投手転向3年目を迎える中日ドラゴンズの根尾昂投手が「現在地」を語るインタビュー。後編は先発への思い、勝利への渇望など、その胸中をさらに深掘りした。(全2回の後編/第1回も配信中)

自分はどういうピッチャーを目指していきたいのか

 2022年6月、根尾は立浪和義監督との話し合いの末に投手転向を決めた。シーズン半ばだったこともあり、この時点では中継ぎとして短いイニングを投げながら、引き続き野手としての練習も積んでいた。22年は最終的に登板25試合で防御率3.41。じっくりと腰を据え先発に取り組んだのは23年シーズンからだが、この先発への挑戦は、根尾自身の希望でもあったのだという。

「転向した当初は、とにかく1イニングをきっちり投げられるように、と目の前のことしか見られませんでした。心の中でそういう(先発への)思いはありましたが、そんなことは言える立場ではなかったし、まず目の前のバッターを抑えられなければその先も見えてこないということは分かっていました。でもシーズン終盤に向かっていくにつれて、自分はどういうピッチャーを目指していきたいのか、ということを考え始めたんです」

先発をやってみたい

 22年10月2日、シーズン最終戦である敵地の広島戦で、根尾は先発に抜てきされた。1回は三者凡退。3番の西川龍馬(現・オリックス)には、粘られながらも9球目で空振り三振にとった。2回は4番のマクブルーム、5番の小園海斗を連続三振。3回は1死二塁のピンチを作るも、ストレートにスライダー、フォークをまじえて後続をきっちりと抑えた。

「あの経験は本当に大きかったです。抑えたことがどうの、というより、投げられたというそのことが自分にとって一番良かった。チームにとって中継ぎの役割はとても大事だし、それもやりがいのあることですが、自分にとってはそっち(先発)をやってみたいなと思ったんです」

数少ないプロ入り後の野手→投手のケース

 プロ入り後に投手から打者に転向する例は多く、王貞治氏や故・川上哲治氏らのレジェンドをはじめ、近年では糸井嘉男(日本ハムなど)や福浦和也(ロッテ)らが首位打者を獲得する成功例となっている。しかし、その逆の例は日本人選手では外野手として入団した嘉勢敏弘(オリックス)などほんのわずかで、根尾の挑戦は前例のないものとなっている。

「前例のないものに取り組むやりがいですか? ないです。楽しさもやりがいもないですよ。必死です(笑)。試行錯誤というか、とにかく自分がもっと良くなるためにはどうすればいいかということを考えて取り組んでいるだけです。投げるだけじゃなく、もっともっと勉強することもたくさんある。そこは努力を続けていくしかないですね」

投手練習後に打撃練習をしていた意味

 実は根尾は今でもバッティング練習に取り組んでいる。沖縄・北谷での春季キャンプ中は、投手の練習が終わった後にバットを持ち、しっかりと打ち込んでいたのだという。

「それはやらないと。先発でやるなら9番に入るので、1番に繋げるという意味で何とかして嫌なバッターになりたいというのはあります。下位から上位に繋げていけたら大量得点にも繋がりやすい。理想はそういう形を考えています。息抜きになる? いえ、バッティング練習は息抜きなんかじゃないですよ」

9番打者としての価値

 投手と野手のジャンルを飛び越えたと言えば、大谷翔平(ドジャース)を忘れてはいけないだろう。プロ入りと同時に二刀流に取り組み世界一の存在となった大谷は別格としても、根尾も実は「転向」ではなく「二刀流」の道を進んでいきたいのだろうか。本人はその思いを明かさなかったが、いずれにしろ「9番」に根尾が入ることがチームにとってプラスになるのは間違いない。2年連続最下位に沈む中日は、昨年のチーム打率.234、71本塁打、370打点のいずれもリーグワースト。投手もなりふり構わず「9番打者」の仕事を果たすのが勝利への道だ。

オフは何をしている?

 さて、バッティング練習も「息抜きではない」と語る根尾はオフタイムをどのように過ごしているのか。そこでもストイックな素顔が垣間見えた。

「オフは寝ています。いつも1日9時間、10時間ぐらい寝るんですけど、休みの日はもっと寝ています。寝るのが好きというのではなく、体調管理。最初はよく眠れなかったんですが、最近はなんとかして寝られるようになりました。週に1回登板というのは、野手の時を考えるとたった1回か、という感じがするのですが、実際にはその1回に向けた体調管理がすごく大事になると思う。6日間でどれだけ回復できるか。一流のピッチャーはみんなそうやって考えていると思うので、そこは色々な方の意見も参考にしながら過ごしています」

あえて、本は読まない

 大阪桐蔭時代は「東大にも合格できる」と言われた秀才だけに、読書などに勤しんでいるイメージもあるが、実は「本を読む」こともあえて遠ざけているのだという。

「近くのものを見たくない。目をチカチカさせたくないんです。スマホとかも長時間使うことはなくて、見るときはなるべくパッと画面を見てすぐに目を離すようにしているんです。目は大事ですから。なるべく遠くのものを見てボーっとしています」

思い描いていたプロ6年目の姿とは全然違う

 4月には24歳になる。プロ入り時に思い描いていた「プロ6年目」とはだいぶ違う道のりをたどってきたが、根尾はその経験の意味をどのように捉えているのだろう。

「18歳、19歳のとき思い描いていた23、24歳とは全然違いますよね。まず、ピッチャーをやっているとは思っていなかったですから。でも、それは自分が選んだ道なので、それがより良いものになるように、そうするのは自分次第だと思っています。先も後もあまり気にしない。とにかく目の前のことをしっかりやる。この先沢山投げて、いっぱい勝って。チームが優勝できるような……そのローテーションの一角になれるようにと思っています」

負ける度、もう本当に気持ち悪くなる。負けたくない

 大阪桐蔭高校では、2年春から3年夏まで4季連続で甲子園出場を果たし、春夏連覇を含む3度の優勝を経験した。「最強世代」と言われたチームを引っ張ってきただけに、勝利にこだわる思いは強い。

「野球をやっている以上絶対負けたくないですし……負ける度、もう本当に気持ち悪くなるので。そういうのはやっぱり絶対に経験したくないです。僕も小さいころから強いドラゴンズを見て育ってきているので、ずっと勝ち続けられるように。(広い)ナゴヤドームでやる以上ピッチャーの重要性は高いので、そこは凄く責任があると思う。もちろんまずはナゴヤドームで投げるところからですが、1年間ずっと食らいつきたいなと思います」

本当に負けないピッチャーというのが理想

 責任感が強く、負けん気をのぞかせるその眼差しには、大野雄大、柳裕也らの系譜に連なる頼もしいドラゴンズ先発投手の気概を感じる。先発ローテーションにはさらに小笠原慎之介、涌井秀章、高橋宏斗が連なり、根尾はメヒア、梅津晃大らと最終枠を争っている。まずはローテーション入り、その先に目指すのは「プロ初勝利」だ。最後に「理想の投手像」を聞いた。

「一番は勝てるピッチャーです。0に抑えるのが一番ですけど、なんとしてもチームが勝てるように。楽天の田中将大さんが、(2013年に)24勝無敗でシーズンを終えた姿なんかを見ていたので、ああいうスーパーエース、本当に負けないピッチャーというのが理想かなと思います」

<前編とあわせてお読みください>

文=佐藤春佳

photograph by Haruka Sato