今季の駅伝シーズンもいよいよ終幕。1月21日に行われた全国都道府県対抗男子駅伝が、シーズン最後の全国規模の駅伝だった。

 今大会に出場した高校生で、最注目の1人が、兵庫・須磨学園の折田壮太だった。

 昨年末の全国高校駅伝ではエース区間の1区を走り、日本人歴代最高タイ記録となる28分48秒をマークし区間賞に輝いた選手だ。

青学大・原監督「来年度は最強軍団が…」

「来年度は最強軍団が入ってくる。入学予定の15人は高校陸上界の上から数えたほうが早い。他の大学は戦々恐々だと思うよ」

 1月3日、箱根駅伝の閉会式の後、青山学院大の原晋監督に来季のチーム構想を聞くと、こう答えてくれた。

 すでに大学側がスポーツ推薦合格者を発表しているケースも多いが、青学大はまだ公表していない。そんな中で「世界で戦える逸材です」と原監督がスポーツ報知の記事で来年度の入学を明かしていたのが、この折田なのだ。

 彼が一躍ブレイクしたのは昨年、高校2年生の時。春先は仙骨の疲労骨折、腰椎分離症とケガが重なった。それらのケガが癒えたと思いきや、夏には縦隔気腫(※気管支が破れる病気)になり、1週間の絶食と安静を言い渡された期間があり、その上、貧血にも苦しんだ。

 試練のオンパレードを乗り越えて、秋に5000mで13分58秒の好記録をマークすると、高3になった今季はインターハイで日本人トップ(5位)、国体少年A優勝と長距離メイン種目の5000mで結果を残した。自己記録も高校歴代2位となる13分28秒78まで伸ばし、全国高校駅伝でもエース区間の1区で区間賞と見事な活躍を見せた。

 今年の箱根駅伝チャンピオンチームに入学する最強ルーキー。いやが上にも注目が集まるのは当然のことだった。都道府県対抗駅伝の1区も折田を中心にレースが進むことは十分に予想できた。

 ただ、都大路に続き、その1カ月後の都道府県対抗駅伝でもきっちり活躍を残せるかというと、そうとは限らない。

 都大路のレース後に折田はこんなことを話していた。

「上り調子で、今シーズン最も良い状態で臨めた。このチームのために最後にできることは何かなって考えながら生活してきたことが、調子の良さにつながったと思います」

 裏を返せば、都大路にばっちりピークを合わせていたということ。もちろん都道府県対抗駅伝に向けても抜かりはなかったはずだが、百戦錬磨の折田であっても、短い期間でピークを2つ作るのは決して簡単なことではなかったはずだ。

晴れ舞台で活躍を狙う“都大路不出場組”

 その上、この大会には“都大路不出場組”がここぞとばかりにピークを合わせてきている。これまでにも、都大路の出場を逃した高校の選手の活躍がたびたび見られてきた。

 思い出されるのは2008年の柏原竜二だ。インターハイにも全国高校駅伝にも出ていなかった福島の柏原は、兵庫の八木勇樹をはじめ同世代の強敵を相手に前半で先頭を奪うと、そのまま区間賞を獲得した。東洋大に進学し“山の神”と称された柏原が、一躍全国にその存在を知らしめたのが、この駅伝だった。

 折田の対抗として真っ先に名前が挙がっていた長崎の川原琉人(五島南→順大に進学予定)もまさにその“都大路不出場組”。メガネがトレードマークで、前回は2年生ながら区間3位と好走していた。

 五島列島の福江島出身で、昨夏は遠征費を募って北海道開催のインターハイに5000mで出場。決勝に進むと、その大舞台では大逃げに打って出た。結局2周目に留学生集団につかまり最後は17位に終わったものの、見る者に与えたインパクトは大きかった。

 都道府県対抗男子駅伝でも、序盤から積極的にレースを進めることが予想されていた。もちろん自身もそのつもりだった。

「スタート直後に飛び出して、集団を1回ばらけさせて、4km前後でまた集団に戻って、ラストで飛び出すという形をシミュレーションしていました」

 スタート直後に先頭に立ち、折田らをしたがえてハイペースでレースを牽引した。4km過ぎに折田が前に出たが、これも川原のプラン通りだった。

 川原は、都大路は走れなかったものの、その時の折田の走りを見て対策を練っていた。

「(折田は)余裕を持って最後まで走っていたので、スピードに変化をつけたレースをしないと通用しないというのは分かっていました。そういった面で変化走をしてから今回は挑みました」

 こう話すように、ペース変化は自由自在。ペースアップを図る際には、見た目にも明らかに一気にギアを上げた。

「余裕があったので、自分が考えたプラン通りにしっかりと冷静に進めることができました」

 そして5.3kmでスパートすると、そのまま後続を振り切った。得意のロードで、折田をはじめトラックではなかなか勝てなかった相手に勝利した。

「時計を付けていなかったので、(タイムは)全然分からなかった」と言うが、前回、長嶋幸宝(兵庫/現・旭化成)が打ち立てた区間記録を8秒も上回り、区間新記録で区間賞に輝いた。

東洋大進学組も堅実な好走

 都大路に続き区間2位と好走を見せたのは松井海斗(埼玉栄→東洋大に進学予定)。注目の折田は区間5位だったが、それでも従来の区間記録は上回った。区間賞は逃したとはいえ、十分素晴らしい走りだった。

 区間3位の安島莉玖(岐阜/大垣日大)も“都大路不出場組”だ。

 昨夏のインターハイでは5000mで決勝に進出するなど大舞台に強い。また、岐阜県高校駅伝の1区10kmで28分台をマークし、全国の強豪校が出場する日本海駅伝では1区区間賞に輝くなど、駅伝での実績も抜群だ。5000mの自己記録は14分06秒47だが、区間3位は彼の力相応の走りだった。

 川原や安島の他にも、1区では例年以上に“都大路不出場組”が目についた。

 区間9位の飯田翔大(鹿児島/出水中央)は5000mで高校歴代4位の13分34秒20の記録をもつ。

 出水中央には、もう1人のエース格、玉目陸や留学生もいるが、県大会では鹿児島城西に敗れ、都大路に出場できなかった。

 飯田はこの1年で飛躍的に成長を遂げ、昨年3月の春の高校伊那駅伝の1区で区間新記録を樹立し、区間賞を獲得している。インターハイは5000mに出場し、惜しくも入賞にあと一歩の9位に終わったが、地元開催の国体では3位入賞を果たした。そして、県高校駅伝に敗れたあと、13分34秒をマークした。

 区間8位の中川晴喜(神奈川/藤沢翔陵)、11位の尾熊迅斗(東京/東京実業)、13位の内堀勇 (山梨/巨摩→東洋大に進学予定)も、“都大路不出場組”の13分台ランナー。尾熊は1500mでは今季のランキング1位で、U-20日本選手権の同種目を制しており、そのスピードも魅力だ。

 筆者が密かに注目していた福島の植村真登(いわき秀英)は、区間17位とまずまずだった。1500mの福島チャンピオンで、東北高校駅伝では区間賞を獲得している。中学時代は3000mで全国5位の実績があるが、高校2年時はケガで目立った活躍がなかった。ケガが癒えた今季飛躍を遂げており、同じいわき市出身の16年前の柏原と重なる部分があったことが注目していた理由だ。

 福島には都大路1区5位と快走したスーパー1年生の増子陽太(学法石川)や、県内では増子の前に立ちはだかる谷中晴(帝京安積、今回は膝のケガで欠場)がいるが、彼らを差し置いて1区に抜擢された。

 区間20位の成合洸琉(宮崎/宮崎日大→明大に進学予定)は、県高校駅伝で13分台ランナーにも競り勝っており、やはり力がある。自身のベストは14分00秒と13分台にあと一歩だ。

駅伝強豪校「以外」の選手にも注目!

 今回はEKIDEN NEWSを主宰する西本武司氏との会話で、「都大路を走った疲労度を加味すれば5000mのランキング通りにはならない」というド正論から“都大路不出場組”に注目して1区を見ていた。

 ここまで来ると、この世代の日本人トップの座を守ってきた折田の無双ぶりを最後まで見てみたかった気もするが、その一方で、駅伝強豪校以外の選手も参加する大会だからこそ、16年前の柏原のような活躍を見せるランナーの登場にも期待していた。そんななかでの川原の快走には思わず胸が熱くなった。 

 もちろん他の高校生区間を走ったランナーにも原石はたくさんいた。彼らの今後の活躍にも期待を込めて注目していきたい。

文=和田悟志

photograph by Satoshi Wada