「特にレイカーズは(移籍などの)そういう噂が大きい。その中でも大きな勝利が挙げられてよかったです。去年(自分がトレードに)なったばかりで、どういうメンタルで集中していくかもわかっている。そこはうまくできているんじゃないかと思います」

 ボストンで行われたセルティックスとの伝統の一戦に勝利した2月1日、ロサンゼルス・レイカーズの八村塁の表情と言葉からは、混沌の中にいる緊張感は伝わってこなかった。ロッカールームで携帯に目をやり、チームメイトたちと楽しそうに言葉を交わしている。取材後に「また(次の遠征地の)ニューヨークで」と声をかけると、「はい、ニューヨークで!」と屈託なく笑顔を返してくる。

 しかし――。八村が所属するチームはもう明日にも陣容が少なからず変わっても不思議はない状況にある。

“期待外れ”のシーズンを過ごすレイカーズ

 昨季、ウェスタン・カンファレンス・ファイナルまで進んで底力を示した伝統チームだが、今季はシーズン中盤まで勝率5割前後をうろうろ。史上初の試みとなったインシーズン賞金トーナメント(NBAカップ)にこそ優勝して溜飲を下げたものの、シーズンももう後半戦に差し掛かった現時点でウェスタンの15チーム中9位と停滞中なのであれば、期待外れと目されても仕方ない。

「僕たちは強いチームには凄く強い。そういう意味ではポテンシャルがあると思うんで、あとはどれだけ維持できるか、コンシステントにできるかっていうのが大事になります。そこはもっと意識していきたいです」

 セルティックスに続き、3日にはそれまで9連勝を続けていたニューヨーク・ニックスにも敵地で勝ったのだから、八村の言葉通り、潜在能力はあるのだろう。ただ、この不安定さでは、少なくとも現在のメンバーで上位進出が可能だと信じるのは難しいというのが正直なところである。

 こういった状況では、2月8日のトレード期限を前に戦力補強の噂が盛んになるのは仕方ない。いつしか39歳になったNBAの王様、“キング”ことレブロン・ジェームズがチームの中心である以上、常に優勝争いを睨んだテコ入れを模索することは確実。40戦終了時点で21敗と同じ成績で低迷していた1年前、シーズン中にディアンジェロ・ラッセル、ジャレッド・バンダービルト、マリーク・ビーズリー、そして八村らを次々と獲得して戦力を底上げしたのは記憶に新しい。

レブロンが“砂時計”を投稿、その真意

 1月30日のアトランタ・ホークス戦後、レブロンが自身のX(旧ツイッター)に砂時計の絵文字を投稿したことも大きな話題を読んだ。“時間は限られている”という意味なのは明白としても、これはいったい何に直結するのか。

 チームに迅速な補強を促したのか。それとも来季は5140万ドルのプレイヤーズオプションを保持するレブロンがレイカーズからの退団を示唆したのか。スポーツ界は騒然となり、2月3日にはレブロンのリッチ・ポール代理人が「トレードはされないし、それを望んではいない」とESPN.comを通じてコメントする事態になった。

 この喧騒の後で、レイカーズはレブロンを納得させるためにもトレードでの補強を目指しても誰も驚きはしないはずだ。その方向性に動いた場合のメインの放出候補はラッセルのようだが、八村の名前も挙がっている。

 標的の1人と目されるホークスのデジャンテ・マレーのような元オールスター選手を獲得しようと思えば、それなりの交換要員が必須。3年5100万ドルと契約が手頃なこと、25歳の若さで伸びしろが残っていること、今季も随所にいいプレーを見せてきたことなどから、交渉相手のチームから八村が希望されることも十分に考えられる。

「NBAはビジネスなので、(トレード話は)昔からある普通のこと。別にそれについて僕が何かできるわけでもないので。何か起きれば起きますし、何も起きなければ起きない。自分は覚悟してプレーしているので、そこはあまり気にしないです」 

 3日に行われたニックス戦後、八村は我関せずという感じでそう述べていたが、実際に現在の騒ぎがプレーに影響しているようには思えない。

 1日のセルティックス戦まで6試合連続で二桁得点を挙げ、1月は10試合で3P成功率46.2%とロングジャンパーの精度のよさが目に付く。今のレイカーズには必要な存在になっている感があり、情報通でスクープの多いHoopsHypeのマイケル・スコット記者も2月3日時点で「八村のトレードはないと思う」と話していた。

 もっとも、こうしていいプレーをすれば同時に商品価値は高まり、展開は変わり得る。移籍劇は急転直下で動くものであり、8日のトレード期限寸前まで予断を許さない。スコット記者も「八村は動かないとは思うけど、2日後にまた聞いてくれ」と可能性を残していたことは付け加えておきたい。

八村にとって“重要な時間”になる後半戦

 ともあれ、レイカーズに残るにせよ、トレードで移籍するにせよ、今季後半戦は八村にとって再び重要な時間になるのだろう。レイカーズでの八村はここまで、チームの絶対の中心であるレブロンのサポート役に徹してきた印象がある。レブロンが相手守備を引きつけたスペースをいかして3Pを決め、速攻のフィニッシャーとなり、ディフェンスにも懸命に取り組んできた。主にベンチ登録メンバーでチームを活気付けるウィングとして、前述通り、重要な戦力であることは間違いない。

「僕は別に今、スターターになろうがならなかろうが、プレータイムが大事だと思っています。そこを意識してずっとやっています」

 11月から年を跨いだ1月は、コートに立つ時間が減少傾向なのが気がかりではあったが、今の調子なら、本人の言葉通りに2月以降に持ち直しても不思議はない。1年前、プレーオフでも予想以上の働きをみせたことは記憶に鮮明であり、その再現にも期待がかかる。

 その一方で、レイカーズのプレーは基本的にほぼすべてレブロンにコントロールされるため、八村はコーナーでボールを待つ時間が長くなっている。ラッセル・ウェストブルックがいた頃のウィザーズ時代同様、いわゆる3―D(3Pとディフェンスに特化した選手)的な役割。もともとミッドレンジでのプレー、身体能力と強さが武器の八村の長所が最大限にいかされているとはいえない。

 レイカーズの一員であることに誇りを感じさせる言葉も多い八村だが、現在の背景を考えれば、トレードされたと仮定した場合の新天地でのプレーも興味深く思える。ワシントン・ウィザーズ時代より成熟した今の八村が、また別のチームにいき、より重要な役割を担った際にはどんなプレーをしてくれるのか。名前が挙がっているホークス、ブルックリン・ネッツ、シカゴ・ブルズなどでは今以上に重宝されることも考えられるだけに、そこでついに自身を確立させるシナリオも悪くはないのだろう。

 NBA最大の名門チームへの電撃トレードからちょうど1年――。

 セルティックス戦とニックス戦後、軽やかなステップでロッカールームから出て行った八村の行く手には、いずれにしても楽しみな未来が広がっているように思えた。

 今後、どこに所属し、その道はどこに繋がっていくのか。年齢的にもこれから全盛期を迎える背番号28から、もうしばらく目が離せない時間が続きそうだ。

文=杉浦大介

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