◆バレーボール女子元日本代表・迫田さおりさんコラム「心の旅」
 好きな言葉は「心(こころ)」だという。バレーボール女子元日本代表のアタッカー、迫田さおりさんは華麗なバックアタックを武器に2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献した。現役引退後は解説者などで活躍の場を広げながら、スポーツの魅力を発信しようと自身の思いをつづっている。

 春ですね。冬を乗り越えて今年も桜がきれいに咲きました。花を支えているのは、目に見えない根っこです。私たちも同じではないでしょうか。淡いピンク色の景色を眺めていると、バレーボール女子日本代表のセッターで、Vリーグの東レアローズを今季限りで退団した関菜々巳(ななみ)選手の顔が浮かびました。石川真佑選手(現フィレンツェ)をはじめ多くの主力が抜けた今季、東レは12チーム中8位に沈みました。

 千葉の柏井高から2018年に入団した東レでの6シーズン。関選手にとって「優勝」は、近いようで遠いものでした。常に上位争いをしながら、あと一歩のところで涙をのんできました。それでもセッターの先輩でコーチだった中道瞳さんに師事して力を付け、勝つためのアプローチを欠かしませんでした。

 東レでユニホームを脱いだ後もスタッフとして携わっていた私は、17年に当時高校3年生だった彼女と話をする機会がありました。相手の目を見て話し、質問の受け答えもしっかりしていました。「日本代表でプレーする」との明確な目標があり、中道さんも交えて一緒に将来について語り合いました。

課題だったレシーブ、年を追うごとに上達

 器用ではなくても全力で取り組む選手…が第一印象です。課題だったレシーブも年を追うごとに上達しました。セッターだからトスだけ頑張ればいい、ではありません。どうすればチームに必要とされるのか―。苦手なプレーをプラスに変えるための労をいといませんでした。他の選手のレシーブやつなぎから、ボールがどこに来るのかを予測して素早く動く。単に拾うだけではない「レシーブ力」を磨き上げた気がします。

 来季は海外でのプレーを目指しています。高い目標の持ち主だけに競技人生のプランの一つとして温めていたのでしょう。決意を知った時は「頑張れ!」と、手をたたきました。私にはない勇気や行動力を持っているからこそ、立場は違っても刺激をもらいました。

【次ページに続く】「負けた悔しさを」

 ここからは愛称の「セナ」で呼ばせてください。どんな状況でも「誇りを持って踏ん張っているところ」が彼女の魅力です。パリ五輪の出場切符がお預けとなった昨秋の予選の後、女子日本代表の眞鍋政義監督はこう呼びかけたそうです。「負けた悔しさを持ち続けられる選手が最後に勝つ」―。セナはその言葉をずっと忘れずにいたに違いありません。

地道に「根」を太く、強く

 足りない部分を考え、補う努力を積み重ねながら、成長してきました。東レは石川選手らが在籍した昨季まではレフト側からの攻撃が目立ちました。今季は逆のライト側に外国人選手をエースとして配しました。苦しい戦いの中でも懸命にトスを上げ続けたセナの「踏ん張り」もあり、その選手は得点王に輝きました。

 女子日本代表の活動も今後本格化します。五輪のコートに立てるかどうかは、6月中旬の世界ランキングで決まります。選手は出場権獲得の重圧と闘うとともに、代表の最終メンバーに残るための競争にも身を置くことになります。地道に「根」を太く、強くしてきたセナのことです。もがきながらも、目の前のことに対して、一つ一つ丁寧に向き合ってくれることでしょう。誇り高く、走り続ける姿を見守っていきます。
(バレーボール女子元日本代表、スポーツビズ所属)

【次ページ】関菜々巳はこんな人

関菜々巳 せき・ななみ 1999年6月12日生まれ。千葉県船橋市出身。ポジションはセッター。姉の影響を受け、同市の法典西小2年から「塚田JSC」でバレーボールを始める。同市の行田中から柏井高(千葉)に進学。高校3年時の全日本高校選手権(春高バレー)は3回戦で、中川美柚や西村弥菜美(いずれも現久光スプリングス)を擁する東九州龍谷高(大分)に敗れた。2017年11月に東レアローズへの入団内定が発表された。正セッターとなった18〜19年シーズンは最優秀新人賞とベスト6に選出され、以後ミドルブロッカーを絡めた多彩なトスワーク、効果的なサーブで東レをけん引。女子日本代表は19年に初選出。今年2月、海外リーグ挑戦を見据え東レ退団が発表された。身長171センチ。愛称は「セナ」。

【次ページ】迫田さおりさん略歴

迫田さおり さこだ・さおり 1987年12月18日生まれ。鹿児島市出身。小学3年で競技を始め、鹿児島西高(現明桜館高)から2006年に東レアローズ入団。10年日本代表入り。12年ロンドン五輪で銅メダルを獲得、16年リオデジャネイロ五輪にも出場。17年現役引退。身長176センチ。