もうすぐ学生の卒業シーズンだ。箱根駅伝を優勝した青学大、最強と称された駒澤大…大学駅伝を駆け抜けた4年生たちの多くが退寮し、実業団の寮に移っていく。今年の“箱根戦士”たちは卒業後、どの実業団に入社し、何を目標に走っていくのだろうか。(全2回の第1回/第2回も配信中)

4区区間賞・佐藤一世は物流大手へ

 箱根駅伝で2年ぶりの優勝を果たした青学大、4区区間賞の佐藤一世は、SGホールディングスに入社予定。本拠地は滋賀県だが、都内にも拠点があるので、信頼するトレーナーとトレーニングが継続できるメリットは大きい。SGホールディングスは自主性を重んじたスタイルで、OBの近藤幸太郎など相談できる先輩もおり、活動環境は理想的。得意のロードで研鑽を積み、目標としている世界大会のマラソン代表の座を狙いにいく。

復路で優勝に貢献した2人が「Uターン」で大手企業へ

 7区3位で鹿児島出身の山内健登は九電工に入社予定。4年時、3大駅伝すべてに出場し、箱根駅伝では優勝に貢献。大きな体を活かしたダイナミックなフォームで1500mからハーフまでマルチな走りを実現しているが、九電工はパリ五輪男子マラソン代表を決めた赤崎暁(拓大卒)が所属しており、マラソンへの挑戦も期待が膨らむ。

 9区区間賞の倉本玄太は、中電工に入社予定だ。最初で最後の箱根で区間賞を獲った激走は見ているファンを感動させた。先日、別府大分毎日マラソンを走り、「洗礼を浴びた」と30kmで失速。これから本格的にマラソンに挑戦するが、ポテンシャルが高いので、意外と早くマラソンのトップランナーになっていくのではないだろか。

走れなかった優勝メンバーも駅伝強豪の実業団へ

 箱根駅伝のエントリーから外れた主将の志貴勇斗は、ヤクルトに入社予定だ。前年度主将の宮坂大器につづいて、2年連続で青学大の主将がヤクルトに入る。OBにはハーフの日本記録保持者(1時間ジャスト)の小椋裕介がおり、10000m27分台の太田直希(早大卒)らスピードが持ち味の選手が揃っている。彼らから学び、どこまでスピードを磨いていけるか。また、今年15位に終わったニューイヤー駅伝でも活躍が期待される。

 2023年、関東インカレ3000m障害の覇者・小原(おばら)響はGMOインターネットグループに入社予定。箱根後はアメリカでトレーニングしており、主戦場は3000m障害になる。三浦龍司(順大)に負けじと五輪、世界陸上に向けてハードリングを磨いていくことになる。

 小原と同じく箱根エントリーメンバー入りしていた松並昂勢は、地元・九州の黒崎播磨に入社予定だ。九州実業団駅伝では強豪・旭化成をおさえて優勝、ニューイヤー駅伝では4位入賞を果すなど、非常に勢いがあるチーム。青学では層が厚く駅伝に絡めなかったが、細谷恭平(中央学大卒)、田村友佑・友伸兄弟ら個の質が高い選手が在籍するチームで成長し、ニューイヤー駅伝での優勝を目指していく。

 佐々木朗希の小学校時代の幼馴染でも知られる佐々木塁は卒業後、金融関係の仕事に就き、寮長の鈴木竜太朗も第一線から身を退く。

田澤に続いてトヨタに駒澤大主将が入社予定

 駒澤大は2年連続の3冠を達成できず、悔しさを抱えた中、4年生は卒業することになったが、その多くが実業団に進む。

 箱根2区2位の主将の鈴木芽吹は、トヨタ自動車に入社予定だ。トヨタは2024年ニューイヤー駅伝で優勝した強豪チーム。OBで1学年上の田澤廉が所属しており、鈴木も田澤と同じく駒澤大の大八木弘明総監督の下で競技を続ける予定で、練習環境の変化によるストレスはない。まずはトラックでパリ五輪への出場を目指すことになるが、田澤に追いつき、追い越すことができるか。また、ライバルだった吉居大和(中央大)もトヨタ入社予定で、鈴木にとって大きな刺激になるはずだ。

 5区3位の金子伊吹はJR東日本に入社予定。馬力と粘りのある走りは、マラソン向き。JR東日本にはOBで日本歴代4位のマラソン記録(2時間5分59秒)を持ち、パリ五輪のマラソン男子代表を目指す其田健也がおり、主将の片西景もOBだ。マラソンを学ぶ環境としては申し分なく、ロードで自己を高めていく。

駒澤大「黄金4年生」の華々しい進路

 7区4位の安原太陽は、Kaoに入社予定だ。駅伝では抜群の安定感を誇っており、来年のニューイヤー駅伝(今季6位)でさらに上を狙うチームには頼もしい存在になる。数々の日本記録保持者だった高岡寿成監督の下、さらにロードでの強さを身に付けることができれば駅伝はもちろん、マラソンでも安定した結果を残していけるだろう。

 8区4位の赤星雄斗は、大塚製薬に入社予定だ。徳島の伸び伸びできる好環境で本格的にロードに移行する。関東インカレ2部ハーフマラソン優勝など実績があり、ニューイヤー駅伝での活躍も期待される。

 9区5位の花尾恭輔はトヨタ自動車九州へ入社予定だ。駒澤大の3冠に貢献してきた「駅伝男」が、地元・九州で新しいスタートを切る。チームは、九州実業団駅伝3位、ニューイヤー駅伝13位と駅伝にも力を入れているので、大学時代同様に花尾の活躍が見られるだろう。マラソンでの活躍も誓っており、バルセロナ五輪マラソン銀メダリストの森下広一監督の指導により、駅伝男がマラソン男として、どのように開花するのか、楽しみだ。

藤田監督が「天才」と評した4年生は…

 トヨタ紡織に入社予定の白鳥哲汰は、箱根駅伝は2年時の7区10位が最後になり、3〜4年は活躍する場を失ったが勝負はこれからだ。大学で低迷したが、社会人になって復活した羽生拓矢(東海大卒)がチームにはおり、彼のように白鳥ももう一度、社会人で大輪の花を咲かせてほしい。

 赤津勇進は、小森コーポレーションに入社予定だ。2023年全日本大学駅伝では1区区間賞を獲り、ラストスパートで持ち前のスピード力を見せつけた。チームは昨年と今年のニューイヤー駅伝の出場を逃している。赤津のスピードは、出場権奪還にプラスになるのは間違いない。

 藤田敦史監督から「天才」と称された唐澤拓海は、未定だ。富士宮駅伝ではアンカーとして出走し、チームを逆転優勝に導くなどその走りは健在。10000m27分台を持つ選手だけに、その走りが見られなくなるのは寂しい。

城西大の「山の妖精」はSUBARUへ

 箱根駅伝総合3位と躍進した城西大では、エースの山本唯翔(ゆいと)がSUBARUに入社予定だ。箱根駅伝で2年連続5区区間賞を獲った「山の妖精」は、卒業後はスピードとスタミナに優れた走力をマラソンで活かすことになる。尊敬する服部勇馬(トヨタ)のようにマラソンでの五輪出場を目指し、社会人1年目から活躍が期待される。

 1区3位で城西大総合3位の流れを作った野村颯斗は、中国電力に入社予定。ウエイトトレーニングとフォーム改良で一段と走力を高め、春からは10000mなどトラックで勝負に挑む。

 4区5位の山中秀真(しゅうま)は、トーエネックに入社予定だ。チームは、ニューイヤー駅伝出場と8位入賞を最大目標にしているが、個人でも小山裕太(駒澤大卒)ら3人がMGC出場を果たすなど、個の質は高い。山中はスプリント力があり、駅伝経験も豊富ゆえ、チームの目標達成に大きく貢献するだろう。

名門・東洋大ランナーの多くは箱根後も競技継続

 前評判を覆し、箱根総合4位という成績を残した東洋大は、1区15位の九嶋恵舜(けいしゅん)が安川電機に入社予定だ。福岡県北九州市を拠点とするチームは、昨年よりロンドン五輪マラソン男子6位入賞の中本健太郎が監督に昇格した。地元の宮崎と同じ九州に戻り、トラックでスピードを磨きながら、マラソンを視野に入れて強化していくことになる。

 7区19位の熊﨑貴哉は、大塚製薬に入社予定。10000m28分36秒36は部内トップで、寮長もこなした。活動はトラックが中心になるが、スピードを活かしてニューイヤー駅伝での活躍も期待される。

 8区10位の村上太一は、マツダに入社予定だ。3年の全日本大学駅伝6区で吉居大和(中央大)に真っ向勝負を挑み、区間5位と健闘し、持ちタイムでは測れないロードの強さを示した。OBの山本憲二、延藤潤、定方駿はマラソン経験者であり、彼らとともにロードを磨いていくことになる。

 主将の佐藤真優(まひろ)は、コニカミノルタに入社予定。箱根駅伝では5区候補だったが万全ではなく、最後の箱根路は出場できなかった。コニカは柏優吾(東洋大卒)と星岳(帝京大卒)の2人のMGC経験者がおり、長い距離を粘って走るのが信条の佐藤にとっては良き学びになる。ニューイヤー駅伝でもコニカ躍進に欠かせない存在になるだろう。

 エントリー入りするも箱根出走は叶わなかった奥山輝(ひかる)はセキノ興産、最後の箱根はメンバー入りしなかった菅野大輝は埼玉医科大学グループに入社予定だ。主務を兼任しながら箱根駅伝を目指した十文字優一はダイハツでコーチとして女子実業団チームを指導する予定となっている。エースの松山和希は、競技継続予定だが、正式なリリースはまだない。

國學院大の「駅伝男」は…

 箱根駅伝総合5位の國學院大学。チームの3本柱の一角であり、主将の伊地知賢造は、ヤクルトに入社予定だ。1年時から駅伝は皆勤賞で、前田康弘監督も「駅伝男」とその走りに信頼を寄せていた。ロードに自信を持ち、マラソンの日本代表になることが目標だが、スピードランナーの太田直希(早大卒)やマラソンに強い高久龍(東洋大卒)たちから多くを学べる環境で成長し、自らの陸上を極めていくことになる。

 国学院栃木からの内部進学組の鈴木景仁(けいと)は、富士山の銘水に入社予定だ。チームは創部2年目でニューイヤー駅伝出場を決めるなど勢いがあり、若い選手が多い。年齢が近い選手と切磋琢磨し、スピードを磨きながら駅伝で貢献をしていくことになる。

 箱根駅伝でエントリーされていた瀬尾秀介は、現役引退を決め、今後は市民ランナーとしてマラソンに挑戦していく予定だ。

<つづく>

文=佐藤俊

photograph by Nanae Suzuki