ドゥカティのマシンに乗り換えて4戦目のマルク・マルケスが、ホームGPとなるスペインGP決勝レースで2位になり移籍後初表彰台を獲得。優勝こそ果たせなかったが、ディフェンディングチャンピオンのフランチェスコ・バニャイアと2周にわたって熾烈なバトルを繰り広げた。

 いまのMotoGPは燃費が厳しく、序盤の混戦が落ち着いた中盤以降は燃費をコントロールしながらの「ツーリング状態」になることが多い。そのため先行逃げ切りパターンという展開が多く、終盤になってのバトルはなかなか見られない。それだけに、「抜いて抜かれて」の戦いは今季いちばんの盛り上がり。最後まで諦めないマルケスの熱い走りは、ヘレスにつめかけた大観衆を大いに沸かせた。

 戦いを終えたマルケスは今季最高のレースに満面の笑みを見せた。表彰式のセレモニーが終わった後、前戦アメリカズGPに続いて壇上で再びダンスを披露し、コミカルな踊りにファンは大喜びした。

 コース上で魅せた熱い走り。そして表彰台でのパフォーマンスは、マルケスがまさに「別格」のライダーであることをあらためて感じさせ、とにかく楽しくて面白い“元王者”の姿に魅了される大会となった。

「ポルトガルで転び、アメリカでも転んだ。さすがに3回続けて決勝レースで転倒リタイアはまずいし、今回は2位になれて良かった。ペッコ(バニャイアの愛称)とのバトルでは接触もあった。かなりの勢いで彼がインに入ってきたのが見えたのでマシンを起こした。かなり強い衝撃だったよ。もし、転んでいたら本当に最悪だった」

チャンピオン同士の熱いバトル

 トップを走るバニャイアと追い上げてきたマルケスのバトルは、25周のレースが残り5周となったところで繰り広げられた。マルケスがバニャイアのインを差せば、クロスラインで立ち上がったバニャイアがすかさずマルケスのインにマシンをねじ込む。このとき二人は接触し、その衝撃でマルケスが振られ、立ち上がりでバニャイアが再び首位に立つ。

 翌周も同じポイントでマルケスが抜くも、再びクロスラインでバニャイアが抜き返す。そこからバニャイアがファステストラップを更新するラストスパートで追撃するマルケスを振り切ったが、手に汗を握るこの2周は間違いなく今季最高のバトルとなった。

 今季初めてポールポジションを獲得したマルケスは、前日スプリントレースでの転倒もあり、決勝レース序盤はちょっと慎重な走りとなって4番手に後退。その後、トップを走るホルヘ・マルティンが転倒して3番手へ。このとき、マルティンの転倒でトップに立ったバニャイアとの差は1.5秒差に開いていたが、前を走るマルコ・ベゼッキを抜いてからは一気にその差を縮め、ヘレスの大観衆を興奮させることになる。

「ベゼッキを抜いて、新鮮な空気が当たるようになってからペースを上げることが出来たし、ペッコに追いつけると思った。今日のレースでは、また一歩前進できたと思う。なんたってドゥカティのナンバー1ライダーと最後まで戦えたんだからね」

 ベゼッキのスリップから抜け出したことで、フロントタイヤの温度を下げることが出来たのだろう。それもあってペースアップに成功するのだが、終盤になってペースを上げていくのはライダーのスキルあってのもの。MotoGPクラスでこれまで6回のタイトルを獲得した「絶対王者」の完全復活が近いことを感じさせるレースだった。

幸せなライダーは速くなる

 この数戦を振り返れば、マルケスが本来の姿に戻ってきていることがわかる。ポルトガルGPとアメリカズGPでは決勝レースで転倒したものの、スプリントでは2戦連続で2位を獲得。スペインGPではポールポジションを獲得し、スプリントでは転倒再スタートで6位に終わったものの、一時はアメリカズGP決勝に続いて2度目となる首位を走行した。

 着実に階段を駆け上がるマルケスが、ドゥカティに乗り換えてからの4戦を振り返った。

「開幕前のマレーシア、カタールでのテストの時とはまるで違ってきた。あの頃はドゥカティの乗り方を理解しようとしていたが、いまは自分のライディングスタイルにバイクを少しずつ合わせ、その妥協点を見つけようとしている。今大会は最初から自信ある走りが出来た。とにかく小さな一歩だが、コースに出るたび常に前進している。いまはまだいろいろ試している状態だけど、自分に何が必要なのかがわかってきた」

 ヘレスは2020年にクラッシュして骨折を喫し、それをきっかけにタイトルから遠ざかることとなった因縁のサーキットだったが、マルケスは完全復活の日が近づいていることを強く感じさせるコメントも残した。

「今日の2位は僕にとっては特別なもの。シーズン序盤は苦戦したけど、4戦を終えてトップとの差がたった32点だなんて驚いてしまう。4年前、ここから悪夢が始まった。まだその状況から完全に抜け出していないが、こうして良いニュースを届けられるようになった。いまは楽しんでバイクに乗れていてハッピー。幸せなライダーはもっと速くなると思う」

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo