最後を締めたのはプロ5年目の横山陸人投手だった。

 4月7日のバファローズ戦、マリーンズの絶対的守護神である益田直也投手が不調のため抹消となり、回ってきた出番を三者凡退できっちり抑えた。本拠地ZOZOマリンスタジアムではプロ初となるセーブ。若き右腕はベンチに戻る途中、ウイニングボールを今季初勝利を挙げた佐々木朗希投手に渡そうとした。同期入団の2人はボールの譲り合いを繰り返し、にこやかに少し話し合ったのち、最後は佐々木が静かに受け取った。

「そりゃあ、今季1勝目のボールですから。朗希がもらうべきだと言いました」と横山は笑った。

夕陽に照らされた光景

 その光景を嬉しそうに見つめていたのはこの試合、マスクを被った佐藤都志也捕手だった。佐藤都もまたプロ5年目。2019年のドラフト会議で2位入団した。佐々木(同1位)、横山(同4位)とは同期入団になる。ロッカールームに戻った佐藤都は嬉しそうに話した。

「いい光景だなあと思って、思わず見つめてしまいました。デーゲームが終わって、ちょっと陽が沈みそうになっている中で、みんなで勝利のハイタッチをして、2人はウイニングボールをどうするかと相談し合っている。ボクの目の前でお互いが譲り合っていた。これからこのチームを引っ張っていく2人。こういうシーンはこれから何度も見ることができるのかな、と思わず考えてしまいました」

横山が口していた「夢」

 もう一つ、思い出した懐かしい出来事があるという。

「入団したばかりの頃、横山がボソッと話をしていたのを思い出します。『都志也さんがマスクを被って、朗希が投げて、そのあと自分が抑える。そんな試合をいつかしたいですね』と。そのことをふと思い出しました」

 この日は、そんな場面が初めて実現した試合だった。

2019年ドラフト同期

 2019年の同期入団は育成選手を合わせて7人。みんな仲が良かった。1月の合同自主トレ中は寮で、2月の石垣島キャンプ期間中は宿舎ホテルでよく誰かの部屋に集まった。「朗希はテレビゲームが上手いらしい」という話となり、テレビゲームに興じることも多かった。野球ゲームに対戦アクションゲーム、カードゲーム……。練習後の自由時間には、朗らかな笑い声が響いていた。

 プロ1年目、佐藤都には嬉しい思い出もある。キャンプイン寸前の1月27日、石垣島で22歳の誕生日を迎えた。練習を終え、いつものようにホテルの自室で同期入団の選手たちと談笑をしていた。部屋には佐々木と横山。同じ大卒捕手の植田将太と大卒ピッチャーの本前郁也という新人バッテリー陣が集まっていた。

嬉しかった“サプライズ”

 いつものように他愛もない会話をして、少しばかり時間が経ってから横山に「都志也さん、ちょっと2人だけで話がしたいです」とふと部屋の外に呼び出された。廊下で話を聞くと、とりわけ深い中身がある話でもなく「わざわざ部屋の外に呼び出して話をすることではないのでは」と思った。その時の横山のニヤニヤした表情が印象的だった。

 不思議に思いながら、部屋に戻ると机の上にショートケーキが用意されていた。その場にいた全員で「ハッピーバースデー」と歌ってくれた。佐々木が発案したサプライズ企画で、同期の仲間たちがわざわざ街に買いに出て用意してくれたバースデーケーキだった。

「みんな立派になったなあ」

「あれは本当にサプライズ。嬉しかったし今も忘れられない。そんなことも思い出します」と佐藤都は振り返り、クスッと笑いながら付け加えた。

「上から目線で申し訳ないのですが、あれから4年の月日が流れて、みんな立派になったなあと思う。朗希はもちろんですけど、横山も凄いボールを投げている。あの時は本当にまだ高校生の雰囲気があって、4歳上の自分からしたら可愛い弟みたいな感じでしたけど」

 強いつながりで結ばれた同期。佐々木がプロ初先発した21年5月16日のライオンズ戦(ZOZOマリンスタジアム)もプロ初勝利を挙げた5月27日、甲子園でのタイガース戦も佐藤都がマスクを被った。そして同じく5月26日の甲子園で一軍デビューを果たし1イニングを無失点に抑えた横山と組んだのも佐藤都だ。5年目の今、佐々木朗希が先発の際にはやはり、背番号「32」が女房役を務めることが多い。

「気付き」を大切に

「朗希とバッテリーを組む時は単調にならないように意識をしています。基本はストレートにフォーク。そこにいかにスライダーなどを交えるか。試合の中で打者の様子を感じながら、気付きを大事にしています」

 今季初勝利を挙げた4月7日のゲームはまさにそのバッテリーの気付きが好結果を呼んだ。最初はストレートとフォーク中心の配球だったが初回、2回と1点ずつ失点。すると3回からはスライダーを中心にカウントをとる今までにない大胆なリードを見せ、0を並べた。

「あの日はフォークがちょっとうまく決まっていない感じだった。その中で打者はスライダーの方が、タイミングをとりづらそうにしていると思ったので、2人で話し合って、変更をしました。そういう気付きをいつも大事にしないといけないと思っている」

吉井監督も褒めた創意工夫

 ベンチで見守った吉井理人監督も「途中から投球スタイルを変えた修正力が良かった。配球を変えてから尻上がりによくなった」とバッテリーの修正能力を絶賛した。そして、「毎イニング、ベンチに戻ると2人で次の先頭、何を投げるかを相談しながらゲームを進めていた」と同期バッテリーのコミュニケーションが呼んだ勝利を喜んだ。

 佐藤都は明かす。

「今は自分も1年目、2年目と違ってだいぶ周りを見られるようになってきた。最初の頃はやっぱり色々な事にいっぱいいっぱいで、どうしても視野が狭かった。落ち着いていい緊張感を持ちつつ考えながら出来ている。朗希ともただ勢いで抑えるのではなく今日のボールの力だとどういう配球が打ちづらいか、相手のウィークポイントはどこなのか、打ち取り方を考えながら試合に入っている。本人も先発として長いイニングを投げられるように意識をしているように見える」

朗希をリードする配球の妙

 4月14日、佐々木にとって今季3度目の先発登板となった仙台でのイーグルス戦は初回に味方打線が爆発し、いきなり5点のリードをもらった。そして前回登板とは違い、本来のフォークを軸に組み立てる配球となった。

「リードがあったので、まずはストライク先行でカウントを悪くしないようにヒットを打たれてもいいというぐらい積極的にいこうという話をしました。今回は普通にフォークも良かったので、前回はスライダーが多かったのですけど、スライダーも使いましたけど、基本的にはストレート、フォーク。うまく使いながらいけたかなと思う」

 2勝目を挙げた頼もしい同期の右腕について、佐藤都は気持ちよさそうに汗を拭いながら振り返った。ブルペンには横山も待機をしていた。最終的なリードは7点で出番はなかったが、勝利が決まるとニコニコと笑顔を見せ「ナイスゲーム」とバッテリーを慰労した。

あの日語った「夢」

 プロ1年目の時、それぞれの部屋で様々な夢を語り合った。取り留めのない話をしながらも、やはり野球の話が多かった。

 “朗希が8イニングを無失点で投げて、横山にバトンを繋ぎ試合を締める。同期による無失点リレーを佐藤都がマスクを被って支える”

 いつか口にしていた夢のようなストーリー。あれから月日は経ち、みんなそれぞれに成長を遂げた。近い将来、それも現実の事として叶うに違いない。そんな予感が漂う、春の陽気に包まれた仙台のデーゲームだった。

文=梶原紀章(千葉ロッテ広報)

photograph by Chiba Lotte Marines