辻発彦さんコラム「一所懸命」❽
 プロ野球が開幕して1カ月近くたちました。パ・リーグは強力打線のソフトバンクが首位で、4連覇を目指すオリックスも最初は苦しみましたが、徐々に力を発揮しています。西武も7連敗があったとはいえ、先発の駒はそろっているので盛り返してくれるでしょう。

 西武投手陣の中で気になる存在が北九州市出身で、ドラフト1位入団の武内夏暉です。プロ初登板で初先発だった3日のオリックス戦(ベルーナドーム)を球場で解説しました。7回1安打無失点、85球でのプロ初勝利は圧巻の内容でした。

デビュー戦、グラブをたたいて喜びながらベンチに戻る西武・武内

 コントロールが良いので、打者に対してファーストストライクを取って優位に立つんですね。150キロ前後の真っすぐは、球速以上に打者が差し込まれている印象でした。同じ左投手の和田毅(ソフトバンク)を意識しているようで、球の出どころが見づらいのかもしれません。

マウンドでは堂々としたイメージ

 開幕前に話を聞く機会があって、性格はおっとりしている感じでしたけど、マウンドではイメージが違って堂々と投げていました。プロ2戦目の10日のロッテ戦(ベルーナドーム)も勝敗こそ付きませんでしたが、7回4安打2失点と上々の内容でした。

 西武の監督だった2022年、ドラフト1位で西日本工大(福岡)から隅田知一郎が入団してきました。武内が3球団の抽選で獲得した逸材ならば、長崎県大村市出身の隅田も4球団が競合した話題の投手でした。九州出身の大卒左腕という共通点もあります。

【次ページに続く】苦しい経験を生かして

 隅田は22年3月26日、プロ初登板初先発だったオリックス戦(ベルーナドーム)で7回1安打無失点と好投して、プロ初勝利を挙げました。武内と同じように二塁を踏ませない快投。私も喜びましたが、そこからプロの壁にぶつかり、初登板の1勝にとどまってしまいましたね。

何より投げっぷりの良さ

 あの年の隅田の場合、打線の援護が少ないという不運もありました。性格的にも、隅田は少し神経質な面もあって、テンポが悪くて四球を出して崩れたことも。その1年目の苦しい経験を生かして成長し、昨年は9勝を挙げて日本代表「侍ジャパン」に選ばれるまでに成長しました。

 初登板を85球で降板した武内。首脳陣は緊張感などによる見えない疲労も考慮したのでしょう。無理をしての故障は避けたいので、登板間隔を空けながら、慎重な起用が続くでしょう。武内は投球のテンポも良さそうですし、何より投げっぷりの良さを見ると、このまま苦しまずに1年目を戦えるのではないかと期待しています。

(埼玉西武ライオンズ前監督)

【次ページ】辻発彦さんはこんな人

 辻発彦(つじ・はつひこ) 1958年10月24日生まれ。佐賀県小城市出身。佐賀東高から日本通運を経て、84年ドラフト2位で西武入団。ゴールデングラブ賞を二塁手として8度受賞した。93年に首位打者。96年にヤクルトに移籍し、99年現役引退。通算成績は1562試合で打率2割8分2厘、56本塁打、510打点。引退後はヤクルト、横浜(現DeNA)、中日でコーチなどを経験。2017年から西武の監督を6シーズン務め、18、19年にリーグ優勝に導いた。