天真爛漫、とにかく明るい度会。

 ベイスターズのドラフト1位、度会隆輝は元気でポジティブなキャラクターが際立っている。

「僕、明るいとよく言われるんですが、悪い言い方をすれば馬鹿なんです(笑)。でもね、度会隆輝という人間の人生は一度きりです。悩んだり、落ち込んだりする時間なんてもったいないじゃないですか。だったら楽しい、嬉しい1分1秒にしたほうがいい。もちろん悔しい思いをすることはありますけど、自分ではすぐに切り替えられていると思っています。どんなときでもくよくよしている時間なんてありません。自分を鼓舞して、プラス思考で、マインドセットは“常に明るく楽しく”です」

ドラフト“指名漏れ”の屈辱「今思えば…」

 切り替えたのは横浜高校3年生のとき。度会はプロ志望届を提出しながら、指名漏れの屈辱を味わった。その悔しさを乗り越えて社会人のENEOSに進む。高校生の野手は社会人より大学を選ぶケースが多い。レベルの高い社会人で高卒の野手が試合に出る機会を得るのには時間がかかるからだ。しかし度会はドラフト対象となる最短の3年で、しかもドラフト1位でプロ3球団から入札されるほどの成長を遂げた。

「高校のときのことを思えば余計に3年かかりましたけど、今思えば遠いようで近い道のりだったのかなと思います。一番の思いは1年でも早くプロへ行きたかったということ。大学では4年かかってしまいますが社会人なら3年で行ける。しかもENEOSという社会人トップのチームで、大久保(秀昭)監督は僕のことをドラフト1位でプロへ行ける選手になれると信じて指導してくれました。この3年、打つことにおいてはパワーもついたし、コンタクト率も上がった。内野だけでなく外野もできるようになりましたし、肩の強さ、スピード……走攻守のすべてでレベルアップできたと思います」

 社会人1年目からレギュラーとなった度会は初めての都市対抗でホームランを放つと、2年目の都市対抗ではホームラン4本、打率.429で打撃賞を獲得。ENEOSを9年ぶりの優勝に導き、野手として史上初の橋戸賞(最優秀選手賞)と若獅子賞(新人賞)のダブル受賞を成し遂げた。この頃、度会は自分の中のある変化に気づいたのだという。

「僕にとってプロ野球選手は夢でした。だから誰に訊かれても『プロ野球選手になるのが夢です』と答えていたんですが、2年目の都市対抗が終わったあたりから『目標はプロ野球選手です』って、目指すところが夢から目標に変わっていたんですよ。都市対抗で結果を出せたことで自信がついたのかな。遠いイメージの夢ではなく、目標という言葉が自然と口をついて出るようになったことがプロ野球選手を近づけてくれたような気がします」

「『ベイスターズを優勝させます』と言えるような選手に」

 強いメンタル、前向きな発想……あのイチローが度会のポジティブで“陽”のキャラクターをパワフルだと褒めちぎるだけのことはある。しかし指名漏れから3年でドラ1レベルまで駆け上がった度会に、プレイヤーとしての技術的な壁を越える瞬間は必ずあったはずだ。そう思ってバッティングの肝は何かと訊いてみたら、出てくる出てくる、やはり度会は技術の裏づけを持っていた。

「バッティングのことは人一倍、考えたいし、考えています。グリップは身体から離したくないし、バットの軌道はインサイドアウトで……軸の回り方も、踏み込み足の母指球の着き方を考えて、その母指球で自分のスイングができるまで開かずに耐えることを大事にしています。そのあとは左の腸腰筋を使って押し込むイメージを持って、下半身が前を向いて開かないよう、ギリギリまで抑えてバットを出してから、回る。そうすればヘッドがしなって出てきます。もう、挙げればキリがないほどたくさんのことを考えて、試合で自然にできるようになるまでやるのが練習だと思っています。試合でいちいちこんなことを意識していたら打てませんからね。練習でさんざん意識して、試合では自然と自分に合ったスイング軌道で振る……そうすれば率も残せてホームランも打てる、最強のバッターになれるはずです」

 生まれは千葉ながら横浜高校からENEOS、そしてベイスターズと、度会はすっかり神奈川づいている。

「神奈川愛、めっちゃありますよ。横浜スタジアムは僕がずっとプレーしてきた球場ですし、ベイスターズで野球ができるのは奇跡ですよね。そういう運命に感謝して、野球を思いっ切り楽しみたい。野球が仕事になっても楽しむことを忘れずに、『ベイスターズを優勝させます』と言えるような選手になりたいですね」

度会隆輝Ryuki Watarai

2002年10月4日、千葉県生まれ。横浜高校で1年夏と2年春に甲子園出場。高校卒業後、ENEOSに入社。昨年のドラフトでベイスターズから1位指名を受け入団。183cm、83kg。

文=石田雄太

photograph by JIJI PRESS