ロサンゼルス・ドジャース移籍1年目、好スタートを切った大谷翔平。2日(現地1日)のダイヤモンドバックス戦で初めて休養日が与えられたが、開幕からスタメン出場を続けた32戦では打率.336、7本塁打、19打点、OPS1.017と好成績をマークしている。水原一平・元通訳の違法賭博&窃盗事件というとてつもないスキャンダルが明るみに出た後でも、打撃のペースは落ちていない。

 そんな大谷の序盤戦を改めて評価すべく、「ロサンゼルス・タイムズ」のドジャース番記者、ジャック・ハリス氏に意見を求めた。波乱の1カ月強を過ごした大谷に変化はあるのか。ロサンゼルス・エンゼルス時代から大谷を取材した経験を持つハリス記者の目にも、ここまでのフィールド内外での大谷のパフォーマンスはハイレベルに映っているようだ(以下、ハリス記者の一人語り)。

「もう少しスロースタートでも許された」

 翔平はドジャースとそのファンが期待した通りの活躍をしていると思う。上質なパフォーマンスは数字に現れている通りだし、チームメイト、コーチからはその練習熱心な姿勢を絶賛されている。フィールド外でも新しい同僚たちに明るく接し、早い段階から受け入れられてきた。

 開幕直後に起こった水原一平の事件を考慮すれば、もう少しスロースタートを切っていたとしても許容されていたはずだ。そんな中でも優れた成績を残し、チームにもすぐに馴染んだことは、翔平の集中力、才能の素晴らしさ、そして適応能力の高さを表していると思う。

 メジャーリーグでハイレベルのプレーを続けることは簡単ではない。翔平の場合、最高級の貢献を果たすようになってもうこれが4年目だ。2021年、トロント・ブルージェイズのウラディミール・ゲレーロJr.がライバルのように目されていたが、もう彼と翔平を同列に並べる人はいないだろう。5月1日まで対戦したアリゾナ・ダイアモンドバックスのコービン・キャロルは昨季、好成績で新人王を獲得したが、実働2年目の今年は不振に喘いでいる。

 そんな例は数え切れないほどある中で、翔平は優れたパフォーマンスを継続している。その事実は天賦の才だけでなく、努力に裏打ちされた安定感も備えていることを示しているのだろう。

番記者も懸念していた事件後の振る舞い

 一平事件に関して興味深かったことは、翔平がこれまでにない試練にどう対処するかが見られたことだ。エンゼルス時代はとにかくベースボールに集中し、その話題だけだった。それが今回、途方もないスキャンダルに見舞われたことで、私たちメディアとファンは翔平のこれまでと違う面を目の当たりにすることになった。

 自身に一番近いところにいた人物があのような事件を起こし、突然いなくなったのだから、とてつもなく巨大なアジャストメントだったはずだ。思いもよらぬ混乱に上手に対応できる選手もいれば、そうではない選手もいる。

 翔平は突然の試練に上手に対処したと思う。序盤戦の成績の素晴らしさは先ほども述べた通りだし、今回の件が彼と他のチームメイトたちとの関係に悪い影響を及ぼしていないことも印象的だった。

 一平の事件があった後、翔平は私たちメディアを避けて回るようなことはなかった。ドジャースを取材する記者はエンゼルス時代よりもはるかに多く、常に優勝候補なのだから、いずれにしても翔平はこれまでより頻繁なメディア対応を必要とされていただろう。低迷期が多いエンゼルスと同じようにはいかなかったはずだ。

 これまで翔平に関して、何をするにも一平を通じて行われていた。間に入る人が1人でもいたら、選手と他の選手、選手とメディアの間に少なからずの距離ができるのは当然のことだった。その仲介役がいなくなり、しかもあれほどのスキャンダルが起きたあと、翔平はよりオープンにメディア対応しようという意思を示していると思う。取材時にも、これまで以上に自分自身を見せようと努めているように感じる。

 質疑応答の途中によく笑うし、トロントでのメディア対応時には例のチャーター機の一件についても話したのは象徴的だった。なぜそういう方向になったのかはわからないが、エンゼルス時代から翔平を取材してきた記者として新鮮に感じているのは確かだ。

 振り返ってみれば、一平事件直後の会見でも、翔平は私たちが想定していた以上に詳細に話してくれた。それによってあの騒ぎが多少なりとも鎮静化することにもなった。

 また、チームメイト、メディアに明るく接していることで、ドジャースのクラブハウス、ファンベースに溶け込むスピードを早めていると思う。このように翔平がよりオープンになったことはポジティブな要素であることは間違いない。

 フィールドでのパフォーマンスの話に戻ると、2024年開始前から注目されていたのは、今季は投手としての登板がないことが翔平の打撃成績にどう影響するかだった。

 昨季に残した打率.304、44本塁打という基準を超えるのは容易なことではないが、ドジャース首脳陣の一部はそれが可能だと信じていた。そして、序盤戦のプレーを見る限り、実際にキャリアハイの成績を残しても驚くべきではなさそうだ。

 今季も3割以上の打率を残すことは十分可能だろうし、本塁打も40本に届きそうだ。ドジャースの強力打線の一員になったのだから、打点も100を超えるかもしれない。もちろん今後、どうなっていくかはわからないが、打率.300、40本塁打以上、そして110打点くらいを挙げることは十分に射程圏内に思える。

得点圏打率の低さ「騒がれすぎ」

 ほぼ唯一の突っ込みどころといえる得点圏打率の低さに関しては、少々騒がれすぎではないかと思う。まだ試合数、打席数が少なく、完全なスモールサンプルだからだ。

 翔平はもともと積極的な打者だが、チャンスでの打席ではストライクゾーンから外れた球をスイングするケースが目立つのは事実である。それをした上で、結果が伴わなかった場合、「プレッシャーがかかっているんじゃないか」とか「必要以上にやろうとしているのではないか」と思われてしまう。デイブ・ロバーツ監督は「走者を置いた場面ではもう少し辛抱強く」という話を翔平としたことをすでに明かしている。

 ただ、繰り返すが、得点圏打率というスタッツには偶然性も含まれ、特筆され過ぎるべきではないというのが私の考え方だ。過去2年、プレーオフでは、スター選手まで含めてチャンスでいい打撃ができなかったことがドジャース敗退の主要因になった。そんな背景を考えればファンが懸念し、反応するのは理解できるが、私はこれまで見てきて、翔平がチャンスに結果を出せない打者だとは考えていない。自身、周囲ともに向上を誓っているだけに、得点圏打率も徐々に上がっていくだろうと予想している。

文=杉浦大介

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