NBAフェニックス・サンズでプレーする渡邊雄太の近況レポート全2回。前編では、困難に立ち向かうメンタリティー、中堅選手としての苦悩を明かしている〈後編へ続く〉。

 息を切らせて汗だくで練習を終え、コートサイドの椅子に腰かけた渡邊雄太から、思わず本音がこぼれた。

「試合に出ているときより、出ていないときのほうがしんどいんですよね」

 1月10日、試合のためにロサンゼルスに滞在中だったフェニックス・サンズは、UCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス校)の体育館でチーム練習を行っていた。

 まず朝10時半にホテルの会議室に集合して映像をみながらミーティングを行ったあと、バスに乗ってUCLAに移動して練習。試合に出ている主力選手たちは午後1時過ぎにホテルへ帰っていったが、渡邊らローテーションから外れている選手たちはコートに残り、アシスタントコーチたちも交ざって30分ほどピックアップゲーム(試合形式の練習)を続けた。

 さらにその後、オールコートでダッシュしては3ポイントショット(3P)を打つという激しいドリルを約15分。すべてが終わったのは午後2時過ぎだった。試合に出ていない選手は、コンディショニングを保ち、試合感覚を磨いておくためにそういった追加練習が必要になる。

「試合に出ていないと、試合や練習の時間にプラスアルファでずっとこういうことをやってるんで。(試合に出られないフラストレーションで)精神的にダメージになるというのもありますけど、単純にコートにいる時間だったり、いろいろ練習しなきゃいけない時間は長くなるんで、試合やってるよりきついっすね」

「今日やって、サボるなら明日にしよう」

「しんどい」「きつい」と言いながらも、もちろんサボることはない。苦境に直面したときにどう対応するかで、その人の本質が見えてくるものだが、渡邊の場合は諦めない姿勢、努力し続ける姿勢がそのひとつだ。

「結局、しんどいときでも止めれない性格というか。正直、こんな性格じゃなくて諦めることに躊躇ない性格だったらどんだけ楽だろうなと思うときはありますけど、結局、いつも『しんどいけど、今日もう1回頑張ろう』って体育館に行って。こうやってしんどいことやった後、これだけ汗かいて、息も上がってますけど、体育館を出るときには『今日もいい練習できたな』って思える。その後、『今日できたんだからまた明日頑張るかな』っていうふうに思ってる。

 サボる人って、『今日休んで、明日やればいい』っていう考え方がずっと続くと言いますけれど、僕はその逆。『今日やって、サボるなら明日にしよう』って決めて、やって、明日になったら『今日、もう1回やろう』の繰り返し。こういうときはいつも、いわゆるサボりぐせがある人とは全く逆のアプローチでやるようにしてます。しんどいときでも、そういう考え方だから頑張れます。考え方というか、元々身体に染みついてるのもあるんですけど。いろいろと考えすぎな部分もあったり、不安になることもたくさんありますけど、自分が練習をしっかり頑張ってるっていうところに嘘は一切ない。だから、明日もまた頑張れるのかなっていうのもあります」

 サンズに入って1シーズン目の今季、開幕後しばらくは安定した出場時間を得ていたが、12月に入って徐々に出場時間が減り、最近では試合に出られるのは大差がついた試合終盤だけになってきた。故障欠場していた主力選手が戻ってきたことに加え、渡邊の武器であるはずのシュートの調子が上がらないことも大きい。

 今季のサンズは、ビッグ3と呼ばれるオールスター3人を中心としたチームで、その脇を固める選手の多くが、渡邊も含めてNBAに入って6〜7年目の中堅選手たちだ。新人や2年目の若手がいないだけに出場時間を巡る競争は熾烈で、コーチも最近まではローテーションを決めかねて、色々と試していて、役割もなかなか固定しなかった。そんな中で、脇役選手たちの多くが悩みながらやっているのだと渡邊は明かす。

「これは僕らでよく話すんですけれど、正直、誰が出てもそれなりにやれてしまう分、試合に出るのか出ないのかといった部分で、自分たち、いわゆるロールプレイヤーと呼ばれている選手たちみんなが葛藤を抱えながらやっている部分がある。6年目、7年目の選手が多い中で、それぞれが自分の役割を理解してここにはいるんですけれど、それでも僕を含めて、みんな精神的にちょっとうまく乗り切れていない部分は正直あるかなとは思います」

激しいマークで3P成功率がダウン

 渡邊も、試合に出られない一番の理由が自分のシュート不調にあることはよくわかっている。昨季、ブルックリン・ネッツにいたときには3P成功率44.4%という高確率を残し、特にシーズン前半には50%を超える確率でリーグ首位だったこともあったのだが、今季は40%を超えられず、最近では30%をかろうじて上回る程度だ。

 相手からシューターとして警戒され、ディフェンスが激しくマークしてくる中で、打ち急ぎすぎてぶれたり、自分のリズムで打ちきれていないことが成功率の落ちている原因だと自己分析する。

 その一方で、ローテーションの中で一定の時間使ってもらえれば、もっと決められるという自負はある。実際、開幕から12試合、平均18.6分の出場時間を得ていたときの3P成功率は37.2%と悪くなかった。しかし12月13日以降の16試合中でコートに立てた試合は半分の8試合。主に勝負が決まった試合終盤だけで平均6分余しか出場できず、その間、3Pを1本も決めることができていない。

「僕がこのチームで求められていることは3ポイントなんで、そこはしっかり打ち続けていきたい。確率は悪くはなってきていますけれど、ローテーションでプレーしていたときはそんなに確率も悪くなかった。練習でのタッチも悪くない。自分がローテーションに入っていたときにしっかり固定されるぐらいの結果を残せなかったっていう部分は本当に自分の責任ですけれど」

 自省しながらも、シュート力への自信は失っていない。

「ローテーションに入っているときは確率も悪くなかった」というのは、ヘッドコーチのフランク・ボーゲルもわかっているようだ。渡邊の3P成功率が落ちていることについて聞くと、ボーゲルHCは「最近は出場時間が減っているからね。普通のローテーションで一定の時間プレーしていたときの彼は、自信をもって決めていた」と答えた。

 ただ、それがわかっていてもローテーションに戻さないということは、今の時点で渡邊の役割は別のところにあるということだ。今は短い時間でも試合に出たときにシュートを決めること。そうすることで、役割も変わっていくかもしれない。

29歳で実感する身体の変化

 ローテーション外になることで難しいのは、拘束時間が長くなることやメンタル面のことだけではない。去年10月で29歳になった渡邊は、以前のようにウォームアップなしでいきなり動くことが難しくなってきたのを感じるという。

「あんまり言いたくないというか、考えたくはないんですけど、今までは例えば試合が始まって2時間、ほかの選手のプレーをずっと見ていて、残り5分ぐらいで試合に出されても、全力疾走できたんすよね。今は、そこからだと正直、自分が思ってるほど身体が動かないというか、キレがないなって感じてます。練習のはじめとかでも、今までだったら体育館に来てウォーミングアップなしで軽くダンクできてたのが、今は、たぶんやろうと思えばできますけれど、昔ほど軽く跳べないです。疲れとかも昔に比べたらだいぶ変わってきてるなっていうのは感じます」

 そう言ってから、自分に言い聞かせるように続けた。

「でも、そこは正直言い訳できないっていうか、そういう状況でも、やっぱやらなきゃいけない」

(後編へ続く)

文=宮地陽子

photograph by AP/AFLO