体中3団体を日本人が制圧した。井上は刺激を受け「すごく良い感じでバンタム級が盛り上がっているので、自分もしっかり良い結果を残したい。バンタム級最強をアピールしたい」と気合を入れ直し、石田戦に臨んでいた。

4団体統一スーパーバンタム級王者の兄尚弥(31=大橋)との同時防衛戦は19年11月以来、約4年6カ月ぶりだった。井上は「前回やった時は自分が負けてしまった。兄弟同時防衛戦は前回よりも自信があるから楽しみ。最高のバトンを兄につなげたい」とイメージを膨らませていた。その宣言していた通り、2度目の防衛成功で井上家に勢いをつけた。

◆井上拓真(いのうえ・たくま)1995年(平7)12月26日、神奈川・座間市生まれ。父真吾氏と兄尚弥の影響で4歳からボクシングを始める。高校2冠後、13年12月にプロデビューし、福原辰弥に判定勝利。15年7月に東洋太平洋スーパーフライ級王座を獲得。18年12月にWBC世界バンタム級暫定王座奪取も、19年11月に正規王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に敗れて王座陥落。21年にWBOアジア・パシフィック・スーパーバンタム級王座、日本同級王座を獲得。23年4月、WBA世界バンタム級王座獲得し1度防衛。身長163センチの右ボクサーファイター。