2023-24シーズンがフィナーレを迎える欧州サッカーの中で、日本代表に名を連ねる海外組もそれぞれが奮闘した。NumberWebでは各国ネットワークを駆使して、「各選手のリアル評価と採点」を現地在住外国人記者から集めた。初回はフランス、リーグ・アンの名門モナコで9ゴールを挙げ、大手紙『レキップ』のベストイレブンにも選ばれた南野拓実だ。(翻訳:井川洋一)

「フットボールは奇妙なものです。時に、些細な物事が選手のすべてを変えることがある」

 これはASモナコで初めてプレーする日本人選手、南野拓実の言葉だ。現在29歳のアタッカーは2年目のフランスのリーグ・アンを戦い終えた今、昨季と今季にくっきりと明暗が分かれていることを自覚している。ちょうどモナコの独特なホームシャツに、斜めに引かれている赤と白の境界線のように。

「不満を感じていたのは事実です。でも…」

 南野は2022年6月、推定移籍金1500万ユーロでリバプールから地中海沿岸の小さくて裕福な公国のクラブに加入。しかし1年目は、周囲の期待に応えられなかった。

「昨シーズンは困難でした。チーム自体がうまくいっておらず、自分もその影響を受けてしまったところがある」と明かした南野はその2022-23シーズン、リーグ戦の10試合に先発しただけで、1得点と4アシストに終わっている。提示されたイエローカードは2枚と、ゴール数より多かった。

 ところが今シーズンは開幕からたったの3試合で、前季の得点数の3倍に届いた。そして先週末に全日程を終えたリーグ・アンで、モナコの2位フィニッシュと6年ぶりのチャンピオンズリーグ出場権の獲得に貢献。自身がリーグ戦で積み上げた9ゴールは、彼にとってレッドブル・ザルツブルクでの2016-17シーズン(11得点)以来となる高記録だ。

 この大きな変化の要因は何か。おそらく昨季までチームを率いたフィリップ・クレモン監督(現レンジャーズ)にも、その一端を見出せるだろう。なぜなら、このベルギー人指揮官から重用されなかったことが、南野の闘争心に火をつけたのだから。

「不満を感じていたのは事実です」と南野は今季前半戦の途中に話した。

「でもそれを力に変えられたからこそ、今の自分がある。あのフラストレーションを過去のものにしたかったので」

かつての恩師のスタイルは「僕に完璧に合う」

 そしてもちろん、今季に就任したアディ・ヒュッター監督の存在が大きい。

 現在54歳のオーストリア人指揮官は、南野が2015年1月にセレッソ大阪からザルツブルクに渡り、初めて欧州に挑戦した時に出会った恩師である。

 この8年ぶりの邂逅により、南野は本来の力を発揮するようになった。

「アディ・ヒュッター監督の掲げるプレースタイルは、僕に完璧に合うものです。今のチームでピッチに立てば、監督が自分に望んでいるものがすっかり理解できる。昨シーズンと比べて、多くのことが変わりました。与えられている役割は、自分が一番やり易いものです。また今季はプレシーズンに最初から加わることができたので、良い状態でシーズンに入れました」

 昨季はサイドで起用されることが多かったが、今季は主にセカンドストライカーを任された。1トップのウィサム・ベン・ヤーデルを、アレクサンドル・ゴロビンと共にサポートする役割だ。特に序盤戦は、この形が実にうまく機能した。

フィジカルとダイナミックさへの適応に時間はかかったが

 南野は開幕から4試合で、3得点と3アシストを記録。なかでもホームでの開幕戦となった第2節ストラスブール戦では、前半に先制点と追加点を決めた後、後半にベン・ヤーデルのダメ押し点をアシストし、全得点に関与して3-0の勝利の立役者となった。

「良いプレシーズンを過ごしたのだから、最高のスタートにも頷けるよ」とヒュッター監督は再会した教え子の活躍に目を細めた。

「彼は心身共に、かなり良くなったと思う」

 またリーグ・アンで要求されるものを理解できたことも、南野の復調を手助けしたはずだ。本人も次のように明かしている。

「他のリーグと比べて、ここではより優れたフィジカルが求められる。展開はダイナミックで、1対1の場面も多い。慣れるまでに時間はかかったけど、今季はうまくボールを受けられるようになり、自分の強みでもあるターンが生き、ボックスのなかで良いポジションが取れている。自信が増し、そうしたプレーに繋がっていると思います」

エムバペとオーバメヤン、南野だけが記録した快挙とは

 序盤の4試合を3勝1分と好発進し、モナコの首位浮上の原動力となった南野だが、以降はチームと共にやや調子を落とした。

 11月下旬の敵地でのパリ・サンジェルマン戦では、1得点と1アシストをマークしたものの、2-5の完敗を喫している。年明けのアジアカップでは、準々決勝でイランに敗れた翌日の第20節ル・アーブル戦の終盤に途中出場。予想外の早期敗退と本人の意欲により、2試合の休場にとどめたのだ。以降、4得点と4アシストを追加し、今季のリーグ戦の成績は30試合で9得点6アシストとなった。

 最終節FCナント戦には終盤に少しだけピッチに立ったが、もしチームが前節に2位の座を固めていなければ、監督はもっと彼の力を必要としただろう。なにしろ今季の南野は、権威ある『レキップ』紙の平均採点でリーグ・アンの3位だったのだ。またリーグ戦で3度、1得点1アシスト以上を記録したのは、彼のほかにキリアン・エムバペとピエール・エメリク=オーバメヤンしかいない。

自分たちが日本人選手の評価を高められたら…

 それでも本人は、まだ改善の余地があると感じているようだ。

「個人的には、完全に満足しているわけではありません。もっとチームを助けることができたと思う。攻撃的な選手として、チームを牽引していかなければならない。それができている時は、自信も深まります」

 加えて、日本代表としての自覚も増しているように見える。

「欧州の5大リーグに日本人選手が増えれば、代表でのポジション争いも激しくなる。それは日本代表に必要なこと。伊東純也や中村敬斗、そして自分たちが日本人選手の評価を高められたら、より多くの日本人選手がもっと移籍しやすくなると思います」

 間違いなく、今季の彼は後進への門戸を広げたはずだ。そんな南野のシーズンを10点満点で評価するなら、8となるだろうか。このまま来季をキャリア最高の状態で迎えられれば、新フォーマットのチャンピオンズリーグでも輝きを放つかもしれない。ザルツブルク時代の2019-20シーズンには、グループステージのリバプール戦で鮮烈な活躍を披露して、ユルゲン・クロップ監督の目に留まり、直後の冬に引き抜かれた。

 それをふまえると、モナコのファンからすれば、南野にはあまり目立って欲しくないかもしれないけれども。
<つづく>

文=イアン・ホーリーマン

photograph by Panoramic/AFLO