“観光のまち”のイメージが定着している奈良市だが、身近な暮らしのそばに大自然や世界遺産があり、大阪や京都にも乗り換えなく行けるアクセスのよさ、さまざまな子育て支援や最先端の教育等、奈良市で“暮らす”よさは、たくさんある。そんな奈良市で“暮らす”魅力を集めた冊子がある。「ならりずむ。」だ。移住検討者への配布や協力各所に配架している奈良市移住ガイドブックで、“暮らし”にスポットをあて、移住を検討している人にとっての「まちの情報収集」として重宝されている。
奈良市は、5年連続で転入超過している好調な状況下で、この「ならりずむ。」をさらにパワーアップさせた。2024年2月上旬に冊子をリニューアルした理由やリニューアルポイント、移住者の増加の理由などを奈良市の担当者に話を聞いた。
■奈良市が取り組む移住支援
奈良市では、2020年6月からオンライン移住相談を開始。また、2021年度11月からはお試し移住支援制度も開始。昨年2023年度の利用組数は36組、153泊で、利用後アンケートでは利用者満足度100%を達成。さらに42%が「移住を決めた」、33%が「移住への意欲が高まった」、25%が「時期は未定だがいつか移住しようと思う」と回答し、100%の移住意欲が向上したという。
このような状況のなか、「ならりずむ。」は、主に大都市圏で働き、転職、結婚等を機に移住を考える20代後半〜30代(子育て前〜子育て世代)や、全国にいる「奈良ファン」「奈良県出身者」、4月から奈良市で新生活をスタートする大学生・社会人などを読者層に想定。まず「奈良市に住んでみたい」「関わりたい」という思いを持ってもらい、次のアクションにつなげてもらいたいという。
■「ならりずむ。」リニューアルポイント
今回のリニューアルでは旧版から8ページ増量し、「家族世帯」「東京圏在住の若者」「お店の経営者」など複数の属性の移住者インタビューを掲載。いろいろな属性の読者に「私も」と共感してもらえる内容となっている。奈良市観光大使であり、若者に大人気のロックバンド「THE ORAL CIGARETTES」の山中拓也さん(Vo/Gt)のスペシャルインタビューも掲載。邦ロックシーンの最前線で活躍する山中さんが感じる奈良の魅力も興味深い。
また、旧版から8ページ増量した今回のリニューアルでは、移住相談でよく寄せられる「知りたい情報」や「気になる点」をもとに、特に以下の5つの点を充実させたという。
1.市外から移住してきた人の本音インタビュー
いろいろな読者に“私も”と共感してもらえるよう、「子育て世帯」「東京圏から移住した若者」「宿兼カフェを営む店主」「好きを仕事にした人」など、複数の属性の移住者を掲載!「勤務地は大阪で住まいは奈良市」という属性の移住者の声も掲載することで「職場と暮らしは分けられる」という可能性を提示し、大阪在住の移住検討者へ訴求。
2.暮らしを豊かにするスポット紹介
「自分にとって暮らしやすいエリア」を想像してもらえるよう、スーパーや病院、図書館など日常に関わりの深い施設をマップに掲載!市内に加えて近隣市のおすすめ施設を紹介することで、市内外問わず生活圏内に暮らしやすい環境が整っていることを訴求。
3.若者へ向けた今後のまち計画の紹介
「リニア開通」「JR新駅設置」など今後の計画を紹介することで、奈良市の明るい未来を提示し、若年層の移住検討者へ訴求。若者支援が充実している奈良市ならではの、意欲的な学生に向けた新しくユニークな取り組みを紹介!
4.子育て・教育情報の提供
「共働き子育てしやすい街ランキング2022」(日本経済新聞社・日経xwomen)にて関西1位に選ばれた、奈良市の充実した子育て施策を紹介。GIGAスクール構想に基づいたICT教育をはじめ、AI学習ドリルの導入や奈良市ならではの学び「世界遺産学習」など、独自の先進的な教育施策を掲載!
5.働き方や仕事探しの方法を紹介
いろいろな読者に就業にあたる不安を払拭してもらえるよう、移住者アンケートを実施し、実際に寄せられた数々の仕事探しの方法を紹介!自分のスタイルに合わせて働ける場所「コワーキングスペース」も紹介することで、「勤務地にとらわれない暮らし」を求める移住検討者へ訴求。
■奈良市の移住定住促進係の担当者に話を聞いた
今回の「ならりずむ。」のリニューアルや、転入者の増加、移住に関する施策などについて、奈良市 総合政策部 秘書広報課 移住定住促進係の高松明弘さんに話を聞いた。
――「5年連続転入超過」だそうですが、転入者が増加していることについて、どのような理由や背景があるのでしょうか?
【高松明弘】奈良市は多くの方が一度は来られたことがある観光地として知られている一方、2022年には0〜14歳の年少人口の転入超過数で関西1位になりました。「共働き子育てしやすい街ランキング2022」(日本経済新聞社・日経xwomen)で関西1位に選ばれるなど、子育て支援・教育環境の充実に力を入れているまちと知って、移住のお問い合わせをいただくことも増えています。教育環境では、奈良県は東大・京大の合格者率がたびたび全国1位になっていることや、ひとり1台配布されているタブレットPCを積極的に活用したAIドリルの採用などの奈良市版GIGAスクール構想も進んでおり、よりよい教育環境を選んで来られる方も多いです。
【高松明弘】奈良市がニーズを捉えて、全国に先駆けて取り組んでいることも多いです。たとえば、共働きのご家庭では学童保育(放課後児童クラブ)を利用される方も多いですが、夏休みなどの長期休暇には給食がないため、お弁当を作らないといけないのが負担となっていました。そこで奈良市では、お弁当事業者様と連携して、お弁当給食のような形で希望者に配達してもらうことにしたところ大変好評をいただきました。
【高松明弘】また単身で移住される方も多く、自然が豊かで、おいしい食材が豊富なさとやま地域も近くにあり、大阪・京都の都市圏へのアクセスもよい。地元の魅力も多い。地価も大都市に比べると高くない。物価も関西で一番低い、災害が少ない、人がよいなど、「選ばれるまち」としての条件もそろっていると思います。
――(転入超過した)この5年の中にはコロナ禍の時期も入っていると思うのですが、増加にはコロナ禍の影響などもあったのでしょうか?
【高松明弘】移住の問い合わせはコロナ前の3倍以上になりました。東京から移住されたある方は、コロナ禍でオンラインでの仕事も増えたことで、1カ月近く宿泊施設の1室を借りてお試し移住をされて、テレワークしながら奈良市での暮らしを確かめられて移住を決断されました。この「お試し移住支援制度」は、コロナ禍でインバウンドなどの観光客の方がいなくなり、ゲストハウスの空室が続いていることを聞き、逆に増えていた移住ニーズとうまく重ね合わせて立ち上げました。移住をサポートしてくださるゲストハウスなどの小規模の宿泊施設と提携し、2泊以上の移住目的の滞在に対して1泊あたり2000円分、最大10泊で2万円分を金券(QUOカード)で支給しています。制度を開始して2週間で90泊が完売するという大きな反響があり、驚きました。
【高松明弘】奈良市は観光地であるため、ユニークなゲストハウスや町家の一棟貸しの宿も多く、奈良での暮らしを体験することができます。しかも、ゲストハウスのオーナーの方々はみなさん情報通だったり、お話がおもしろい方が多いんです。親身になって移住相談に乗っていただいたり、少人数の交流会も開いてくださったり、移住検討者の方とその方に合ったまちの魅力(人やお店やイベントなど)をつないでくださいました。これまで100名以上の「お試し移住」をサポートしていますが、お試し移住後のアンケートでは、4割の方が移住を決定。9割以上の方が「移住したい気持ちが高まった」と回答してくださっていてとても好評なので、うれしく思います。
――実際に転入された方はどのような点に魅力を感じて転入されているのでしょうか。また転入者の声などがあれば教えてください。
【高松明弘】それぞれに奈良の魅力を発見していただいているのだと思いますが、「歴史あるものと新しいものが、とてもよい感じに共存している」と言われることも多いです。地元の中学生がプロのクリエイターの方と一緒に考えた海外に向けた奈良市の英語スローガン「Old History, New Discovery.」というフレーズもまさにそれを表しているように思います。古くからの町家やどこか懐かしい昔ながらの街並みもあれば、食材などにこだわりと世界観を持って開業される新しいお店やイベントもたくさんあります。
【高松明弘】また、主張や押しつけが強くなく「こんなところにお店があったんだ!」と発見することもよくあります。奈良のまちならではの魅力を探しながら暮らせる「宝探しのようなまち」だと思います。子育て世帯の方にとっては、歴史遺産が豊富で日本らしさの原点のようなものがたくさんあるので、将来お子さんが日本で活躍されても、世界に出られたときでも「日本のはじまりの地・奈良で育った」ということを誇りに思って奈良を語ってもらえるとうれしく思います。「奈良の空気感がよい」とも言われますが、これは訪れてみないと感じてもらいにくいかもしれません(笑)。
――「ならりずむ。」について、リニューアルのきっかけは何だったのでしょうか?
【高松明弘】奈良市では毎年さまざまなことに挑戦しており、毎年バージョンアップしたり新しく加わったプロジェクトもたくさんあります。本当は奈良市外在住の方向けの移住情報誌を、毎月月刊で出したいくらいです(笑)。また4年前に「ならりずむ。」を発行したときは、オンラインでの移住相談も今のように盛んではなかったのですが、コロナ禍で毎日のように移住相談に対応させていただいたので「移住検討時にはこういう情報や視点が求められているんだ」ということがわかってきました。これまでも随時、メールで情報をお送りしていたのですが、やっぱり冊子で決定版として出したいと思いリニューアルすることにしました。
【高松明弘】大学進学を機に奈良市に住まれる方や、既に奈良市に住まれている方もあらためて奈良市に暮らすおもしろさや地域とつながるきっかけも知っていただけるように、移住マガジンを発行されている「TURNS」の編集部のみなさんと一緒に作らせていただきました。
――「ならりずむ。」リニューアル後の反響はいかがでしょうか。
【高松明弘】公開初日からたくさんの方からお問い合わせがありました。観光案内所や協力宿泊施設にも設置していますが、奈良観光のついでに奈良市役所に取りに来てくださった方もたくさんおられました。ホームページからも資料請求を受け付けており、以前資料請求いただいた方の中には「前回もいただいたのですがリニューアルされたと聞き、連絡しました」というリピーターの方もおられます。今は「二地域居住」といって、関東と実家がある奈良を往復しながら仕事をされる方もおられます。ぜひ、いろいろな形で奈良市との関係性を深めていただけるとうれしく思います。
【高松明弘】実はこれからも新しく移住者の方を歓迎する取り組みを進めていきます。ぜひ「ならりずむ。」を読んでいただき、載せきれていない情報もたくさんあるので、最新情報は奈良市公式LINEでゲットしてください!そしてぜひ一度、「お試し移住」を試しに奈良市にお越しください!!
今回、取材に応じてくださった高松さんも実は移住組で、31歳のときに子育てを機に県外から(出身地である)奈良市にUターン移住をしてきたのだそう。「散歩や早朝のランニングコースが世界遺産の観光コースだったり、コンサートやイベント、少人数でのワークショップなど人がつながる機会もあります。世界でトップになられた有名なバーテンダーの方が経営するバーや評価が高いレストランなども多く、多様な魅力を発見しながら楽しんでいます。子育てするにも子育て広場や川辺での水遊び、近くの公園など、とても恵まれた環境で子育てできて、移住して本当によかったです」と、自身の移住の感想も語ってくれた。
奈良市について、「広い空の下で自分らしい暮らしを実現したい・人とのつながりを大切にしたいという方に似合うまちだと思います」とも語っていた高松さん。これから移住を考えている人は、Webでも読める「ならりずむ。」や奈良市のお試し移住支援制度などをチェックしてみては。
取材・文=矢野 凪紗
5年連続転入超過!奈良市に移住者増加!!利用後アンケートで100%の人が移住意欲を示す“お試し移住”とは?
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