蜂の大量発生で大谷翔平、山本由伸が所属するドジャース戦が遅延した一連の“騒動”が話題になった。メジャーリーグではこのような珍事も素早くグッズ化するようだ。メモラビリアに明るいAki氏にトリビアを教えてもらった。

「Bee Delay(蜂による遅延)」

 野球ファンの中でも耳慣れない試合開始遅延だっただろう。

 4月30日(日本時間5月1日)ダイヤモンドバックスvsドジャース(チェイスフィールド)の試合直前にバックネットの上段に蜂が大量発生しているのが見つかり、開始が遅延したのだ。

蜂発生→業者が対応→始球式だけでもエンタメなのだが

 ドジャースの大谷翔平、山本由伸も困惑した表情で当初は事態を見守り、ムーキー・ベッツもブーイングならぬ「ビーイング」するなどして時間は過ぎていったが――業者を手配しているのか暫くは何の進展もないままベンチ裏に下がってしまった。

 ただこの時間もじっと待つファンを飽きさせないためか、スタジアムには、恐らく「蜂(BEE)」にかけたと思われるビートルズの「Let it be」が流れて球場を和ませていた。

 1時間を過ぎたあたりだろうか、ようやく蜂駆除業者のマット・ヒルトンさんがカートに乗って球場に登場。白い防護服を身にまといグラウンドを移動する際に流れていた曲は、a-haの「Take On Me(私を連れてって)」、そして作業の際には、日本では「スクールウォーズ」でお馴染みの「Hero(ヒーロー)」だった。咄嗟の事態にもこのように演出を加えてしまうのはやはりアメリカらしい。

 無事駆除を終えてもこれだけでは終わらない。そのままヒルトンさんは始球式まで行ってしまった。筆者は試合開始遅延時間1時間55分間の蜂駆除業者の映画でも見ていたのだろうか。

 これだけでも十分なエンターテイメントなのだが、更にこれだけでは終わらないのがMLBだ。

 翌日、米Topps社からヒルトンさんのカードが発売されることになった。しかもランダムでヒルトンさんの直筆サイン入りの当たりカードも封入される仕様だ。

 直筆サインカードが合計で41枚、ヒルトンさんがこの41枚のカードにせっせとサインを書いている様子を想像するだけでにやけてしまう。そして、ヒルトンさんのカードだけではなく「Bee(蜂)」のカードも発売されている。この蜂の集団のみのカード、果たしてどんなファンが購入したのだろうか。

“蜂襲来”以外にもリス、猫…すぐに商品化

 MLBはこのように日本では考えられないようなものを商品化してすぐに販売してしまうので、いくつか紹介してみたい。

 まずは「リス」カード。2011年に本拠地ブッシュ・スタジアムに現れたリスをマスコット化し、「ラリー・モンキー」ならぬ「ラリー・スクイレル(リス)」としているのだが――2018年に再度現れたリスをカード化したものになる。MLBの選手でも無いカードを買う人がいるのか? という疑問をお持ちかもしれないが、当時24時間限定で発売されたこのカードは2294枚も販売されている。

 動物シリーズでは他にもCAT(猫)、GOOSE(ガチョウ)、DUCK(アヒル)とスタジアムに現れたゲストがカード化されて発売している。その中でも猫のカードは約4000枚発行されている。動物カードのみを集めるコレクターも存在するのかもしれない。

フィールド・オブ・ドリームスのトウモロコシも

 動物や昆虫だけではない。メッツの本拠地であるシティ・フィールドで44269本ものホットドックが食べられた記念カードが、1ドルで限定販売されている。

 さらには「あの名作映画」にちなんだ植物もカード化された事例がある。

 映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった土地であるアメリカ合衆国アイオワ州のトウモロコシ畑の中の球場でMLBの公式戦が2021年から年1回ペースで開催されているのだが、この球場で採取された「トウモロコシ畑の茎」入りカードである。筆者も映画の大ファンということもあって、開催初年の茎入りカードを保有している。

 しっかりと「GAME USED CORN STALK (試合で使われたトウモロコシの茎)」となっており、MLBの認証ホログラムも貼付されている。そろそろ腐ってしまうのでは? という危惧を持ちつつ保有しているが、今のところは大丈夫そうだ。

大谷が座ったイス、古い座席も販売してしまう

 カード以外でもMLBオークションでは、あらゆる珍しいものが販売されたりする。

 大谷翔平がロッカールームで座ったイス、試合で使われたピッチングプレート、投手が使ったロージン、そしてスタジアムが改修されるとなれば古い座席、先日こちらでも紹介したが――大谷の打球が当たって壊れた電飾パネルまで販売してしまう。

 もちろん欲しい人がいるからこそ成り立つ商売ではあるのだが、MLBの商魂はやはり逞しい。そのうち筆者もコレクションしている「空気・熱気」も販売し始めるかもしれない……。

「Bee Delay」のMVPはヒルトンさんだったのだろう

 さて、「Bee Delay」の試合はホームのダイヤモンドバックスが逆転サヨナラホームランで勝利したのだが、この試合の本当のヒーローはホームランを打ったクリスチャン・ウォーカー以上に、試合を無事開始に導いたミツバチハンター・ヒルトンさんかもしれない。

 なぜならこの記事を書いている際に、Topps社からヒルトンさんカードの発行枚数が発表になったのだが――その数なんと1万6946枚。このストーリーは本当に映画化されてしまうかもしれない。

「MV(Bee)P!」

 といったところだろうか(笑)。

文=Aki

photograph by Christian Petersen/Getty Images