日本代表やJリーグといったフットボールについて、日本通のチアゴ・ボンテンポ記者に“お世辞抜き”で論評してもらうシリーズ。今回は8大会連続での五輪出場を決めたU-23アジアカップ準決勝イラク戦の所感、そしてこの世代のアジア王者を懸けた決勝ウズベキスタン戦の展望についても語ってもらった。(全2回の第2回/第1回も配信中)

 U-23アジアカップ決勝で日本が対戦するウズベキスタンは、日本人にはあまり馴染みのない国だろう。中央アジアの多民族国家で、人口は3500万人余り。面積は、日本より2割近く広い。首都は、かつてシルクロードの中継地として栄えたタシケントだ。

 決して身近とは言えない国とも国際大会で対戦し、興味を持つ機会を与えてくれるのが、世界中にほぼ満遍なく普及しているフットボールの良いところ。

 A代表は、FIFAランキング64位(注:日本は18位)。まだワールドカップ(W杯)に出場したことがない、いわばアジアの中堅国だ。2022年W杯は、アジア2次予選で敗退。しかし、2026年大会はE組でイランと同勝ち点をあげ、すでに最終予選進出を決めている。

 近年、育成年代ではアジア予選を突破することが多く、昨年のU-17W杯でベスト8、U-20W杯でベスト16。2022年のU-23アジアカップには日本と同様、U-21代表で臨み、準決勝で日本を2−0で倒して準優勝を飾った。

 日本もウズベキスタンも前大会を経験した選手が数人ずつ、今大会に出場しており、日本にとってはいわばリベンジの機会となる。

 今大会の準決勝では、準々決勝で延長、PK戦の末に強豪韓国を退けてこの大会最大のサプライズを巻き起こしたインドネシアを2−0で下し、2大会連続の決勝進出を成し遂げた。

ウズベキスタンは「日本と少し似ている」

――今大会で、ウズベキスタンはここまで5戦全勝。しかも、すべて2点差以上で勝利を収めている。得点14は最多で、失点は何とゼロです。

「数字だけ比べたら、ウズベキスタンが圧倒的に有利だね。でも、フットボールは数字だけでは測れないから大丈夫(笑)」

――それほど大柄な選手はいませんね。

「攻撃陣は、日本以上に小柄な選手が多く、スピードとテクニックに長けている。素早いパスワークで崩すヨーロッパスタイルで、日本と少し似ている。

 A代表に招集された経歴を持つ選手が10人もおり、うち5人は今年初めのアジアカップに出場している。左ウイングのエルキノフ(22)、MFファイズラエフ(20)、CBクサノフ(20)はすでにA代表でも主力だ」

ウズベクの主力がクラブ事情で決勝は欠場

――ところが4月30日、エルキノフ(アル・ワフダ)とクサノフ(ランス)はクラブから帰還を命じられ、ファイズラエフ(CSKAモスクワ)も決勝は欠場するという報道がありました。

「それが本当なら、ウズベキスタンにとっては大きな戦力ダウン。日本にとっては追い風だ。ただ、仮にこの選手たちが出場したとしても、ウズベキスタンは日本のようにすべてのポジションに高い能力を備えた選手がいるわけじゃない。また、日本は大会を通じて多くの選手が目覚ましい成長を遂げてきた。十分に勝てる相手だと思うよ」

――すでにパリ五輪出場を決めている両国の、優勝へのモチベーションという点ではどうでしょうか?

「日本はこれが8大会連続の五輪で、出場するのが当たり前。こだわるのは、五輪での成績だ。一方、ウズベキスタンは初の五輪出場で、国中が大変な盛り上がりと聞く。このような状況で、初優勝を目指し、非常に強いモチベーションを持ってプレーするのではないか。日本にとっては要注意だ」

18人しか行けない五輪本戦…現時点で“当確の4人”は?

――日本は、大会前から監督も選手も「パリ五輪出場権」のみならず、優勝を目標に掲げてきました。ただ、現実問題として、チームはパリへ行っても自分はパリへ行けない選手が大勢出てくる。今大会の登録選手は23人だが、パリ五輪に登録できるのはわずか18人。しかも、オーバーエイジ(注:24歳以上)3人を起用する可能性が高く、さらには23歳以下でも今大会にクラブが供出を拒んだため登録できなかった選手が数人いるため、この大会に出場した選手の半数前後がパリへ行けない可能性がある。

「だからこそ、選手にとっては決勝がパリ五輪登録メンバー入りのための非常に重要なアピールの場となる。

 当面、故障さえしなければパリ行きが当確なのは、GK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)、CB高井幸大(川崎フロンターレ)、MFの藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)と松木玖生(FC東京)の4人くらい。MF山田楓喜(東京ヴェルディ)、左SB大畑歩夢(浦和レッズ)、CB木村誠二(サガン鳥栖)、右SB関根大輝(柏レイソル)、FW平河悠(町田ゼルビア)らが近い場所にいる。

 彼ら、さらにはそれ以外のボーダーラインの選手、攻撃陣では藤尾翔太(町田ゼルビア)、佐藤恵允(ブレーメン)、守備陣ではボランチの川﨑颯太 (京都サンガ)、CBの鈴木海音(ジュビロ磐田)と西尾隆矢(セレッソ大阪)らは、現在のレギュラー以上のパフォーマンスを見せる必要がある」

仮に優勝したとしても彼らの終着点ではない

――この世代には久保建英(レアル・ソシエダ)や鈴木彩艶(シント・トロイデン)といった東京五輪経験者、さらにはデンマークでゴールを量産している鈴木唯人(ブレンビー)はマンチェスター・シティやリバプールが注目しているとも言われるなど、未招集のメンバーも多士済々です。さらにオーバーエイジ候補として板倉滉(ボルシアMG)や田中碧(デュッセルドルフ)、町田浩樹(サンジロワーズ)らの名前が挙がっています。パリ行き当確の数人以外、大多数の選手は厳しい状況に置かれているということですね。

「だからこそ、決勝では全員が最高のプレーを見せて、優勝を掴み取ってもらいたい。ただし、仮に優勝したとしても、それが彼らの終着点ではない。五輪があり、さらにその先のキャリアがある」

――五輪は、あくまでも年齢別の大会であって、しかもクラブには選手を供出する義務がない、という制限付きの大会です。現実問題として、五輪開催国以外はベストメンバーを組めないのが通例です。

「2016年リオ五輪と2020年東京五輪(注:実際に開催されたのは2021年)で連覇を遂げたブラジルにしても、オーバーエイジも含めてベストメンバーを招集できたのは自国開催だった2016年大会だけ。2020年大会はベストには数人以上を欠く陣容で、優勝できたのは幸運だった」

“優勝ならスペイン回避”だけどパラグアイも難敵だよ

――とはいえ、極東に位置し、欧州、南米の強豪国との対戦機会が少ない日本にとって、五輪は選手強化のうえで重要な意味を持つのも事実です。この大会で優勝すると、パリ五輪ではパラグアイ、マリ、イスラエルと同じグループに入ることが決まっている。一方、準優勝ならスペイン、エジプト、ドミニカ共和国と同グループとなる。日本にとって、どちらのグループが望ましいと思いますか?

「パラグアイは、パリ五輪南米予選でブラジルを1−0で倒し、アルゼンチンと3−3で引き分けて首位で突破している。かなり手強く、一概にスペインより容易な相手とは言い難い。残りの国もほぼ互角だから、大きな違いはなさそうだ(笑)。

 フットボールは、一筋縄ではいかないスポーツ。国際大会の組み分けは一見、やさしそうにみえて実は大変だったり、極めて困難と思えるグループに組み込まれても何とか突破できることがある。

 現に、日本は2020年東京五輪で開催国としては異例に困難なグループ(注:フランス、メキシコ、南アフリカと同居)に入りながら、3戦全勝で突破した。2023年W杯では、ドイツ、スペイン、コスタリカという絶望的としか思えないグループを何と首位で突破したよね」

――そうなんですよね。だからこそ、フットボールは面白い。

「一見、スペインのグループの方が厳しい印象を受けるかもしれない。でも、パラグアイはパリ五輪南米予選でブラジルを1−0で倒し、アルゼンチンと3−3で引き分けて首位で突破している。

 さらに、日本はマリに3月に開催されたホームの親善試合、1−3で敗れたばかり。もっと言えばイスラエルには、昨年のU-20W杯で痛い目に遭っている(注:GS最終戦で逆転負けを喫し、16強入りを逃した)。どちらのグループも、難易度はほぼ変わらないと思うよ」

 チアゴ記者が褒めちぎった準決勝イラク戦に続き、日本は決勝でウズベキスタンを倒してU-23のアジア王者となり、パリ五輪出場に花を添えることができるかどうか――。チームにとっても、また個々の選手にとっても、重要な試合となる。

<第1回からつづく>

文=沢田啓明

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