第101回箱根駅伝で主役になるのは國學院大學かもしれない。そう思わせるほど、今このチームには勢いがある。

 3月10日の日本学生ハーフマラソン選手権では、2年生の青木瑠郁(るい)が学生日本一のタイトルを手にした。そのレース運びは1時間2分06秒というタイム以上に強さを感じさせるものだった。

「箱根が終わってからずっとこのレースのことしか考えていなくて、ここで絶対に優勝するっていう気持ちでやってきました。調子は今年度で一番良いと思えるぐらい上がっていた。レースプランは立てていなかったのですが、後半勝負できれば勝ち切れると思っていました」

 前半はスローペースで進んだが、立川市街地から国営昭和記念公園に舞台を移し少しずつ先頭集団がばらけ始めると、約14kmで青木が仕掛けた。

「自分と周りの余裕度を見て、周りの選手は余裕がなさそうだったので行っちゃいました」

 ここからは青木の一人旅。しかも、「追いつかれても、振り払えるぐらいの余裕度を残していた」と言うように、力を温存しつつレースを進めていた。

突出していた青木の強さ

「青木さんの仕掛けには全く対応できなかった。どんな展開のレースでも、今回は青木さんには勝てなかったと思います。タイム以上の差があると感じました」

 レース後にこう話したのは、3位に入った早大の工藤慎作(1年)だ。今回の学生ハーフには、多くの有力選手が出場していなかったという事情があったにせよ(※ワールドユニバーシティゲームズの代表選考がかかっていない年は、えてしてこうなる)、青木の強さは突出していた。終盤は危なげない走りで、雄叫びを上げながら歓喜のフィニッシュテープを切った。

 きっちりと勝ち切った一方で、青木はこうも話す。

「國學院には山本歩夢さんや平林(清澄)さんがいるので、2人が出ていれば、1、2、3を取れたんじゃないかと思いますが、2人は自分より前だったと思っています」

 青木にとって強い先輩2人が出ていなかっただけに優勝することは使命。まさに有言実行のレースだった。

“レースで勝ち切る”。これが、國學院の上半期のチーム目標だ。

 青木は言う。

「去年の駒澤さんは出るレース全部で勝ち切ったり、記録会でも組トップを取ったりする走りをしていました。それが駒澤さんの強さでもあったし、だからこそ駅伝も強かった。そこに負けないように、自分たちもやっていかなければいけない」

キャプテン平林が「レースで勝ち切ってくれ」

 この目標を立てたキャプテンの平林もまた、自ら実行してみせている。

「僕が決めたんですから、『出るレースで勝ち切ってくれ』ってみんなに言っている本人が、勝って帰らないとキャプテンとして面目が立たない。『レベルが高かったから(勝てなかった)』とは絶対に言いたくなかった」

 2月25日の大阪マラソンには、昨年の世界選手権ブダペスト大会4位のテベロ・ラマコンゴアナ(レソト)、5位のスティーブン・キッサ(ウガンダ)が出ていた。日本勢もパリ五輪が内定している小山直城(Honda)や國學院OBの土方英和(旭化成)といった多くの有力選手が出場していた。そんなメンツが相手でも、初マラソンの平林は怯むことがなかった。そして、日本歴代7位となる2時間6分18秒をマークし、初マラソン日本最高記録と学生新記録を打ち立てて優勝を飾った。

「(チームメイトに)見られているのも分かっているわけで、相手が誰であろうと“勝ち切るレースをするんだ”っていうパッションを平林は見せてくれた。彼がキャプテンとなり、チームも良い方向に行っていると思う」

 前田康弘監督は平林のキャプテンシーを高く評価している。

 “勝ち切る”を体現しているのは、平林や青木だけではない。2月11日の宮古島大学駅伝では全5区間で区間賞を獲得し、チームは完全優勝を果たした。2月25日には1年生の野中恒亨選手が犬山ハーフマラソンで優勝している。

「主力以外の選手も、自分のレベルに合わせてレースに出ると思うので、そのレースでしっかり勝ち切ってくれればチームとしても良い流れができると思う」

 こう話す青木もまた、その流れに乗っただけでなく、その勢いを加速させた。そして、“國學院、強し”という印象をも植え付けている。

 その他にも、惜しくも優勝を逃したレースももちろんあるが、各地の大会で國學院勢の好走が目立つ。

 2月23日のADIDAS TOKYO CITY RUN 2024(5km)では、原秀寿(3年)が日本人2位(4位)。3月3日の金栗杯玉名ハーフマラソンでは上原琉翔(2年)が、トップに1秒差の3位、後村光星(1年)が初ハーフで7位に入った。日本学生ハーフは、優勝した青木に続き、辻原輝(1年)も5位入賞を果たしている。

狙うは「来年の箱根駅伝総合優勝」

「箱根駅伝の101回大会を狙っているというのは、今回のロードシーズンで匂わせられたと思う」(前田監督)

 最高の形で今シーズンを締め括ったと言えるだろう。

 新シーズンは“箱根駅伝総合優勝”がチーム最大の目標だ。

「上原と瑠郁を成長させないと優勝は近づいてこない。平林に加えて、(箱根を欠場した)歩夢も戻ってきている。この4枚をしっかり固めて、山もしっかり育成するなど、したたかに準備をしていきたい。瑠郁が2区を走れるぐらいになってくれれば、平林の5区もあるんですけどね。あとは本番。本番に合わせる、私の力がないといけません。

 新1年生も良い素材だなと思う選手がいて、4学年がそろうので、時代を作りたい。今年は本当の意味でのスタートになるかもしれません」

 手応えを感じつつも、指揮官は気を引き締め直していた。

 新チームはスローガンに『歴史を変える挑戦 Ep.3』を掲げる。“Ep.3”とあるように、このスローガンを掲げるのは実は3回目となる。

 最初に掲げた年(2010〜11)は、箱根駅伝で初めてシード権を獲得した。あの“寺田交差点”事件で10位に滑り込んだ時だ。エピソード2(2019〜20)では、出雲駅伝で初優勝を果たし、箱根でも3位に入る健闘を見せた。

 いずれもスローガンを体現し、学生長距離界に國學院の名を刻んできた。

 箱根で初シード権、初表彰台と来たからには、エピソード3を完結させるために成すべきことは1つしかない。

文=和田悟志

photograph by Yuki Suenaga