2023年の期間内(対象:2023年9月〜2023年12月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ドラフト部門の第5位は、こちら!(初公開日 2023年11月3日/肩書などはすべて当時)。

超高校級スラッガーの指名漏れ、史上最多の23人が指名された独立リーグの躍進など、さまざまなトピックが注目を集めた2023年のドラフト会議。元中日監督の谷繁元信氏は、議論を呼んだ「順位縛り」をどう考えるのか? また、セ・パ12球団でもっとも「興味を惹かれた指名」とは? 史上最多の通算3021試合に出場したレジェンドが、鋭い視点でドラフト会議を総括する。(全3回の3回目/#1「セ・リーグ編」、#2「パ・リーグ編」へ)

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「独立リーグから計23名が指名された」

 近年のドラフト会議で1位指名がこれだけ抽選になることはあまりなかったので、見ている立場からすると今年は非常に面白いドラフトでした。加えて今回は、独立リーグからの指名が非常に多かった(支配下6人、育成17人の計23人)。野球の裾野を広めるという意味でも、独立リーグのレベルアップはすごくいい傾向だと思いますね。

 育成ドラフトではソフトバンク(8人)や巨人(7人)、西武(6人)といった球団が多くの選手を指名しました。もちろんプロは厳しい世界ですし、育成で入ったところで支配下になれるかどうかはわからない。それだけの選手を囲えるのは資金力のあるチームだけ、という事情もあります。

 とはいえ、キャンプを終えたタイミングや開幕前の早いタイミングで、育成契約から支配下登録を勝ち取る選手もいる。もちろんシーズン中にも“昇格”のチャンスがある。そこに目を向けると、育成ドラフトの活用も決して悪いことではないのかな、と個人的には思います。

「“順位縛り”は個人的に疑問」

 今回のドラフトで指名漏れした選手のなかでは、真鍋慧選手(広陵高)が話題を集めていますね。彼自身の考えや、実際にどういった事情があったのかはわかりませんが、「3位までの指名順位縛り」を設けていた、という報道もありました。

 真鍋選手のケースをどう考えるのかは難しいところですが、「順位縛り」に対しては個人的に疑問を抱いています。縛りがなければ、4位や5位、6位での指名があったかもしれない。率直に言うなら、プロに入りたいのか、入りたくないのか、どちらなのかな、と。プロ野球の世界というのは、入ってからが勝負なんですよ。入らないことには活躍もできないし、給料も稼げない。ドラフトはあくまでも入り口でしかない。どういった考えでそういった縛りを設けるのか、僕にはわからないというのが正直なところです。

 もちろん4位以下は契約金がいくらか安いという事実はあります。それを忌避しているのか、あるいは単純に上位でなければプライド的に納得がいかない、ということなのか。ただ、実際のところ入ってしまえば一緒なんですよ。1位だろうが6位だろうが、頑張れば頑張っただけ給料がもらえる。厳しい言い方かもしれませんが、それだったら最初から「プロには行かない」と宣言したほうが潔くてカッコいいじゃないですか。

 これは真鍋選手の話というわけではなく、本気でプロを目指しているのなら、育成指名でも入っていけばいい。独立リーグ経由なら最速で1年ですが、大学に行ったら4年、社会人なら高卒でも3年はプロに入れないわけですから。その間に支配下になって、1年、2年と活躍できたら、ドラフト上位の契約金以上のお金を稼ぐこともできるかもしれない。

 たしかに高校の段階では「まだちょっとプロのレベルに達していないな」という選手でも、大学や社会人、独立リーグで飛躍的に成長する例はたくさんあります。今年のドラフト上位で指名された大学生の投手も大半がそういう選手でしょう。ただ、彼らの場合は高校の時点で縛りがあったわけではなく、プロに入りたくても入れなかった選手です。

 過去には「順位縛り」を設けたがために失敗した選手も、けっこういると思うんですよ。大学で怪我をするかもしれないし、まったく成長できずプロから一切声がかからなくなるかもしれない。もちろん各選手の選択は尊重するというのが大前提ですが、プロを志望していて実際にそのチャンスがある、何位でも指名してくれる球団があるというのであれば、そのタイミングで行ったほうがいいのではないか……というのが僕の考えです。

「ドラ1、10人はすぐに試合に出られる」

 今年のドラフトをあらためて振り返ると、大学生を中心にピッチャーは豊作と言っていい年だったと思います。ただ、個人的に「先が見てみたい」と感じたのは、高校生を中心としたオリックスの指名です。

 1位の横山聖哉選手(上田西高)しかり、4位の堀柊那選手(報徳学園高)しかり。3年後、4年後にかけて、彼らがどう育っていくのかが楽しみです。

 来年すぐに結果が出るかどうか、という観点から見ると、やはり横浜DeNAの度会隆輝選手(ENEOS)が気になります。果たして、どこを守って何番を打っているのか……。どんな形であれ試合には起用されると思うので、彼の活躍にも注目したいですね。

 度会選手にかぎらず、来年は今回のドラフト上位選手がけっこう試合に出ているんじゃないかと予想しています。1位指名のうち、横山選手とソフトバンクの前田悠伍投手(大阪桐蔭高)という2人の高校生を除いた10人は、ほぼ即戦力として一軍に入っていそうだな、と。結果はフタを開けてみないとわかりませんが、今すぐにでも試合で投げられるレベルの投手ばかりという印象です。

 オリックスとソフトバンク以外の10球団はドラフト1位の選手がハマれば間違いなく戦力アップになりますから、その結果がすぐに表れて優勝争いに絡む可能性も十分にあるでしょう。まずは来年、ルーキーたちの活躍を楽しみに見守りたいと思います。

(構成:NumberWeb編集部)

<「セ・リーグ編」、「パ・リーグ」編から続く>

文=谷繁元信

photograph by Asahi Shimbun