スターダムの“妖精”なつぽいは団体屈指の人気選手だ。華のある試合ぶり、天然キャラなど誰からも愛される存在。しかしその発言や行動を見ていると、芯の強さも感じさせる。

 デビューしたアクトレスガールズから東京女子プロレス、さらにスターダムと団体を変え、ユニットもスターダム登場時に所属したDonna del Mondoを離れコズミック・エンジェルズへ。常に自分の道を自分で決めてきた。

 昨年は自らアピールしてセンダイガールズに乗り込み、橋本千紘とシングルマッチ。テーマに“最強”を掲げた。いわゆる“アイドル的存在”では満足していないからこその行動だった。

小さい身体で激しい闘い…蓄積していたダメージ

 小さい身体で激しい闘いを繰り広げてきたから、その代償もあった。頸椎ヘルニアで昨年10月から長期欠場。ダメージの蓄積が原因だった。場所が場所だけに、うまく付き合っていくしかないという。安納サオリと保持していたタッグ王座も返上することに。

 ただ、なつぽいには転んでもただでは起きないタフさがあった。3月9日の復帰戦は安納と組んでリングへ。対戦相手は橋本千紘&Sareeeという異色タッグだ。

「縦横斜め、すべて関係性がある4人です」

 橋本とSareeeはライバル関係。昨年、アメリカのWWEから日本マット復帰を果たしたSareeeは橋本と2度の大激闘を展開している。この実力者2人がタッグを組むというだけでもニュースであり、なおかつ舞台がスターダム。橋本は久しぶりの参戦、Sareeeは初登場となる。なつぽいの復帰戦だからこそ実現したカードだ。

 なつぽいは新人時代、Sareeeが所属していたディアナで出稽古。プロレスの基礎を身につけた。2人はそれ以来の「大親友」だ。「Sareeeと一緒にいると、ずっと笑っていられる」となつぽい。

「以前、脚をケガした日もご飯に連れて行ってくれたんですよ。松葉杖つきながらゲラゲラ笑ってるみたいな。絶対にマイナスなことを言わないんです。どれだけ仲良くしても、試合になったら切り替わる。そういう相手でもありますね」

エルボーの打ち合いで涙「愛を感じたというか」

 そんなSareeeに、復帰戦のリングにいてほしかった。

「道は違えど目指すところはただ一つ」

 それが、出会った頃からの合言葉だったそうだ。団体は違うし進む道も違う。けれど頂点を目指すという気持ちは同じだと。だがここにきて、道が交わることもあっていいと思うようになった。

「このカードはファンのみなさんへのサプライズ。ワクワクしてほしいというのが一番です。もちろん自分もワクワクしたかった」

 それぞれが個性をぶつけ合う展開の中で、とりわけ印象に残ったのがエルボーの打ち合いだ。Sareeeのエルボーの強さはよく知られるところ。なつぽいも懸命に向かっていった。打ち合いながら、痛みではない理由で涙が出てきたという。

「エルボーに込められたSareeeの気持ちが伝わってきたんですよ。この場では敵なんですけど、愛を感じたというか。プロレスってそういう面があるんです。やっぱりプロレスはいいな、面白いなと思いました」

なつぽいが繋げた「点と点」

 最後はSareeeがリストクラッチ式の裏投げでなつぽいをフォール。さすがに復帰戦は甘くなかった。まして相手が相手だ。技を受けた時のダメージも体力の消耗も、道場での練習とはまったく違うレベルだった。

 敗れても手応えがあったとなつぽいは言う。4人それぞれの「点と点」を「線にすることができた」からだ。「それがプロレス。これで終わりだとは思ってないです」とも。Sareeeと橋本千紘がタッグを組み、スターダムのリングに上がった。その“点”がまた“線”につながっていく。なつぽいはその“仕掛人”だった。

「新人時代からのサオリとの関係、Sareeeとの関係、それに去年ちっちさん(橋本)と闘って。それが全部つながってこのカードになりました。ここからつながって、さらに広がっていくものがあれば」

 なつぽいの言葉は、試合のすぐ後に現実となる。Sareeeが“スターダムのアイコン”岩谷麻優との対戦をアピールしたのだ。両者は4月27日の横浜BUNTAI大会で、岩谷が持つIWGP女子王座をかけて対戦することに。Sareeeは以前から岩谷と闘いたいと語っていた。なつぽいはその具体的なきっかけを作ったことになる。

「私がスターダムの光になります」

 ただ試合をするだけでなく、単に人気選手というだけでもない。なつぽいは明確にトップを志向し、スターダムを動かそうとしている。欠場期間は、自分についても団体についても客観的に考えた。

「だから欠場も無駄な時間じゃなかったです。このところ、スターダムには(選手の離脱騒動など)本当にいろいろなことがあって。でも選手はみんな頑張っている。それは見ていて分かるんですけど、何か足りないなとも感じてたんですよ。何が足りないのか。それは“なつぽい”だったんです(笑)。スターダムにはなつぽいが足りなかった。突き抜けた明るさが私にはあると思うので。私がスターダムの光になります」

 4.27横浜大会では、中野たむと組んでアジャコング&伊藤薫の大ベテランタッグと対戦する。どちらもスターダム初参戦だ。たむとアジャがアメリカでタッグを組んだ流れから決まったカードだが、伊藤の出場はなつぽいの指名。なつぽいにとって、伊藤はディアナで基礎を叩き込まれた師匠にあたる。スターダムのビッグマッチでSareeeに続いて伊藤と闘う。それがなつぽいの“頂点への道”でもあるのだろう。

 さらにその先、タッグパートナーであり同期でもある安納との対戦も視野に入っている。安納が持つ“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムは、なつぽいも以前から目標にしてきた。新人時代、2人でスターダムに参戦。修行しながら宝城カイリが白いベルトに挑む姿に憧れていた。

 そんなベルトを、先に安納が獲ったことにどんな思いがあるのか。2人の関係性をよく知るたむは、昨年12月に安納が戴冠を決めた瞬間「思わずなっちゃん(なつぽい)の顔を見ちゃいました」と言う。

描くのは、安納サオリとのタイトルマッチ

 なつぽい自身は「前の自分だったら、“胃”が煮え繰り返るくらい悔しかったと思います」と言う。でも今はそれだけではない。

「もちろん悔しさはあるんです。だけどもの凄く嬉しい気持ちもあって。サオリとは、カイリさんのタイトルマッチをセコンドで見て“いつか私たちもこんな試合ができるようになるのかな”なんて話をしていたんです。そのサオリが、私たちの憧れの白いベルトを巻いた。シンプルに嬉しかったです」

 安納とは、必ずタイトルマッチで闘う。そう決めている。

「絶対やらなきゃいけないし、サオリもそう思ってるはず。サオリがチャンピオンだから“安納サオリvs.なつぽい”の白いベルト戦ができる。私が先にベルトを巻いてもそうなっていたはずで、順番が違うだけですね。2人で白いベルトをかけて試合ができるなんて、それだけでニヤニヤしちゃうんですよ」

 天性の明るさでスターダムを照らしながら、“妖精”は自身のキャリアすべてを“線”につなげ、ストーリーを描こうとしているのだ。

文=橋本宗洋

photograph by Essei Hara