ジャムの国内トップシェアブランドとして、その名を馳せる「アヲハタ」。ジャム売り場でその商品を見たことがある、食べたことがあるという人も多いのではないだろうか。そんなジャム、フルーツスプレッドを基幹商品としているアヲハタが、新たな事業として注力しているのが、フローズンフルーツ。2023年3月には「アヲハタ くちどけフローズン」という、“凍ったままでやわらかい”というこれまでの冷凍フルーツの常識を打ち破る商品を発売し、好評を博している。アヲハタがなぜ新たな商品群に挑戦することになったのか。どうやって“凍ったままでやわらかい”という食感を実現させたのか。アヲハタ株式会社の研究開発本部およびマーケティング本部担当兼マーケティング本部長、藤原かおりさんに話を聞いた。

■国内市場でジャムだけでは成長できない。新たな軸を作るという決意
「DINKSやDEWKS(共働き子供有り世帯)では購入者数は伸長している」としつつも、日本国内市場においては、ジャムだけでは企業としての成長は難しいというのがアヲハタとして考えにあったという。

「ジャムは基本的に単体で食べられることがない商品です。用途としてもトーストに塗る、ヨーグルトに入れるというパターンになりがちで、なかなか新たな展開に結びつきづらいという傾向があります。これからもアヲハタとしてジャム、スプレッド事業は大事な分野として取り組みつつ、果実と果汁だけでフレッシュな味わいを作り出した『まるごと果実』のような特徴のある商品を用いて、新たなレシピ、シーンを提案し、市場を活性化してきたいと思っています。しかし、同時に新たな商品開発もしていかなければならないと思っていました」

さまざまな検討がなされた結果、目をつけたのが冷凍商品。その理由を問うと「冷凍市場が伸長しており、ジャム原料の加工で冷凍技術には長年の知見を所有している、という事実に基づき、自社の強みを生かした事業展開が可能であると判断したため」なんだそう。社内公募によって生まれた商品アイデアで、2015年から検討をスタート。2020年11月に「アヲハタ くちどけフローズン いちご」の前身商品にあたる「くちどけいちご」がセブンーイレブン専売商品としてリリースされるまで、5年もの歳月がかかった。

「素材のおいしさを最大限活かしたいという想いで開発を進めました。従来のジャムとは全く違う発想とアプローチで、レシピや製法を作り上げるまでが大変でした。そのひとつとして、この商品のポイントとなる“果汁や糖を浸み込ませる”ための方法と、その条件設定に苦労しました。フルーツ本来のおいしさを損なわずに仕上げることにこだわり、現在の独自製法にたどり着きました」

くちどけフローズンで採用されている、独自製法とはどんなものなのだろうか?

「通常の冷凍フルーツとは違う、凍っていてもそのまま食べておいしいことを実現する製法です。果汁や糖をうまくしみ込ませることで、凍っているときのやわらかさと、生の果物のようなフルーティーな香りを感じることができます。フルーツによっては、くちどけのよい食感、素材本来の香りのよさを出すことが難しく、どうすれば驚きや感動を感じてもらえるかをフルーツごとに試行錯誤しています」

アヲハタでは創業以来、「農産加工品のおいしさは、その原料によって7割が決まる」という考え方を大事にしており、その想いが原料調達にも活かされているのだそう。フルーツの調達拠点は世界各地に広がっており、海外ではチリと中国に自社拠点を置いているが、くちどけフローズンのいちごは原料調達の面でも苦労があったそうだ。

「チリのいちご畑での収穫から現地工場での大量生産に繋ぎ合わせるのに苦労しました。いちごの熟度やひとくちで食べることのできるサイズ感などにこだわっています。農家の方を含めた、関係者のみんなで協力することで、これまでのアヲハタになかった商品を発売することができました」

■商品の魅力を広めたい!クリームソーダブームの火付け役「旅する喫茶」とのコラボカフェ開催
ジャムで培ってきたアヲハタのフルーツ加工技術がくちどけフローズンという新しいジャンルの商品を生み出した。しかし、まだ認知啓発の余地があるとアヲハタでは考えている。

「徐々に取り扱い店舗を増やしているところではありますが、まだまだこれからというところです。ただ、さまざまなイベントを通じて実際にお客様に食べていただくと、非常に評判がよく、手応えを感じています。セブンーイレブンでの先行販売時も、冷凍フルーツとして平均以上の売り上げを獲得していました。昨年アヲハタのオリジナルブランドとしてローンチもし、もっと『くちどけフローズン』を広める余地があると考えています。特に、日本人のフルーツ摂取量は減少傾向にあり、特に若年層ではそれが顕著です。厚生労働省が推奨している一日の摂取量200グラムに対し、100グラム不足しているというデータもあります。理由としては、ヘタをとったり、皮を剥くといったりした処理が面倒、ゴミが出る、日持ちがしない、高価といった要因が挙げられます。これに対し、くちどけフローズンは冷凍食品ですから日持ちもしますし、“凍ったままでやわらかい”ということで、いつでもどこでも気軽に食べられます。また、スイーツが食べたくなったときに、くちどけフローズンであれば、ヘルシーに楽しむことができます。こういったことから、若年層をターゲットに表参道でポップアップカフェを開催することにしました」

ポップアップカフェ「アヲハタフルーツパーラー」は「デアイ・ソラ・ツナガル」をキャッチコピーに、日本全国を巡り、地産食材を使いながら旅をするように開店する出張型喫茶店「旅する喫茶」とタイアップ。くちどけフローズンとまるごと果実を使ったクリームソーダとパフェを提供する。

「私たちの考えるフルーツの世界観を作ってもらえるところはどこかとリサーチをしていくなかで、『旅する喫茶』に行きつきました。結果、期待以上のものを作っていただけました」とメニューに自信をのぞかせる。

「旅する喫茶」は自然に溶け込むような美しいクリームソーダが特に人気。アヲハタフルーツパーラーで提供される4つのクリームソーダも美しい空をテーマに作られている。

「アヲハタフルーツパーラーは2024年3月7日(木)からの1週間限定開催ですが、レシピを公開しているので、自宅でもクリームソーダやパフェを作っていただけます。ポップアップカフェを通じて、くちどけフローズンやまるごと果実の魅力が伝わればうれしいです」

ポップアップカフェ「アヲハタフルーツパーラー」では事前予約制の席と当日席を用意。事前予約はすでに満席となっており、注目度の高さがうかがえる。表参道という立地、期間限定という特別感、ビジュアルの高いメニューとあって、集客もさることながら、SNSでの拡散力にも期待できそうだ。

アヲハタではポップアップカフェを皮切りに、さらなる広告戦略を図り、顧客接点を作っていきたいとしている。もちろん、現在いちご、白桃、青りんごと3種類ある「くちどけフローズン」のさらなる展開も視野に入っている。3月13日(水)には「くちどけフローズン いちご スムージー用」の販売が控えている。

「お客様から『くちどけフローズン』はスムージーにしてもおいしそうというお声をいただき、新たなラインナップに追加された商品です。通常の冷凍フルーツはカチカチに硬いので、ミキサーにかけにくいこともありますが、くちどけフローズンだとその心配がありません。果汁につけてあるため、そのままでも程よい甘さがあり、砂糖やハチミツなどを追加せずとも手軽においしいスムージーを楽しんでいただけます」

新たな事業展開として冷凍食品に本格的に乗り出したアヲハタ。フルーツの新たな“続き”を見せてくれそうだ。

この記事のひときわ#やくにたつ
・成長のためには、ひとつの事業に囚われすぎない
・培ってきた技術を大切に、次の事業に活かす
・広く知ってもらうために“拡散力”を狙う

取材・文=西連寺くらら