1月中旬、ダウンジャケットを着た報道陣の前で、大柄の青年は半袖姿で取材を受けていた。2022年のドラフト1位で広島に入団した斉藤優汰は、体が冷えることを心配する記者に「全然です。だって、7度あるんですよ。7度あったら暖かいですよ」とニコニコ笑顔を振りまいていた。

 取材後も実家に帰省した際の積雪の写真を見せながら談笑を続けた、あどけなさの残る19歳の道産子は、2月1日から始まる広島春季キャンプの注目選手の1人だ。

「もちろん一軍でシーズンを迎えられたら一番いいとは思っていますし、そこを目標にしています。でも、まだやらないといけないことが、技術面にしてもいっぱいある。まずはそこを一つひとつ潰しながら、ある程度自分が持っていきたいレベルに持っていければと思っています。でも、楽しみです」

 25日に発表された春季キャンプメンバーで、オリックスから人的補償で加入した日高暖己とともに最年少で一軍組に抜擢され、またもニコリと笑った。

歴代エースに学ぶ大器

 22年ドラフト会議の1週間前に指名が公表されて入団した期待大の右腕は、球団の育成プランに沿って1年目を過ごした。昨季前半戦は1カ月に1度の実戦登板。8月以降は頻度を増やし、8月24日ウエスタン・リーグのソフトバンク戦から2試合に先発した。1年目の成績は登板5試合で0勝1敗、防御率4.02。ほかの投手成績を含め、目を引く数字を残せたわけではないが、球団が望む成長曲線には乗っている。

 シーズン中から黒田博樹球団アドバイザーに助言を受けながら、投手としての基盤づくりに費やしてきた。成長段階のひとつとして、一軍の最終戦で登板させるプランもあったというが、チーム状況によってデビューは持ち越しとなった。

 フェニックス・リーグを経て日南秋季キャンプにも参加。フィールディングなどの細かい技術にはまだ課題もあるが、指にかかったときの球の力や切れ、さらに課題と思われていた変化球もスライダーの切れ味が鋭く、大きな可能性を感じさせた。

「とにかく1年間やれる体をしっかりつくるのと、技術的にもっとレベルアップしていかないといけない。キャッチボールとかでもできると思うので、やっていきたい」

 そう覚悟したプロ野球選手として初めて迎えるオフ、ひと回り以上、歳が離れた大瀬良大地の門下に入った。

 昨季の大瀬良は右肘痛の影響もあり、6勝11敗、防御率3.61の成績に終わった。2年連続でひと桁勝利にとどまり、10月末には右肘クリーニング手術をしたばかりだった。それでも5度の2桁勝利やタイトル獲得の実績を持ち、何より新井貴浩監督が「エース」と認めるチームの大黒柱。昨年10月の阪神とのCSファイナルステージで見せた投球も記憶に新しい。

「技術面もそうですけど、大地さんは立ち居振る舞い、人間性も素晴らしい方なので、そういったところも学んでいきたい」

 高卒1年目のシーズンを終えたばかりの新人が、雲の上の存在ともいえる大先輩に合同トレを願い出るなど、なかなかできることではない。お願いしたくても連絡先すら知らず、突破口を見いだせない。そんな中、大瀬良の方が斉藤を気にかけていることを聞き、連絡を取り合った際に「勇気を振り絞って」申し出たという。

食べても食べても増えない体重

 大瀬良の自主トレはトレーニングだけでなく、走り込みの量も多い。ただ、両翼を往復するポール間走でも斉藤には躍動感がある。1年目でついていくのが必死という姿ではなく、走りでは引っ張っているぐらいに感じるほどだった。

「トレーニングや走ることからも、やっぱり体が強いなと感じる。技術的なことはあれこれ言っていません。聞かれれば答えるくらいでいいのかなって。素材としてはえげつないものを持っているので、そのまま育ってくれたらなと思います」

 多くの時間を共有してきた大瀬良も、その潜在能力の高さには目を丸くする。さらに驚かせたのが「食い力」だ。

 ある日の昼食、ともに自主トレする大道温貴や小林樹斗とともにカフェレストランへ行くと、カレーライスから蕎麦、そして焼きそばを平らげた。その小一時間前には自らコンビニで購入して間食していた。

 また、ある日の夜には、焼肉店で山盛りの白米と肉を何度もおかわり。一食だけで体重が4kgも増えた。ただ、増えた体重はすぐに落ちてしまったという。

「普段も食べた分、減ってしまう。夜食を食べたりしないと減っちゃう。いくら食べても体脂肪率が10%にいかない。8%くらいしかなくて、炭水化物を摂っても太らない。でも脂を摂るのも違うなって。体脂肪率が10%ないと夏は厳しいと言われたので、頑張っているんですけど……」

 食べることは得意でも、体重、体脂肪率が増えない体質に思わず苦笑い。それでも、苫小牧中央高時代は1年時から夕食と夜食合わせて、どんぶり茶碗で10杯の白飯を食べてきた“食トレ”の成果で身長が8cm伸び、体重も20kg増えた。球速は10km以上速くなり、最速151km。ドラフト1位でプロ入りする投手となった。

2年目で挑む高い壁

 高い吸収力と消化力は今も変わらない。今オフもたくさん食べ、たくさん動き、そしてたくさん学んだ。

「成長できている実感があります。自分たちはつらそうにやってしまうんですけど、大地さんは平然とやっている。ついていけるようにならないといけない。技術的なところもそうですけど」

 斉藤が挑む壁は高い。広島先発陣は、昨季11勝の床田寛樹をはじめ、九里亜蓮、森下暢仁、そして自主トレをともにした大瀬良の4本柱が揃い、昨季台頭した森翔平のほか、遠藤淳志や玉村昇悟ら若手も控える。ドラフト1位の常廣羽也斗ら新人もその座を狙っている。

 無論、過度な期待は禁物だ。斉藤はまだ、開幕ローテーションを狙う立場ではないかもしれない。首脳陣もきっと一歩一歩成長していくことを望んでいるに違いない。ただ、その一歩は、ほかの選手よりも大きな歩幅となるスケールを感じさせる。2年目のシーズン、どこまで大きく伸びていくのか——。南国宮崎で、斉藤は2度目の春を迎える。

文=前原淳

photograph by JIJI PRESS