陸上男子短距離の柳田大輝(20=東洋大)が、パリオリンピック(五輪)代表入りへ好発進を切った。
4月27日に米ルイジアナ州立大招待でシーズンインし、自己タイ記録となる10秒02(追い風1・7メートル)をマーク。五輪の参加標準記録には0秒02届かなかったが、今季初戦で日本歴代7位タイの好記録を残した。6月30日までに参加標準を突破し、かつ日本選手権(6月27〜30日)で優勝すれば、初の五輪代表に内定。参加標準未突破や2位以下の場合でも、同選手権の成績や6月末時点の世界ランキング次第で代表入りとなる。
5月4、5日(日本時間5、6日)にはパリ五輪400メートルリレーの出場権を懸け、世界リレー(バハマ)の同種目で2走を務める。初戦に続く快走を見せ、五輪イヤーへ弾みをつける。
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■パリ五輪シーズンは「ワクワク」
春の到来を予感させる2月某日。東洋大・川越キャンパスの室内走路。
パリ五輪シーズンを前に、柳田は高揚感を漂わせていた。
「ワクワクですね。9秒台や10秒0台の選手が集れば、その分だけ代表争いは激烈になりますが、そこを勝ち抜かないと五輪では戦うことができない。相手は気にせず、自分がちゃんと走ることだけを意識しています。日本で負けていたら世界でも負ける。世界陸上や五輪でファイナルを目指すのであれば、日本では絶対に勝たないといけないと思っています」
スマートフォンを開けば、海外でシーズンインしたライバル選手の情報が自然と流れてくる。それも気に留めないようにしていた。
「嫌でも結果は目に入るので。でもあまり深入りしないようにしています」
このオフの期間も自身と向き合いながら、地道に鍛錬を重ねてきた。
柳田の特徴の1つは、大きなストライドを生かした走り。持ち前の脚力と体全体とのバランスを高めるため、ウエートトレーニングで主に上半身を鍛えてきた。
「もともと『脚はしっかりできている』と言われていたので、上半身を鍛えることでバランスをとろうとしています。(ウエートのメニューは1年前と比べて)大きくは変えていないですが、種目数を増やしました。火曜と土曜の週2日の頻度でウエートのメニューが組まれていて、火曜はウエートの練習後に自由時間になるんですけど、その後もウエートをするようにしていて。去年まではその時間に走っていましたが、今年は意識的にウエートの時間を増やしました。1年前もウエートを増やしたことでタイムが伸びたので、やっていることは間違っていないと感じます。昨年以上にトレーニングを積めば、今年も五輪で良い結果が見えると思いました」
特に重視したのは、過去の自分と比較すること。
スマートフォンのメモ機能には、大学1年以降のトレーニングの進捗がずらりと並ぶ。トレーニングの種類とウエートの重量を羅列し、変化が一目で分かるようになっている。
誰かに促されたのではなく、自発的に始めたものだ。
「1年の冬からウエートがメインの日も設けられるようになったので、変化を見てみたいと興味本位で始めました。いきなりドーンと変わるわけではないですが、メモを見返していると『この練習で強くなったのかな?』と思うことが何回かあります。ずっと記録していけば、線でつながっていくと思うので。(1年前と比べて数字が)下回っているメニューはないと思います」
競技会へ足を運ぶと、久々に顔を合わせた関係者から「体が大きくなった」と言われることも増えた。
ウエート自体は「嫌いなのでやりたくない」と苦笑いを浮かべるが、このメモがモチベーションとなっていた。
「1年前と比べてどうなっているのかが、数字を見ただけで分かる。その気付きがあると、練習がおっくうにならないので」
日々の積み重ねによる充実感が、冒頭の「ワクワク」という言葉にもつながっていた。
■4月下旬に今季初戦「パリに合わせていく」
昨季は6月の日本選手権で2位に入ると、7月のアジア選手権では金メダルを獲得。8月の世界選手権でも準決勝に進出した。
ただ、アジア選手権の前後がピークとなり、世界選手権ではベストコンディションで臨めなかったとの反省もあった。
今季はその教訓を生かすべく、シーズン初戦を4月下旬とした。
4月20日。世界リレー向けた公開練習後に、理由の一端を明かしていた。
「去年はブダペストにギリギリ間に合わせたような感じとなったので、今年はパリに合わせていく意図がありました。シーズンインを遅らせることで練習も長く積めるとも考えています。『どうなるのかな』という思いもありましたが、やることもたくさんあったので、逆に『まだもう少し準備する期間がある』と捉えることができました」
焦らずに土台を固めてきた手応えが、言葉ににじんだ。
オフ期間のトレーニングにも、確かな成長を感じ取っていた。
「ウエートでは、重量も回数もできるようになりました。そこは目に見えて分かるくらい成長したところだと言えます。筋力が高まればスピードも出ると思うので、あとはいかに自分でコントロールして走るかが重要になると思います」
10秒02をマークしたシーズン初戦に続き、世界リレーでも快走へ。
花の都で躍動を目指す20歳が、さらにギアを上げていく。
◆世界リレーでパリ五輪400メートルリレーの出場権獲得へ パリ五輪の同種目の出場枠は「16」で、世界リレーで上位14カ国に入れば五輪の出場権が付与される。残り2枠については、選考期間(22年12月31日〜24年6月30日)のトップリストの上位から選出。
◆柳田大輝(やなぎた・ひろき) 2003年(平15)7月25日、群馬県館林市生まれ。館林一小の中学年から県内の陸上教室で競技を始め、館林一中での主な専門種目は短距離と走り幅跳び。中3時の18年全日本中学校陸上競技選手権では100メートルで2位、走り幅跳びで優勝。19年から農大二高に進学し、高2から4年連続で日本選手権男子100メートルに出場。22年に東洋大に進学し、同年の世界選手権400メートルリレー代表。23年7月のアジア選手権100メートルで優勝し、同8月の世界選手権で準決勝進出。自己ベストは10秒02。
※柳田の「柳」は木ヘンに却の去がタ