NBAフェニックス・サンズでプレーする渡邊雄太の近況レポート全2回。後編では、激しいポジション争いをするライバルとの特別な関係を明かしている《前編から読む》。

 どれだけ状況が苦しくても、渡邊雄太は「自信はあります」と言い切る。

 1月8日のロサンゼルス・クリッパーズ戦で、大差がついた試合終盤にコートに立った渡邊は、ノーマークの3ポイントシュートを2本打ったが、2本とも外してしまった。試合後、「あれは決めなくてはいけないシュートだった」と反省しながらも、渡邊は自信を失ってはいないと言った。

「正直、練習中でもタッチとかはすごくいいですし。だから、全然自信がなくなっているとかではない。今はとにかく、練習して自分の番を待つしかないかなっていう感じですね」

「自分に言い聞かせてる部分もある」

 世界最高峰のNBAは、自信がないとやっていけない世界だ。と同時に、まわりは実力も自信もある選手ばかり。その中で、しかも試合に出られないときも自信を持ち続けることはどれだけ大変なのだろうか。そう聞くと、渡邊は、その言葉の裏にある考え方を明かしてくれた。

「自分に言い聞かせてる部分もありますね。自己暗示みたいなのもすごい大事だと思ってるんで。自分に自信ないかもって思いだしたら、多分、そういうふうにずっと負の方向に行っちゃうような気がする。

 今までの経験上、こういうのを乗り越えてきたっていうのもありますし、あと自分自身に対して自信を持ってやり続けようっていう意味も込めてというか。本当に自己暗示みたいな部分も、50%ぐらいあります」

 NBAに入ってから何度も苦しい時期を乗り越え、そのたびに成長してきた。NBAに入ってからの5年半で一番苦しそうな渡邊の姿を見たのは、2年前、トロント・ラプターズにいたとき、やはり試合に出られずに悩んでいたときだった。あれほど練習熱心な渡邊が「練習に行きたくない」とまで思った時期だ。

 今は、その時よりは状態はよさそうに見える。しかし渡邊は、客観的に考えれば今の状況は2年前より厳しいかもしれないと言う。

「ラプターズのときが本当にめちゃくちゃしんどかった。今も多分そう(しんどいと)思いだしたら、もしかしたら、あれ以上にしんどいんじゃないかっていうぐらいの気持ちに多分なっていくと思うんですけど……」

 今のほうが2年前より苦しい?

「本心を言うと、多分そうだと思います。めちゃくちゃ冷静になって、本気で時間取って今の自分の状況を見つめるみたいなことをやれば、今が一番しんどいんじゃないかなって思うんですけど、その気持ちを完全に殺してるっていうか。それも考え方の問題だと思うんで。

 自分がしんどくないって思うだけでしんどくなくなるわけではないですけど、今何を楽しめてるのかとか、今楽しいことはなんだとかプラスに考えるようにしています。しんどいことを数え出したらきりはないですけど、逆に楽しいこととか幸せなことを考えれば、そっちはそっちでたくさんあるんで、なるべく楽しいことを考えるようにして、あんまり負の状態にならないように。

 ラプターズのときは、それこそ練習も嫌になったりとか、正直、バスケット自体が嫌いになりそうなぐらいの時期だったので、あの精神状態は本当によくなかったですし、ああいう状況は自分の中で作りたくないなっていう部分もあります」

楽しい=自分の成長を感じること

 それでは、今「楽しい」と思えることはどんなことなのだろうか。

「試合に出てないメンバーで集まってピックアップをやっていることとか、その中で今日いいプレーできたなとか、毎日やってるシューティングでも『今日はいつもよりシュート入ってるな』とか。本当にどんな小さいことでもいいんですけど、そこに自分の成長を感じる、自分自身に対して見つけてあげるのがやっぱ大事なんじゃないかなっていうふうに思っています。だから、練習に来て、そこで何を見つけれるのか。その中で日々自分がよくなれてる部分とかを考えるようにしてます」

 チーム内に似たような立場の選手が多いことも、悪いことばかりでもない。同じような立場にいる分、ライバルであるだけでなく、自分の気持ちをわかってくれる“仲間”でもあるからだ。

「本当にありがたいです。それでプレータイム争い が大変になっている部分もあるんですけど、でもこうやって、いつも一緒に頑張ってくれるチームメイトがいて。誰が出ても出てなくても、みんなが本当に励まし合いながらやってるんで。

 プレータイム争いをしてると、どうしても心のどこか奥底で自分と争ってる人が試合に出たときにうまくいかないことを望んでしまうのは、人間なんで誰しもあると思うんですけど、でもそういう気持ちをみんな押し殺してチームのために、試合出れないときはお互いをしっかりサポートしてっていうふうにやれてるんで。そういう意味ではチームの雰囲気もすごいいいと思いますし。同じようにしんどい中で頑張ってる選手たちを見ると僕も頑張らなきゃなっていうふうに思えるんで。だから、この環境は本当にすごいありがたいですね」

「本当にサンズを選んでよかった」

 オフシーズンに、渡邊はいくつかのチームから契約オファーを受けていた。今、試合に出られない状態になり、サンズを選んだことを後悔していないかと聞くと、渡邊はきっぱりと「一切後悔はないです」と断言した。

「最終的には、プレータイムもらえないのも自分の責任なんで。これも考え方ですけど、極端な話、自分がKD(ケビン・デュラント)レベルにうまかったら、別にどこに行っても試合は出れるわけで。

 自分が出れないってことは、要は自分がへたくそなだけ。どこに行っても競争はあることですし、サンズだからっていうわけじゃなくて、ほかのチーム行ってても、結局NBA選手とプレータイムを争うので。世界最高峰の選手と争わなきゃいけないのだから、こっちのチーム行ったら楽だったのにとか思うことは一切ないですし、本当にサンズ選んでよかったと心から思っています。だからこそ、何とかここで結果を出せるようにしていきたいと思ってます」

文=宮地陽子

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