残された時間で、どこまで競争力を上げられるか──。

 パリ五輪に出場するU-23日本代表が、6月7日と11日にU-23アメリカ代表と対戦する。アウェイでの連戦は、メンバー発表前最後の活動だ。

 大岩剛監督は、25人の選手を選んだ。代表活動は23人のチーム編成が基本だが、昨年11月の活動は26人で行なっている。指揮官が「チーム力、競争力をいま以上にあげるため」と話したように、これまで招集できなかった選手をテストするための「プラス2」と考えるのが妥当だ。

枠は「両サイドで3人」か? 再激戦区のウイング

 アタッカー陣では、オランダ・エールディビジでプレーする3人が招集された。三戸舜介、斉藤光毅(ともにスパルタ・ロッテルダム)、佐野航大(NEC)だ。いずれもU23アジアカップには出場していないタレントである。

 主戦術の4-3-3に当てはめていくと、三戸は右ウイング、斉藤は左ウイングでの起用が濃厚だ。右ウイングでは山田楓喜がU23アジアカップで序列をあげたが、今回は招集されていない。このポジションでは、スピード豊かな松村優太(鹿島アントラーズ)も招集されている。

 斉藤は左ウイングの争いに参戦する。こちらは佐藤恵允と平河悠が主戦場としている。U23アジアカップで存在感を示したふたりに、ベルギー2部のロンメル移籍をきっかけにオランダで2シーズンを過ごしてきたドリブラーが、満を持して合流してきた。左ウイングは最激戦区と言っていいだろう。

 五輪の登録メンバーは18人だ。GKを2人とすれば、フィールドプレーヤーは16人になる。各ポジションに2人ずつ配置することはできない。ウイングは左右両サイドで3人、ということも考えられる。

 選手選考の条件として、周囲との連携構築は大前提だ。パリ五輪は中2日で試合を消化していくので、連戦に耐えうるタフネスさも必須である。

サバイバルを突破するために求められる要素とは

 そのうえで、熾烈なサバイバルをくぐり抜けるアプローチはふたつに大別できる。

 ひとつ目は「スペシャリストとしての存在感」を発揮することだ。チーム戦術を遂行したうえで、得点につながるビッグプレーを見せる。自身が生きるポジションで確実に仕事をする、つまりはスペシャリストとして仕事ができる選手は、どんな監督にとっても魅力的だ。中3日の日程で2試合を消化する今回のU-23アメリカ代表戦で、「個」の力で目の前の相手を剥がす、守備組織を打開できるところを見せた選手が、パリ五輪に大きく近づく。

 ふたつ目は「ポリバレントな資質のアピール」である。

 限られた人数で戦術的なバリエーションを作り出し、出場停止などの事態に対応していくためには、複数ポジションに対応できるタレントは必須だ。

“サプライズ招集”佐野航大にもチャンスあり

 ここで注目されるのが20歳の佐野だ。

 所属先では左ウイングを主戦場としているが、中盤の攻撃的なポジションや右サイドでも起用された。4-3-3ならインサイドハーフにも適応する。ディフェンスでもハードワークできる。

 たとえば、彼の立ち位置を変えることで、選手交代をせずに戦術を変更することも可能だ。今回が初めてのU-23代表招集であり、「サプライズ」とも言われたが、18人で戦う五輪にふさわしいタレントである。

 あとは、佐野自身がピッチ上でどんな答えを見せるのか、だ。

最終ラインのOA招集は「かなり難しい」

 アタッカー陣の選考は、豊富な人材を絞り込む作業である。それに対してセンターバックは、オーバーエイジの招集が求められるポジションと言っていい。

 候補にあげられたのは、日本代表として国際経験を積んでいる谷口彰悟、板倉滉、町田浩樹らである。しかし、彼らは6月に北中米W杯アジア2次予選を戦う日本代表に選出されている。パリ五輪出場について所属クラブとの調整に苦慮しているのが理由で、ここから状況が好転するとは考えにくい。

 JリーグからCBを選ぶことは可能だが、パリ五輪の開催中もリーグ戦は行なわれている。大岩監督が鹿島アントラーズで采配を振った当時の選手として、昌子源や植田直通の名前がオーバーエイジの候補として報道されたこともある。しかし、昌子が所属するFC町田ゼルビア、植田が在籍する鹿島は、J1で首位争いを演じている。クラブ側からすれば、戦列を離れてほしくないのが本音だろう。

 日本サッカー協会の山本昌邦ナショナルチームダイレクターは、オーバーエイジの招集に努力していくとしながらも、「かなり難しい」と明かしている。最終ライン中央はU-23世代が担うことが、現時点で濃厚だ。

高井幸大も“安泰”ではないCBのポジション争い

 U23アジアカップでは、高井幸大が評価を高めた。190センチを超えるサイズを持つ19歳は、CBの争いで一歩抜け出したかに見えた。しかし、所属する川崎フロンターレは安定感を欠いており、高井はU23アジアカップ後にスタメンをつかみ切れていない。

 所属クラブで試合に出続けている木村誠二が外れ、高井が選ばれているのは、大岩監督の期待の表われだろう。それでも、プレータイムを確保できなければ、高井のパリ五輪行きにも影が差す。まずは今回の2試合で、しっかりとアピールしなければならない。

 木村に代わって招集されたのはチェイス・アンリだ。シュツットガルトのセカンドチームで、シーズンを通して稼働してきた。フィジカルの強さは、U-23世代でも飛び抜けている。

 192センチの高井と187センチのチェイスがCBのコンビを組み、187センチの関根大輝が右サイドバックに入れば、最終ラインの高さが一段と増す。全員が190センチ越えのGKを含めて、ゴール前の制空権を掌握できそうだ。

 その一方で、チェイスは20歳、高井は19歳だ。5月に23歳となった西尾隆矢のようなリーダーシップを、彼らが発揮できるのか。今回の2試合で確認したいポイントである。

 高井、チェイス、西尾とともにCBで選出された鈴木海音は、所属するジュビロ磐田で定位置を確保している。西尾もセレッソ大阪でプレータイムを確保しており、4人の組合せを確認しながらファーストチョイスのコンビを決めていく、という作業が行なわれていくのだろう。

 個人で守れる力において、オーバーエイジは頼もしい。ただ、CBふたりのチャレンジ&カバーの練度を高めることで、U-23世代でも対抗することはできるだろう。

 チーム内の競争力を高め、U-23世代だけでも戦えることを示す。パリ五輪世代にとって今回の2試合は、一人ひとりのプライドを懸けたサバイバルとなる。

文=戸塚啓

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