ニューヨーク・タイムズ紙などに執筆する米国のベテラン野球ジャーナリスト、スコット・ミラー氏。メジャーを深く知る同氏が、スポーツ史上最高額となる10年総額7億ドル契約、エンゼルスからドジャースへの環境変化、まさかの通訳スキャンダル、アメリカにおける大谷翔平への本当の注目度まで……本音と実態を語った。〈全2回の1回目〉

 30年以上に渡ってメジャーリーグの取材を続け、現在はニューヨーク・タイムズ紙などに執筆するベテラン野球記者スコット・ミラー氏。専門ラジオ局「MLBネットワーク」のアナリストとしても活躍するなど、MLBを深く知り尽くした同氏にとって、今の大谷はどう見えるのか。

疑問と本音「誰も望んでいない」

「まず、オオタニを巻き込んだ通訳のスキャンダルに触れなければならないね。オオタニは3月25日(日本時間26日)にスキャンダル発覚後初めてメディアの前で説明会見を行ったが、まだ多くの疑問が残っている。まずオオタニの通訳が、賭博借金のためにどうやって450万ドル(約6億8000万円)ものお金をオオタニの口座から送金できたのかということが大きな疑問だ。今のところオオタニ自身が賭け事をしていた形跡は見当たらないし、個人的にはそれが真実であって欲しいと願っている。オオタニ自身がスキャンダルにかかわっている疑いは何一つないし、彼の素晴らしい野球のキャリアに傷がつくことなど、誰も望んでいない。特に新天地のドジャースで1年目のシーズンという期待が膨らんでいるときだけにね。

 ギャンブルに関するスキャンダルは、MLBにとってこれまでも大きな問題になってきた。歴代最多の4256安打の記録を持つピート・ローズも野球賭博で永久追放という重い罰を受けている。1919年のワールドシリーズではホワイトソックスがレッズに3勝5敗で負けた「ブラック・ソックス・スキャンダル」と呼ばれる八百長事件が起こったが、これも賭けのため8選手が賄賂を受け取っていたと発覚して刑事告訴された。リーグ全体を管理するコミッショナー制が設けられたのは、この事件がきっかけだった。

 今回のスキャンダルも、非常にセンシティブな状況になっている。野球界最高の国際的スターにかかわる問題だからなおさらだ」

結婚発表から通訳スキャンダルまで…どう見た?

 大谷にとってアメリカでの開幕戦直前の数週間は、電撃的な結婚発表と新妻お披露目から一転、スキャンダルというジェットコースターのような日々となった。夫人のお披露目は開幕シリーズのため韓国へ渡った際に、自身のインスタグラムに妻が映った集合写真、球団のXにツーショットの写真を公開するというサプライズで、米国や世界のメディアでも大きく報じられた。

「オオタニの結婚発表、ワイフのお披露目の仕方は驚いたし、面白かったね。彼はこれまでプライベートな部分をまったく公開していなかったし、個人的にはすべて秘密にし続けるのではないかと思っていたので意外だった。面白かったと言ったのは、誰かに知られる前に彼は自分のインスタグラムで真っ先に発表したから。そんなふうにみんなをあっと驚かせる彼のやり方に、好感を持っている。

 結婚に関しては、人によって、育ってきた環境や文化によって考え方が違うかもしれないが、個人的にはプライベートなことだと思うし、どんなに有名人であってもプライベートは守られるべきだと思う。パパラッチにスクープされたり騒がれたりする前に自分の意思で発表したのは良かった。メディアの要求やニーズは大きいと思うし、すべてに対応していたら大変なことになると思うけれど、そんな状況にいながら自分でメディアに出すべき情報をコントロールしている。なかなかやるなと思った」

「メディア対応に少し時間を割く必要ある」

 エンゼルス時代の大谷は、メディアにほとんど話をしないことで知られてきた。それも大谷流のコントロールの仕方かもしれないが、今後はどうなるだろうか。

「ドジャースのオオタニがシーズン中にどれだけメディアの前で話をするか、非常に興味深い。総額7億ドルという巨額契約は、野球のフィールドでの活躍はもちろんのこと、球団の顔になるという点も含めた金額であり、その責任を果たさなければならないということだ。メディアに語ることはつまりファンに向かって語ることでもあるので、しゃべることが球団の顔の務めでもある。

 オオタニが野球にどれだけ集中し没頭しているか、パフォーマンスを高いレベルに保つために毎日のトレーニングのルーティーンがどれだけ彼にとって重要なものかはわかっているが、ドジャースではメディア対応に少し時間を割く必要があると思う。彼自身も、それはわかっているんじゃないかな。エンゼルス時代のようにほとんど話をしないということはないと思っていたが、今回のスキャンダルがどう影響するかが気になる」

巨額契約…期待される成績は?

 常勝軍団ドジャースという新天地でスポーツ史上最高額の10年総額7億ドルという契約を結んで移籍した1年。注目と期待が集まりプレッシャーもかかるが、どれだけの成績が予想されるだろう。

「あの大型契約を結んだオオタニは当然、それに見合った『チャンピオン・クラス』のパフォーマンスを要求される。結局、あれだけの年数、あれだけの規模の契約を得られる選手はMLBでもほんの一握り。年齢を重ねていくとパフォーマンスのレベルが落ちていくことは確実なので、長期契約を結べば契約期間中に金額に見合わない時期を迎える可能性が高まる。オオタニの契約は彼が40歳になるまで続く。今から40歳の間というのは、実に長い時間だ。

 誰からも『いい契約だった』と言われるものにするためには2つの方法がある。1つはドジャースをワールドシリーズ制覇に導くこと。数年以内にチームをワールドシリーズ制覇に複数回導けば、間違いなく契約に見合ったと評価される。もう1つは自身が圧倒的な結果を出すこと。すでにMVPには2度輝いているが、それを今後、積み重ねていけば契約に見合ったといわれると思う。もし今季、再びMVPに輝けば、別のリーグで2年連続MVPに輝いた選手はまだいないので、史上初の快挙になる。仮に、1シーズンでMVPに輝きチームを制覇に導けば、『野球界史上最高の選手』の座を確固たるものにするだろう」

 後編では、アメリカにおける大谷の影響力、ドジャース移籍に伴い一変する環境と注目度を語ってもらった。 

〈つづく〉

文=水次祥子

photograph by Nanae Suzuki