3月20日、アメリカ本国に先駆けて一足早くソウルで幕を開けたMLB公式戦「ドジャース対パドレス」。一体、韓国の野球記者はあの開幕戦をどのように見たのか。長年、韓国で野球取材を続ける韓国野球学会理事の崔敏圭氏が「大谷翔平への評価」と「日韓野球の比較」について率直に綴った。(訳:朴承珉、全2回の第2回/初回はこちら)

大谷登場以降「韓日戦は1勝5敗」

 韓国スポーツは1960年代の軍事クーデター後、国家主導で発展してきた。学生選手の育成において学業を度外視し、運動能力の向上だけにこだわった結果、様々な成果を上げたが、副作用も大きかった。韓国が発展途上国を脱して先進国の仲間入りを果たした時点から、このようなスポーツシステムが果たして正しいのかという反省が広がった。

 以後、学生スポーツでは漸進的に最低学力制の導入、正規授業履修の義務化など変化が起きた。しかし、学生時代を終えても競技続行を望む選手がいる。高校生の選手はプロに入ったり、特待生として大学へと進学するが、それができなければ、選手としては事実上の「落伍者」になる。韓国にも人格が立派な指導者と選手はいる。だが、結果至上主義が支配する今のシステムで良い人が出てくる確率は高くないだろう。大谷翔平を育てた日本の学生スポーツのあり方は、これまでの韓国スポーツの現実と対極にあると見ることができる。このコントラストによって、大谷は韓国のスポーツファンにより明るく映るのだ。

 大谷はさらに強くなった日本野球を象徴する存在でもある。2000年から2009年まで、両国代表のトップチームが対戦した五輪、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、プレミア12大会14試合で、韓国は日本に8勝6敗で優位だった。しかし、大谷が登場した2015年以降は1勝5敗だ。大谷一人だけのせいではない。

代表レベルでさらに広がった「韓日格差」

 今の韓日野球格差を端的に示す数値がある。2014年の韓国プロ野球で投じられたフォーシームファストボール(日本ではストレート)の平均球速は時速141.0kmで、同時期の日本プロ野球の時速141.5kmとほとんど差がなかった。ところが、昨年は韓国が時速143.8km、日本が時速146.6kmで、ほぼ時速3kmの差があった。

 代表チームに所属するトップレベルの投手ではさらに差が広がった。09年、WBCで日本代表チームのフォーシーム平均球速は時速147.5km、韓国は時速146.3kmだった。2023年には日本が時速153.7kmで韓国(時速145.7km)よりなんと時速8kmも速かった。2000年代の韓日戦では両国の選手が似たような「速度領域」でプレーしてきたが、今は違う。

「技術」から転換した日本の野球

 韓国には日本のスポーツについて次のようなイメージがある。「力」と「技術」の二分法で考えれば、日本は「力」よりは「技術」を自分たちの強みにしているという見方だ。1998〜99年に中日ドラゴンズでプレーした李尚勲(サムソン・リー)は「当時、日本の投手は韓国よりウエイトトレーニングを多くしなかった」と回想していたことがそれを裏付けている。

 しかし、現在では三星ライオンズの李晋暎(ジンヨン)コーチ(06年、09年WBC出場)が今年、沖縄でのキャンプを終えた後、「私がWBC代表選手としてプレーした時より日本選手の体がはるかに強くなった」と話したように「力」の面での強化が進んでいるのだ。洪(ホン)性賛(ソンチャン)元筑波大学体育系助教授は「最近、野球だけでなく日本のスポーツ全体が強くなった。広い視野でスポーツ科学をより積極的に受け入れ、国際交流により開放的になった」と日本の変化を指摘する。そして、20日の開幕戦に先発したパドレスのダルビッシュ有は、日本野球にウエイトトレーニングブームを巻き起こしたという点で日本球界の発展に寄与した投手のひとりと言えよう。

山本由伸の言葉にあった日本野球発展のキーワード

 ダルビッシュが先発した20日、高尺(コチョク)スカイドームを訪れた関係者からドジャース投手の山本由伸の話を聞くことができた。彼は「日本の投手がなぜ強くなったのか」という質問に「オリックスの一軍投手ならロールモデルとするメジャーの投手がいる。自分の身体条件と投球フォームで球速向上を実現できる個人トレーナーを探していく」と答えた。その言葉に日本野球に根付く「国際交流」と「スポーツ科学」というキーワードを読みとることができる。

今の韓国野球は1997年の金融危機に近い状況

 一方で韓国野球の今の状況は、1997年の韓国経済危機(注:日本では「アジア通貨危機」として知られる)と似ている。資本と労働の量的投入で成長を成し遂げたが、「革新」を通じた質的発展が後押しされずに訪れた危機だった。21世紀の世界野球で最も重要なトレンドは「球速革命」ともいえるほどの球速の大幅な向上だ。日本の野球はこの点で大きく進歩し、韓国はまだ入り口の段階にいる。

韓国野球ファンにとっての「イチローと大谷」

 日本の読者からすれば、世界で活躍した選手としてイチローが思い浮かぶ方もいるだろう。日米通算4367安打を放ったイチローは韓国で尊敬される選手だ。だが、愛された選手というイメージは弱い。彼はたとえると「日本野球」が人の肉体を得て、グラウンドで打って走っているというイメージだった。ところが、大谷にはそういった「国籍」が感じられない。誰よりも速くボールを投げて強く打つ。そして速く走る。野球本来の美しさを誰よりもよく見せている。このような選手を愛さない野球ファンは珍しい。

<前編とあわせてお読みください>

文=崔敏圭

photograph by Nanae Suzuki