昨年の高校野球界を沸かせた球児たちの進路が固まりつつある。ドラフトでは育成を含め全122人中、50人の高校生が指名され、NPB球団入りを果たした。今回はNPB以外の道に進んだ主な選手たちを見ていきたい。(全2回の第1回/第2回へつづく)

花巻東の佐々木麟太郎はスタンフォード大へ

 まず驚くべきは、プロ志望届を出していればドラフト1位で指名された可能性もあった花巻東・佐々木麟太郎内野手の米スタンフォード大留学だろう。「高校四天王」と騒がれ、高校通算140本塁打を放つなど、世代をリードしていたスラッガーは、複数大学からオファーを受ける中で「東のハーバード、西のスタンフォード」と評される世界屈指の名門大学を選択。野球部も強豪で、ヤンキースなどで通算270勝を挙げ殿堂入りしたマイク・ムシーナ氏らを始め、数多くのメジャーリーガーを生んできた。温暖なカリフォルニアの地で、佐々木がどのような成長曲線を描いていくのか楽しみだ。

1年から4番の怪物は早稲田大でショートに挑戦

 昨年センバツで優勝した山梨学院は、東京六大学リーグに進学する選手が目立つ。センバツ史上最多の6勝を挙げたエース右腕・林謙吾投手、強肩を武器に活躍した佐仲大輝捕手はともに明治大。主将としてチームを鼓舞し続けた進藤天内野手は立教大、1年夏から「4番・一塁」を務めた高橋海翔(ひろと)内野手は早稲田大で遊撃手に挑戦する。神宮球場で相まみえる日もそう遠くはないだろう。

 さらには50メートル5秒9の俊足が魅力の星野泰輝外野手は東都大学リーグの日本大、左打席から長打を連発する岳原陵河外野手は社会人の三菱自動車岡崎に入社が決定。ハイレベルの野球に揉まれながら都市対抗出場を目指す。

報徳の主砲は國學院大へ

 センバツ準優勝の報徳学園(兵庫)は、3試合連続で3安打を放つなど、大会通算18打数9安打、打率.500をマークした林純司内野手が東京六大学リーグの慶應義塾大に合格。エース右腕の盛田智矢投手は青山学院大、高校通算34発の主砲・石野蓮授外野手は國學院大、5番打者として活躍した辻田剛暉内野手は駒澤大と、東都大学リーグで腕を磨く。堅守の遊撃手として鳴らした竹内颯平はプロ志望届を提出もドラフト指名されず、関西六大学リーグの神戸学院大で再スタートを切る。

指名漏れの「広陵のボンズ」は大商大へ

 同じく指名漏れした「広陵のボンズ」こと真鍋慧(けいた)内野手も、広島から竹内と同リーグの大阪商業大へ進学する。真鍋は佐々木麟太郎と同じく「高校四天王」の一角として早くから注目された左の大砲。プロ入りした大阪桐蔭・前田悠伍投手、九州国際大付(福岡)・佐倉侠史朗内野手(ともにソフトバンク。佐倉は育成)に負けじと、自身も4年後にプロの舞台に上がる。

 広陵は控え右腕の岡山勇斗投手、横川倖投手も大阪商業大に進学。最速143キロ左腕の倉重聡投手は法政大、U18日本代表でも主将を務め、世界一を経験した小林隼翔(はやか)内野手は立教大、俊足巧打の田上夏衣外野手は明治大と、東京六大学リーグへと進むことが決まった。

 昨年センバツで広陵の前に敗退したが、大会屈指の好投手として騒がれた専大松戸(千葉)の151キロ右腕・平野大地投手はプロ志望届を提出せず、東都大学リーグの専修大で鍛え直す。夏の甲子園にも出場したが、右手のしびれが原因で登板機会はなし。まずは焦らずにコンディションを整える。

抜群の進学実績、大阪桐蔭

 近年、抜群の進学実績を挙げているのは大阪桐蔭だろう。今年も東京六大学リーグ2人(村本勇海内野手=立教大、小川大地内野手=法政大)、東都大学リーグ7人(南恒誠投手=東洋大、松井弘樹投手、山田太成外野手=専修大、南川幸輝捕手=青山学院大、佐藤夢樹内野手=國學院大、長澤元外野手=駒澤大、薮本一輝外野手=国士舘大)、首都大学リーグ2人(川口海偉捕手=東海大、笹井知哉内野手=日本体育大)、関西学生野球リーグ4人(藤井勇真投手=近畿大、佐藤幹晃投手、岸本真生内野手=同志社大、八瀬山大悟外野手=立命館大)、関西六大学リーグ1人(光山良介内野手=京都産業大)と、東西の名門リーグに計16人も輩出した。今年のチームも昨秋の大阪大会、近畿大会を制して神宮大会に出場。今春のセンバツで優勝候補に挙がっているだけに、進路も盤石だろう。

仙台育英幼なじみは早稲田大でも“バッテリー継続”へ

 昨夏甲子園準優勝の仙台育英(宮城)も豪華だ。エース右腕の高橋煌稀投手、尾形樹人捕手の幼なじみバッテリーは、早稲田大でもチームメートに。最速153キロ右腕の湯田統真投手は明治大、最速145キロ左腕の田中優飛投手は立教大への進学が決まった。

 仙台育英は昨夏決勝で慶應(神奈川)に2-8で敗れ、夏連覇は夢と消えた。高橋、尾形とU18日本代表で同僚だった丸田湊斗外野手や、ゴーグル姿が話題を呼んだ延末藍太内野手、昨夏神奈川大会決勝の横浜戦で逆転3ランを放った渡邉千之亮外野手ら、慶應の優勝メンバーのほとんどが慶大へ進むだけに、東京六大学の舞台でリベンジを果たしたいところだ。

 他にもドラフトで指名漏れした151キロ左腕の仁田陽翔投手が立正大、甲子園通算26安打を放ち、U18日本代表に選ばれた橋本航河外野手は中央大、守備職人の住石孝雄内野手は専修大とそれぞれ東都大学リーグへ。代打で活躍した寺田賢生内野手は関西学生野球リーグの同志社大、外野手の斎藤陽下山健太は仙台大、伊藤達也は東北学院大と仙台六大学リーグに進む。

ダルビッシュ2世はENEOSへ

 その仙台育英と杜の都で覇権を争った東北は「ダルビッシュ2世」の呼び声が高い188cmの長身右腕・ハッブス大起投手が社会人の名門ENEOSに入社する。米国人の父と日本人の母を持つハッブスは、昨春センバツで甲子園のマウンドを経験。プロ志望届を提出も指名漏れし、社会人へと進路を切り替えた。最速145キロの直球と多彩な変化球を武器に、最速3年後のプロ入りを目指す。扇の要で奮闘した日隈(ひのくま)翔弥捕手が国士舘大、長打力が持ち味の金子和志内野手は國學院大と東都大学リーグへの進学が決まった。

沖縄尚学のエースは指名漏れ→中央大へ

 春夏連続で甲子園に出場した沖縄尚学は、U18日本代表コンビが神宮での対戦を誓う。最速147キロ右腕・東恩納(ひがしおんな)蒼投手はプロ指名漏れから中央大、俊足巧打の知花慎之助外野手は駒澤大に進む。

 その他のU18日本代表選手では、浜松開誠館(静岡)で夏の甲子園でも本塁打を放った新妻恭介捕手が東恩納、橋本と同じ中央大、横浜の名手でU18W杯MVPの緒方漣内野手が國學院大、聖光学院(福島)主将の高中一樹内野手は東洋大に進学。世界一メンバーが「戦国東都」で再び顔を合わせる日もそう遠くはないだろう。

U18選手から初の直接独立リーグ入りへ

 智弁学園(奈良)で背番号6ながら最速146キロを投げ込んだ中山優月内野手は大商大、履正社(大阪)のスラッガー・森田大翔内野手がプロ指名漏れから首都大学リーグの帝京大で成長を誓う。

 大垣日大(岐阜)のサイド左腕・矢野海翔投手は独立リーグの徳島インディゴソックスへの入団が決まった。U18戦士が直接独立リーグに入団するのは初。自ら厳しい環境に身を置き、最速1年でプロ入りの夢をつかむ。

 甲子園出場組以外にも注目選手はまだまだいる。彼らの進路にも注目してみたい。

<つづく>

文=内田勝治

photograph by Hideki Sugiyama