大学の研究室や企業の実験室、病院などで必ずと言っていいほど使用されている「キムワイプ」。文系にとってはあまりなじみがないかもしれないが、理系の人たちからは"知名度100%"と言っても過言ではないほどに浸透している製品だ。

キムワイプは、日本製紙クレシア株式会社(以下、日本製紙クレシア)が製造・販売している紙ワイパー。2024年で発売55周年を迎えるこの製品は、実験や研究のお供として、長年日本の科学技術の向上を下支えしてきた存在だ。

今回は、日本製紙クレシア マーケティング総合企画本部 マーケティング部のキムワイプさんに、キムワイプという製品の概要やX(旧Twitter)で大人気の理由、そして発売55周年を記念しての取り組みなどについてインタビューを行った。

■"理系御用達"のキムワイプとはどんな製品?
キムワイプとは、アメリカの大手製紙業キンバリー・クラーク社が開発した産業用紙ワイパー。この会社はもともと、理美容向けとしてお客様の首に巻く紙製品を販売していたが、第二次世界大戦に突入して物資が不足するなか、レンズの研磨技師が布の代わりにこの紙で代用していたという。そこから発想を得て、光学レンズの拭き取り用紙として、1942年に「キムワイプ」が開発された。

「1969年3月にキンバリー・クラーク社と日本製紙クレシアが提携し、日本でも販売開始しました。キムワイプは拭き取りに特化した紙ワイパーで、試験管やピペットなどの試験器具についた水分や汚れを、毛羽を残さず拭き取ることができます。実験や研究ではわずかな不純物が結果に大きく影響するため、繊維くずが出にくいキムワイプが重宝されています」

キムワイプの表面は特徴的なでこぼこザラザラ感のある感触。これは「鬼クレープ加工」と呼ばれる強めのしわ加工で、拭き取りに特化している形状だ。吸水性をよくしたり、吸水したものを逃しにくくしたりするための構造で、これのおかげで試験器具を汚れから守り、綺麗かつ清潔に保つことができる。

「また、よく『キムワイプとティシューはどう違うの?』と聞かれるのですが、最も大きな違いは原材料です。キムワイプは丈夫でざらっとした紙質になる『針葉樹チップ』を使用しているのに対し、ティシューは、柔らかくてふんわりした紙質になる『広葉樹チップ』も使用しています。キムワイプでの拭き取り後に繊維くずが出にくいのは、このような紙質も影響しています」

ちなみに、キムワイプという製品名は「キンバリー(Kimberly)」の"kim"と、「拭く」を表す"wipe"の2つの言葉が合体してできたのが由来。たまに「韓国の人と関係あるの?」という質問をされるそうだが、特につながりはないそうだ。

■SNSで大人気!熱狂的なファンを獲得しているワケ
今や、"理系の必需品"として研究室や実験室などで日常的に使われているキムワイプ。圧倒的な支持を得ている理由は、発売から55年もの間変わらない高品質な製品を提供しているからだ。そのため、長年愛用しているファンも多いのが大きな特徴。キムワイプさんは「品質を保ち続けることを心がけて製造・販売しています」と話す。

そんなキムワイプはマーケティングにも注力している。特に、SNSでは主に個人消費者向けに訴求をしており、"知る人ぞ知る製品"として、理系のユーザーを中心に熱狂的なファンを獲得している。SNSはXをメインに日本中にキムワイプの魅力を発信しているおかげで、新たな顧客獲得にもつながっているのだとか。

「SNSでの発信のおかげで、一般の消費者様に知っていただく機会も増えています。特に、毎年エイプリルフールは力を入れています(笑)。実験や研究に縁がない方からも興味を持っていただいていることも多く、とてもうれしく感じています。そのおかげか、最近ではホームセンターなどにも置かれていることが多く、昔以上にお買い求めやすくなっています」

ティッシュのようにボロボロにならず、繊維クズも出にくいキムワイプは、実験や研究以外の使われ方をされていることも多いそうだ。プラモデル制作でのホコリ除去、ジェルネイル用の筆の掃除、万年筆のお手入れ、アクリルの彫刻作品への墨入れなど、さまざまな場面で活躍。日本製紙クレシアも把握しきれていないほどの多種多様な現場を支えている。

「SNSを運用していると、ユーザーのキムワイプへの愛を強く感じることができ、とてもうれしいです。また、キムワイプの驚きの使い方をされている方がたくさんいて、投稿を見るたびにびっくりしています。SNS発信の方針としては、理系の方々をはじめ、刺さる人には思い切り刺さる投稿をしていて、それを見たファンのみなさまが盛り上がってくれているので、すごく楽しいですね」

なお、一部界隈では「キムワイプおいしい!」というフレーズがミーム化しているのだとか。過去にはキムワイプを天ぷらにした人もいたそうだが、キムワイプさんは「絶対に食べないでください」と警告している。

■発売55周年!キムワイプの今後の展望は?
2024年3月で日本発売55周年を迎えたキムワイプを祝い、日本製紙クレシアはさまざまなイベントやキャンペーンを開催する予定だ。そのなかのひとつが、「キムワイプ発売55周年記念 ワイ!ワイ!キャンペーン」。これは、製品ダンボールのケースに印字されたIDを集めて応募すると、オリジナルグッズがもらえるというものだ。

「終夜実験や休憩時に使えるキムワイプ(S-200)の体積55倍クッションや、現場で大活躍するキムワイプ台車、オーバーサイズシルエットのキムワイプジャケットなど、抽選でオリジナルグッズが当たります。また、キムワイプ折りたたみコンテナやキムワイプ・キムタオルマグカップなど、絶対もらえるグッズもあるので、ぜひご応募くださいね!」

また、2024年はアニバーサリーイヤーとして、3月からの55周年パッケージの限定発売や、55周年の歴史を振り返るイベントの開催、そしてキムワイプを日常から使用している方々に"#キムワイプ愛"を叫んでもらうWebコーナー「キムワイプと私」の連載など、さまざまな施策を行っている。

最後に、キムワイプさんに今後のキムワイプの展望を聞いた。

「これからも高品質な商品をお客様に提供していくとともに、『やっぱりキムワイプじゃないとね』や『キムワイプがないとダメだよね』といった、なくてはならない存在を目指していきたいです。実験室や研究室での"縁の下の力持ち"として、ものづくりや研究開発の現場で愛されるような商品であり続けていきたいです!」

「満足していただける安定した品質を保ち続けながら、一般家庭をはじめ、新しいユーザーにも届けていきたい」とキムワイプさん。理系からの絶大な信頼を得て、数多くのファンに愛され続けているキムワイプ。今後もさまざまな場面で使用され、日本の科学力を支え続けていくだろう。

この記事のひときわ#やくにたつ
・「信頼」と「実績」はロングセラーの必要条件
・ターゲットを特化することもマーケティングの要
・愛される製品には、熱狂的なファンがつく

取材・文=福井求(にげば企画)