職場でとる短時間の仮眠は「パワーナップ」と呼ばれ、導入する企業が増えつつある。最近は、立ち姿勢に近い状態で利用する仮眠ボックスや、光や音の効果を取り入れた仮眠室が登場するなど、取り組みが多様化している。

北海道旭川市の木材加工会社「広葉樹合板」を訪ねた。昼休みになると、社員が直径約1.2メートル、高さ約2.5メートルの円筒形のボックスに入っていく。同社が開発した「立ち寝ボックス」だ。

「立ち寝」といっても、頭、尻、すね、足裏の4点で体を支えるように設計されており体に負担はかからない。体格に合わせてクッションの高さも調整可能だ。扉を閉めれば人目は気にならず、キャスター付きで簡単に移動できる。加工作業などで疲労を感じた時によく利用するという女性社員(37)は「さっと一休みしてリフレッシュできる」と話す。

なぜ「立ち寝」なのか。社長の山口裕也さん(56)によると、キリンが立って眠る様子から「省スペースで、深く眠り過ぎずに仕事に戻れる」というコンセプトを思いついたという。大学などの研究協力を得て完成させ、キリンの昼寝を意味する「giraffenap(ジラフナップ)」と名付けた。

1台330万円。1月に発売すると、3社1自治体が導入を決めた。このほかにも企業や病院などから約570件の問い合わせが寄せられているという。

経済協力開発機構(OECD)が行った2021年の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で33か国中最低だ。19年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、日中に眠気を感じたことが週3回以上ある人は男性の32.3%、女性の36.9%に上った。

こうした「寝不足社会」を背景に、パワーナップを取り入れる企業は増えつつある。

仮眠の「質」を追求したのは寝具メーカー「西川」(東京)。東京や大阪のオフィスに設けた「ちょっと寝ルーム」には、同社の最上級マットレスや抱き枕などが配置され天井にはプラネタリウムの星空が広がる。光や音が自動制御され、20分程度心地よく眠り、自然に目覚めるよう工夫されている。

三菱地所(東京)は1月、個室の仮眠チェアやマッサージ器具などを備えた「シェア休養室」を東京・大手町のオフィスビル1階に実験的に設置。「とまり木」の名称で仮眠スペースを持たない近隣30の企業・団体が共同利用している。

睡眠専門医で雨晴クリニック(富山)院長の坪田聡さんは「パワーナップは脳をリフレッシュさせ、疲労回復や生産性向上につながる。社員の『休み方改革』として積極的に導入すべきだ」と指摘している。

パワーナップを普及させようという取り組みも広がる。「世界睡眠デー」の3月15日の昼休み、睡眠を軸とした健康管理サービスを手掛ける「NTT PARAVITA」(大阪)は法人向けの体験イベント「みんなでパワーナップ」を開催。

サービスや医療、建設など30社の社員計133人が参加。各職場をオンラインで結び、動画を見ながらガイド音声に従って瞑想に取り組んだり睡眠の仕組みを学んだりした。

同社マーケティング部長の猪原祥博さんは「社員の不眠は会社として解決すべき課題。健全な経営の一環として仮眠の効果を見直す動きが広がっている」とみる。

パワーナップの手法についても研究が進む。

広島大の林光緒教授(睡眠学)は、夜の睡眠に影響しないよう正午〜午後3時に15〜20分の仮眠を勧める。ベッドや背もたれの傾斜は30〜60度程度にし、仮眠前にコーヒーや緑茶で適度にカフェインを摂取すると目覚めも良くなるという。「睡眠の実態を把握した上で、気軽にパワーナップができる職場文化の醸成や環境整備が求められる」と指摘する。

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立ち寝ボックスを体験すると、予想以上に姿勢が安定してリラックスできた。机の伏せ寝は気が引けるが、これなら気軽に利用できそうだ。(読売新聞生活部 岩浅憲史)