春になって「何だかやる気が出ない」「体がだるいなあ」と思っても、それが自分の食生活に起因していると考える人は少ないかもしれません。管理栄養士の岡城美雪さんは近著「これだけ!脱うつごはん」(Gakken)の中で、「あなたのネガティブの原因、それは食べ物が作った症状です」と警鐘を鳴らし、特に調子の悪い時ほど「低血糖」を疑ってみるよう勧めています。低血糖が体に及ぼす影響や、血糖コントロールの重要性などについて、岡城さんに話を聞きました。

血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のこと。健康診断などで空腹時血糖値が126mg/dLを超えていると、糖尿病の可能性があるため、詳しい検査を受けることが望ましいとされています。一方で、血糖値が70mg/dL以下になると「低血糖」と見なされ、冷や汗や動悸のほか、意識障害、けいれんなど重篤な症状を引き起こすリスクが高まることがわかっています。

大学卒業後、高齢者施設や病院などで働いてきた岡城さんは、その後、フリーランスの管理栄養士として食事指導を続ける中で、一般の人に「血糖値が及ぼす影響」を正しく理解してもらいたいと考えたそうです。

「血糖値が高すぎることが原因で患う糖尿病については情報が多く、高血糖はよくないというイメージが定着しています。それに比べると低血糖は、あまり深刻に考えられてきませんでしたし、自分には関係ないことと思っている人が多いのではないでしょうか。でも、空腹のときにイライラするのも、満腹になって眠くなるのも、血糖値の低下が引き起こす症状なんです」と岡城さんは説明します。

「集中力がない」「やる気が出てこない」「何だか体が重いし、だるい」という時も、体が「これ以上の低血糖は避けないと危険だ」と判断して、一時停止モードに入っている可能性があるそうです。

岡城さんは「不調の時に『低血糖を起こしているのかな?』と考えれば、自分を責めて落ち込む必要もありません。食事の内容を振り返り、その時々で必要な栄養を補給することもできます。それに、ふだんから低血糖の状態を放置せずに、うまくケアしていくと、血糖値の乱高下は起こりにくくなっていきます。血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなることも防げます。逆に言えば、低血糖を放置してしまうと、高血糖にもなりやすくなる。そういう関係であることを多くの人に知ってほしいです」と強調します。

岡城さんは、セミナーやカウンセリングを通して、様々な人の血糖コントロールの相談に乗ってきましたが、最近、ある学習塾と連携して、受験生を持つ親の相談も始めました。受験生に24時間、最大2週間連続で血糖値を測る器具を装着してもらい、そのグラフを見ながら、生活の改善点を話し合っていくスタイルです。

「実際に血糖値を測ってもらうと、朝、なかなか起きてこないお子さんが実は低血糖だったということもありました。お母さんは『責めたって仕方なかったのですね』と納得されていました。成人の方でも、測ってみると、夜中に低血糖を起こしていることがあります。夜中の低血糖を防ぐには、夜寝る前にスプーン1杯のはちみつをなめるのが有効です」

セミナーでは、自身の失敗談に触れることもあります。「社会人1年目のころの私の食生活はひどいものでした。朝は家を出るギリギリまで寝ていたかったし、夜は疲れ切って夕飯を作る気力もない。コンビニ飯を歩きながら食べたこともありました。管理栄養士なのに、自分の管理もできていなかった……」。当時は、冷え性や生理痛もひどく、職場で動けなくなったこともあったそうです。高校生のころには、カロリー制限ダイエットをして、1か月に5キロ痩せたこともありました。食べ物のバランスよりも、ひたすら食べ物のカロリーを調べて、1日の摂取カロリーを設定範囲内に抑える方法です。

「目標の体重になったのに、毎日、異常な眠気やだるさがあって、幸福感はなかったです。無理をして減量したせいで、頻繁に低血糖を起こしてしまう体になったのだと思います。『何のために生きているのか……』とうつっぽくなりましたし、周囲からも心配されました」と岡城さんは振り返ります。

そんな“黒歴史”は、血糖コントロールを意識するようになってからは、すっかり過去のものになったといいます。今は、1日3食、栄養のバランスを整えた和食メニューを中心に取るようにしています。そして、補食として、出汁に少量の糖質(米粉、片栗粉、かぼちゃやじゃがいもなどのフレーク)を混ぜたスープを15分に1回くらいの割合でひと口ずつ飲みます。どこかに出かける時などは、ゴルフボール大の小さなおにぎりや干しイモ、甘栗などを持って行き、少しずつ食べます。

「一度にドカッと食べると血糖値も爆上がりしてしまいます。比較的血糖値が上がりにくい食べ物を選び、おなかが減ってからよりも、『まだ平気かな』というタイミングで口にして、ゆっくり噛みながら食べます。そうすることで、血糖コントロールができて、心穏やかに過ごせるようになったんです」と岡城さん。

これから血糖コントロールを始めたい人へのアドバイスとして、「食べ物を適切に選ぶことも大事ですが、まずは食事の時、口にした食べ物をよく噛むことなら、誰でも心がけられると思うんです。ひと口で30回以上噛む。主食は、飲み込みやすいパンや麺類よりも、米飯がいいですし、野菜を先に食べる『ベジファースト』よりも、『たんぱく質ファースト』がおススメ。糖の吸収速度が穏やかになります」と話しています。

ふだんは血糖値を気にすることがないという人が多いと思いますが、血糖値を適切にコントロールすることで、集中力が上がったり、気持ちを落ち着かせたりできるとしたら、血糖値を意識した食生活に取り組んでみるのもよさそうです。

(聞き手・読売新聞メディア局 永原香代子、撮影・秋元和夫)