プロの声優や俳優が朗読した本や多様なポッドキャストが楽しめる音声エンターテインメントサービスのAmazonオーディブル(以下、Audible)。

湊かなえさんのサスペンス短編集『サファイア』が、俳優の永作博美さんの朗読で配信されます。

収録を終えた永作さんに朗読の感想や、湊かなえ作品の魅力、朗読を通して俳優として考えたこと、そして何かを始めたくなる春、何かものごとを“続けること”についての考えを伺いました。

朗読をしながら、世界がどんどん広がっていく感覚を味わえた

Audibleでは、江戸川乱歩作品の朗読の経験があるほか、朗読劇にも出演したことがある永作さん。そんな中、サスペンスの名手として高い人気を誇る湊かなえ作品のオファーを受けた際の印象は?

「湊かなえさんの作品は描写の繊細さがあるのと、衝撃的な出来事が起こるというすごくダイナミックなお話が多いので、それを表現するのは難しそうだなというのが第一印象。でも、役者向きな物語を渡されたなという印象もありました。日常でありながら衝撃的なことがたくさん起こる物語を、どういうふうに朗読で表現していこうかと、演出の部分の興味もありましたし。物語を読み進めていくと、表現の幅が必要になり、読むというより、芝居寄りになっていくような気がしました。果たして、私は朗読をするのだろうか、それとも芝居をするのだろうか、と、その境界があいまいになっていくような不思議な感覚でしたね」

朗読なのか、芝居なのか。実際、Audibleを収録してみて、永作さんはどんなことを感じたのでしょうか。

「実際にやってみたら、作品の内容もあって、やはり朗読だけでは補い切れなくなっていき、どんどん自分の持てるすべてを出し切らないと、これは終えられないぞという感じになってきました(笑)。朗読は大体いつもそうなんですけど、やってみたら思っている以上に難儀なことが多くて。ラジオドラマとか、物語を読む媒体は他にもいろいろあるんですけど、声だけで状況を説明するのって、すごく難しいんです。状況もあって、景色もあって、人もいて、さらに人は全部違う人で、というのを、一人でやることになりますから。美術さんも、衣装さんも、役者のことも、みんな全部やらないといけない。お芝居と似ている部分もあるけれど、そこがやっぱり違うところです。でも、ただ朗読するだけではなく、どんどん役者のやる内容寄りになっていて、何にでもなれるような気になって、そういう意味では世界がどんどん広がっていく感覚があったので、すごくワクワクしました。今回朗読しながら、私ってやっぱり役者なんだな、身に染みついてるものだなっていうのは思いました。何か引き出そうとしたときに、どうしても役者側で考えるようになっているというか」

朗読をすることで感じた、湊かなえ作品からあふれでる優しさ

2016年1月に放送された女性作家の短編小説を映像化したオムニバスドラマの一作、『サファイア』に収容されている「ムーンストーン」の主人公を演じたことがある永作さん。今回、どの短編が印象に残ったのでしょうか。

「大人のファンタジーが好きなので、幻想的な物語の『ダイヤモンド』かな。あとは、一度『ムーンストーン』を実写ドラマでやらせてもらったので、それを朗読として読んだらどういう感覚になるのかなって興味もあり、印象に残っています。実際、ドラマのときと全然違う感覚をたくさん味わえました。当時は原作を読んで、脚本も読んで、役者としてはお芝居の基本となる脚本の方が印象が強くて、この人物をどう動かそうかと考えながら読んでいたので、今回は全然印象が違いましたね」

そして、朗読することで改めて感じた、湊かなえ作品の魅力もあったそうです。

「一読者として作品を読ませていただいているときは、衝撃的な出来事や言葉が強く、鋭利な印象の作品だったのですが、朗読をしながら読んでみたら、とても優しくて、難しくない言葉をたくさん使われているんだなっていう印象が残りました。

読書として文字を追っているときって、先が読みたいと読み急いでしまうんですよね。朗読をする際は一字一字噛み締めながら、状況を想像しながら読むことになるので、より作品の世界観を体感できます。声に出して朗読をしたときに、物語の奥の方にあったような優しさがあふれてきたというか。湊さんは、本来はきっとこちらを書きたいんだろうなっていうのが見えてきたような気もしました。

それから役者として、朗読し、描写を読みながらセリフも読むというのは、演じるうえでのヒントをたくさんもらえてる気がして、すごく楽しかった。自分が役者として脚本を読む際、セリフとト書きで作っていきますが、台本に情景を書き込んだらもっと膨らむような気がしましたね。例えば喫茶店ひとつとっても、どういう喫茶店なのか、どこに座っているのか? 私は普段から絵を想像し、語りとかも想像しながら読むんですけど、そこからさらに色をつけて、匂いをつけて、天気もつけていくなど、お芝居をするときももっともっとやれることがあるんだと、できることが膨らんでいくような嬉しい感覚がありました」

続けることに縛られず、自分に厳しくする必要もない時代へ

永作さんは、個人的にAudibleを利用したことがあるとのこと。その上で「サファイア」をどんなシチュエーションで聴いたら楽しめるのか、アイデアも教えてくれました。
「今回私が読ませていただいた『サファイア』は、夜しっとりと聴くのもいいと思いますが、どちらかというと活発な時間に楽しく聴いてもらった方がいいような気がします。バラエティに溢れている作品なので、そういう意味でも昼間の公園とかで聴いても楽しいと思います。これからの季節的にも日向ぼっこしながら聴くと、気持ちよさそう。就寝前だと、もしかしたら聴きこんでしまって、逆に目が冴えて眠れなくなってしまうかも(笑)」

通勤や通学途中・家事をしながらのながら聴き派か、しっかりと聴きこんで楽しむ派か。自分が楽な方で楽しんで欲しい、と自由なスタンスの永作さん。

「ながら作業が得意な人もいるし、逆に聴きこんでしまう人もいるし、それぞれの生活の中のシチュエーションで楽しむ感じですかね。自分が楽なシチュエーションで聴くのがいいと思います。耳で聴く、音で聴くって、自分の世界に入れるじゃないですか。今回、個人的にはしっかり聴くのも面白いと思いました。国語がよくわかります。何のための接続詞なのか、何のためのこの人のこのセリフ、何のための行動なのかとか。声に出していると、作者の技法や思いがより強く伝わってくるように思いますね」

最後に、新生活が始まる春ということで、“続けること”について、永作さんに伺いました。お仕事面で続けてきたこと、プライベートで続けてきたことはありますか?

「続けようと思って続けていることはないのですがーー大切にしているスタンス、みたいなものはあって。ファーストインプレッション、最初に受けた感覚はずっと大事にしているような気がします。頭で考え出すと、たくさんのトピックスが出てきてしまうというか、最初の純粋なところを忘れてしまうことがあって、そうなってくると迷ったときに行き着くところがなくなってしまうので、最初の軸というのをしっかり忘れないように書いておくときもあります」

さらに、永作さん自身が抱いている“続けること”のイメージについても伺いました。実現するのが困難なものなのか、もしくは比較的簡単に達成できるものなのか。もしくは良いことなのか、はたまた少し時代遅れな印象なのでしょうか。

「続けるということ、それ自体に関して、個人的にはあまり固執しない方がいいと思うタイプですね。続けられる人というのは、意志が強い人だと思っています。続けようと思ったとき、何が大事かというと、あー嫌だな今日、って思ったとき、やるかやらないか、ただそれだけですからね(笑)。調子がいい時は問題ないけれど、さぼっちゃおうかなーって思っていても、頑張ってやれたら、すごく自分にご褒美をあげたくなりますよね。だから、続けたっていう印象が、強く残ることが大事なんですものね。嫌だなって思ったときに、それでも何度も超えているうちに続けられるようになる。続けることって、結構ハードルが高いと思うし、それゆえ、世間一般で見たら賞賛もされる素晴らしいことなんだと思います。

でも、私自身は多分、それに縛られるのが嫌なんだと思います。

これだけモノがたくさんあって、毎日たくさんのことをしなければならない時代になっています。裏を返すと、いろんな手段があって、簡単にいろいろ始められますよね。趣味のようなことは特に。これだけ簡単に手を出せるのなら、何か上手くいかないことやちょっと違うかもって思っていることを『頑張って続けなきゃ』に囚われて目的を見失うまで厳しくする必要はないんじゃないかなって。変わっていく時代に合わせて、“楽しく”シンプルに生きられるようになるといいですね。ときに休んでもいいと思います」

そういって、にこりと笑ってくれた永作さん。芯があるのに軽やか、可憐なのに妖艶など、相反するものを絶妙なバランスで併せ持つ姿が、とても美しい、大人の女性でした。

変わっていくこと、続けていくことのバランスも、きっとそれぞれの人のなかに、“美しい”と思える塩梅があるはず。軽やかに自分らしく新しい一歩を踏み出してみたい、そんな気持ちが湧き上がってくるインタビューでした。


PROFILE
永作博美さん

ながさく・ひろみ 1970年、茨城県生まれ。1994年、女優デビュー。2011年、映画『八日目の蝉』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞受賞。近作に映画『ソロモンの偽証』『夫婦フーフー日記』『朝が来る』、ドラマ『半径5メートル』NHK朝の連続テレビ小説「舞いあがれ!」などに出演。

Audible会員プラン登録で、12万以上の対象タイトルが聴き放題。
『サファイア』
『告白』『母性』など、数々のミステリー小説を執筆している湊かなえの、宝石にちなんだ短編集。美しい宝石に秘められた深い謎と人々の祈り。7つの恩返しの物語を収録する。恋人に「指輪が欲しい」と人生初のおねだりをした話など、さまざまな人間模様が描かれる。そこにどう宝石が絡んでくるのか見どころ。表題作他「真珠」「ルビー」「ダイヤモンド」「猫目石」「ムーンストーン」「ガーネット」全七篇。
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撮影/山本あゆみ スタイリング/岡本純子 ヘア&メイク/竹下あゆみ 文/杉嶋未来
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