「一曲いかがですか?」

ギターをかついで飲み屋街をさすらい、客のリクエストに応えて歌や演奏を披露する人がいる。「流し」と呼ばれる人々だ。

全盛期だった昭和には、新宿だけで数百人の流しがいたとされるが、カラオケの普及などさまざまな要因で激減。現在はなかなか見かけない存在になっている。

そんななか、新宿ゴールデン街で活動する唯一の流しが、Be-B(ビービー)/和泉容(いずみよう)さんだ(2つの名義で活動。本記事ではBe-Bに統一)。

メジャーデビューやレコード大賞新人賞受賞など、ミュージシャンとしてそうそうたる経歴を持つBe-Bさん。なぜ流しになったのか、流しとしてどのような日々を送っているのか、取材した。

現場で歌うことが歌手にとって原点

22時過ぎ。カウンターだけの狭い飲み屋に、ボン・ジョヴィの曲が響き渡る。Be-Bさんによる引き語りだ。

力強く、静かに、激しく曲が進み、終わると拍手や歓声が巻き起こる。「ヒュー!」「めちゃくちゃ格好いい!」「次はこの曲をお願いします!」と客たちがまくしたて、Be-Bさんは笑顔で「ありがとう! ちょっと待ってね、のど乾いちゃった」と、おごられたジンのロックをぐいっと流し込む。

「じゃあ、いきますね」とギターを構え直すと、空気が一変。ライブの本番前さながらの、つかの間の静寂と緊張感を破り、再び演奏が始まった。